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JERAのシンクタンク「JERA Global Institute」を率いる宗國修治氏に聞く、エネルギー課題解決への“インテリジェンス”とは

JERAのシンクタンク「JERA Global Institute」を率いる宗國修治氏に聞く、エネルギー課題解決への“インテリジェンス”とは

2025.3.28

2025年1月、日本最大の発電会社であるJERAが、シンクタンク組織「JERA Global Institute」を始動した。これまでの調査・分析体制をベースに、新たに国内外のエネルギー動向を鋭く捉え、将来を見通す機能を強化している。

グローバル規模で高まる不確実性や地政学的リスク、さらには気候変動への対応や脱炭素社会への移行という歴史的な転換の中で、エネルギーをめぐる課題は国際社会全体の最も重大なテーマの一つとなっている。燃料調達から発電、電力・ガスの卸販売に至る一連のバリューチェーンを保有し、国内エネルギー市場をリードするJERAは、エネルギートリレンマとも呼ばれる「安定供給」「手ごろな価格」「脱炭素への移行」をいかに成立させるかという難題に挑む。

そんなJERAのこれからの戦略策定・意思決定を支える存在として誕生したのが「JERA Global Institute」。国際情勢の変化をいち早く察知し、地政学リスクやエネルギーの需給動向、技術革新の波をも捉え、経営判断の精度を高めていく──。新組織が担うのは、未来を切り拓く確かなインテリジェンス。その機能やビジョンを明らかにするべく、Head of Instituteとして精鋭チームを率いる宗國修治氏に話を聞いた。

「エネルギートリレンマ」に挑む──意思決定を支えるインテリジェンス

エネルギーは国民の生活や産業の根幹を支える極めて重要な生命線で、その安定供給は国家にとって最優先事項です。しかしここ数年、国際的な紛争、各国の政権交代や政策転換等による地政学的変動がエネルギーセキュリティを大きく揺るがし、人々の生活に深刻な影響を及ぼしています。一方で、脱炭素社会の実現や環境負荷の低減といった持続可能性の追求も、地球規模で重要な課題です。

例えば、近年の欧州では環境政策が重視され、エネルギーの安全保障への対応が比較的後手に回っていました。このような中、ロシアのウクライナ侵攻によってパイプラインガスの供給が断たれ、エネルギー価格が急騰。結果として欧州の産業競争力に甚大な影響を与えました。

また、アメリカの政治動向は、日々めまぐるしく変化するうえ他国へ与える影響が大きく、常に動向の注視が必要です。欧州でも政権の右傾化により環境政策や脱炭素戦略が大きく変わる可能性があります。政権の方針や政策動向を精緻にモニタリングし、世界のエネルギー情勢を把握しながら、常に的確に将来予測を示していくことが求められています。

JERA Global Instituteは、こうした先の読めない不確実な時代において、JERAの未来を切り拓く羅針盤となるべく誕生しました。シナリオ分析や予測を行い、将来のリスクと機会を的確に見極めながら、JERAの経営戦略に資する知見を提供していくシンクタンクとして、その使命を担っています。

「エネルギーの安定供給(Stability)」「手ごろな価格を実現できる経済性(Affordability)」「脱炭素社会への移行(Sustainability)」の3要素は、同時達成が困難な「トリレンマ」の関係にあります。この「エネルギーのトリレンマ」を同時に達成することは非常に難しいことですが、JERAとして、さらには日本や世界各国として、最適なバランスを実現しなければならない極めて重要な課題となります。

JERA Global Instituteは、JERAのミッションやビジョンと密接に繋がっています。私たち自身がビジネスを展開するわけではなく、JERAがめざすエネルギーの未来を実現するために、必要なインテリジェンスを提供するというのが私たちの役割です。私たちの調査・分析により得られた知見がJERAの意思決定や事業展開に影響を与え、その結果、安定供給、経済性の確保、脱炭素化を同時達成するエネルギートランジションという重要なテーマに貢献していくことになります。

変動する世界のエネルギー情勢をどう見極めるか

私たちに求められるインテリジェンスとは何か。例えば、世界のエネルギー需要が今後どのように推移するのか。中国の成長が仮に鈍化した場合、インド、東南アジア、欧州等のエネルギー需給はどのような影響を受けるのか。アメリカや欧州で景気後退が進んだ場合、エネルギー市場にどのような影響が及ぶのか──。

その答えを導き出すには、過去のエネルギー需給をもとに将来を予測するだけでは不十分です。政治・政策を踏まえた各国のマクロ経済の動向、技術革新や産業の進展、市場の動きといった、さまざまな要素を総合的に分析し、多角的な視点でエネルギー分野の全体像を把握することが重要です。

JERA Global Instituteの役割は、これらをしっかりとモニタリングし、地域の特性を踏まえながら、政治・政策やマクロ経済の動向がエネルギー市場に与える影響を深く調査・分析することにあります。

また、私たちは産業や技術の進展も重要なテーマとして扱っています。技術の進歩は、エネルギー市場に大きな影響を及ぼします。例えば、太陽光パネルの効率向上や、低コストで軽量・柔軟なペロブスカイト太陽電池の実用化、蓄電池・EV(電気自動車)の技術革新、水素・アンモニアなど、次世代エネルギー技術の発展・普及状況など、多岐にわたる要素を正確に予測することが求められます。

