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環境先進国の疑義を覆す、アンモニア活用の現実とは イメージ

環境先進国の疑義を覆す、アンモニア活用の現実とは

2023.11.24

地球規模での気候変動問題に対処すべく、世界中で様々なソリューションが模索されている。

そのなかで「2050年までにCO2排出実質ゼロを実現する」という目標を掲げ、その実現に向けた選択肢のひとつとして、石炭火力発電所の燃料を“アンモニア”にシフトさせていくことを掲げているのが、国内最大の火力発電事業者JERAだ。

炭素を含まないアンモニアは、燃焼時にCO2を排出しない。

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アンモニアを燃料とする火力発電が普及すれば、CO2排出量の多い電力分野の脱炭素は大きく進むと期待されている。

しかし、この新しいソリューションの受け止め方は、日本と海外で温度差がある。G7サミットやCOP(国連気候変動枠組条約締約国会議)などの国際会議では、「石炭火力発電の延命」「グリーンウォッシュ」との声もあがっている。

JERAは、こうした声をどう受け止めているのか。アンモニアは、本当に2050年までのCO2排出実質ゼロに貢献できるのか。JERA代表取締役社長CEO兼COO・奥田久栄氏に直撃した。

COPだけではわからない世界のエネルギー事情

―――COP28がUAE・ドバイで開催されます。気候変動対策を巡っては、先進国と途上国、国や地域によっても意見が分かれている印象がありますが、この状況をどう見ていますか。

奥田 本来、世界共通の目的は「全ての人が、クリーンなエネルギーを無理のない価格で十分に使える状況」を作ることです。

しかし現状は、「G7を中心とした先進国が作ったソリューションやルールを、新興国に広げれば脱炭素は進む」という風潮になっており、軋轢を生んでいます。

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環境先進国である欧州は脱炭素化を実現する手段として、再生可能エネルギー(以下、再エネ)の推進を主張していますが、再エネは日照時間や風量などの気象条件によって時々刻々の発電量が大きく変わります。電力を安定供給するには、常に電力の使用量と発電量をぴったり一致させなければならないため、火力発電や蓄電池など、ほかの手段を組み合わせて需給のバランスを一致させなければなりません。

欧米など大陸部には太陽光発電や風力発電など再エネ設備の設置に適した立地条件があり、また他国と陸続きになっているため、パイプラインや送電線を使ってガスや電気を相互に融通することもできます。

しかし、地理的条件や既存インフラ敷設の状況は、国や地域によって大きく異なります。こうした中で、人々の暮らしや産業を支える電力の安定供給を堅持しながら、脱炭素化を推進していくためには、各国の状況に合わせて最適なオプションを組み合わせることが重要かつ現実的なアプローチだと考えています。

―――国によって、最適なソリューションが異なるということですね。

不確実な未来に向けて、クリーンなエネルギーのオプションをできる限りたくさん用意すべき。それが我々の考えです。

たとえば日本では、太陽光発電設備の設置可能な場所は既に、かなり開発されています。そして日射量や発電機器を設置する土地のコストなども考えれば、従来の太陽光発電による発電量を今後、数倍に増やしていくようなことは難しいと思われます。

しかし脱炭素化に向けては待ったなしの状況ですので、これを推進していくためには、蓄電池や太陽光発電の新たな技術開発も必要ですし、先行する海外での洋上風力発電の開発や運営に参画してノウハウを蓄積したうえで、国内での開発に還元していくことや、日本の電力構成比の約8割を占める火力発電の燃料を、アンモニアや水素を活用してゼロエミッション化を進めていくなど、多くのオプションを用意していくべきだと考えているのです。

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世界からの疑問にどう答える?

―――アンモニアの燃料利用が先行していますが、海外からの反応はどうでしたか。

我々が水素やアンモニアを火力発電の燃料に用いる「ゼロエミッション火力発電」と「再生可能エネルギー」で2050年のCO2排出ゼロを目指すと宣言したのが2020年10月です。

その時、海外のほとんどの人は、頭の上にクエスチョンマークがつき、「なぜアンモニアを使うのか?」となったと思います。

―――なぜ理解が得られなかったのでしょう。

欧州では、再エネからつくる水素を気