さらに、現在急成長中のデータセンター産業やAI、半導体分野は膨大なエネルギーを消費するため、こういった業界がどのように発展し、いつ需要が急増するのかを分析し見通すことは極めて重要です。

加えて、エネルギー価格の変動は、地政学リスクや経済動向と密接に関係しています。
原油や天然ガスの価格推移や、再生可能エネルギーのコスト低減が市場に与える影響など、市場の動きを捉えることも、JERA Global Instituteの重要な役割の一つです。

これらの役割を果たすうえで、JERA Global Institute は、事業会社であるJERAのインハウス・シンクタンクとして、実際のビジネス現場の知見を活かせる点を強みとしています。さらに、日本国内にとどまらず、グローバルなビジネス展開を背景に、各地域のエネルギー政策や市場動向を取り込みながら、より精度の高いインテリジェンスを提供しています。

エネルギーに向き合い続けた30年

私の社会人としてのキャリアは30年以上になります。その間、主に3つの分野で経験を積んできましたが、一貫してエネルギーに関わる仕事をしてきました。

第一の経験は、まさにこのJERA Global Instituteのテーマでもある「調査・コンサルティング業務」です。金融機関でエネルギー関連の調査やコンサルティングに長年従事してきました。次に、「数理分析」「数理モデリング」、そしてAIも含めた「技術開発」。三つ目が、「新規事業開発」「イノベーション」です。サステナビリティやSDGsを軸に、エネルギーや環境課題を考慮しながら、社会課題解決に向けたイノベーションを推進してきました。

長年エネルギー分野に向き合い、国内外のエネルギー情勢が大きく揺れ動くのを目の当たりにしてきました。今、日本がエネルギーとどう向き合うべきかは、これからの時代を左右する一層重要なイシューとなっています。

そうした中、自分のすべての経験を生かせる場としてJERAに参画し、新たな挑戦に踏み出しました。JERAの重要な意思決定を支えるインテリジェンスを提供する。その責任の大きさを実感しています。

「方向性を誤ることは許されない」JERAとJERA Global Instituteの使命

この10年、日本のエネルギー政策の方向性は、大きく変化しています。

JERA Global Institute設立にあたって特に重視したのは、「エネルギーに関するインテリジェンスが極めて重要である」という認識を組織全体で共有することでした。

日本最大の発電容量、そして世界最大級のLNG取扱量を有するJERAは、エネルギートリレンマという難題に対し、覚悟を持って取り組む使命があります。

JERAの一つひとつの決断が、日本のエネルギーの未来を担う。影響力の大きい企業だからこそ、その方向性を誤ることは決して許されません。JERAは国内にとどまらず、グローバルにおけるエネルギーの未来にも大きなインパクトを与え得る存在です。だからこそ、判断を間違えるようなことがあってはならないのです。

JERAのインハウス・シンクタンクとしてのJERA Global Instituteの役割は「誤った判断をしないためのインテリジェンスを提供すること」。私たちが経営層の意思決定を支え、エネルギーの安定供給や脱炭素の推進に寄与していかねばならない。メンバーの高い専門性とリサーチ能力、正確かつ的確な情報発信が極めて重要だと考えています。

JERA Global Instituteの成功は、個々のリサーチャーの努力と成果にかかっています。この組織を真に価値あるシンクタンクにするために、各メンバーの専門性を磨き上げていくことが、今後の成長に直結します。特定の分野で「このテーマならこの人に聞けば間違いない」と認識されるような第一人者を育てていきたい。深く掘り下げる探究心と、粘り強い姿勢を重視しています。

対話と共創が生む新たなインテリジェンス

JERA Global Instituteは、社外との連携にも積極的に取り組んでいます。他のシンクタンクとのネットワークを構築、大学や研究機関とも連携し、共同リサーチを行うことで、より深い知見を得ることを目指しています。また、エネルギー政策の方向性を示すには、一社の意見だけでは限界があります。業界関係者やアカデミアなどと対話を重ね、相互に意見を交わしながらコンセンサスを築くことが重要です。

JERA Global Institute のメンバー

幸いにも設立にあたり業界内外から広く関心を寄せていただき、ディスカッションの機会も増えています。外部との連携を大切にしながら、JERA Global Instituteのレピュテーションをしっかりと確立し、業界や社会から信頼される存在になりたいですね。

宗國 修治

株式会社JERA
JERA Global Institute Head of Institute
宗國 修治

1991年早稲田大学大学院理工学研究科電気工学専攻修士課程修了。同年日本興業銀行入行。99年スタンフォード大学経営工学及び統計学修士課程修了。2007年みずほ第一フィナンシャルテクノロジー金融工学第一部長。15年みずほ銀行産業調査部副部長。16年みずほフィナンシャルグループポートフォリオマネジメント部長。20年みずほ情報総研常務執行役員。Blue Lab代表取締役社長就任。23年7月にJERA入社、企画統括部でシンクタンク組織立ち上げ準備。25年1月、JERA Global Institute設立、Head of Instituteに就任。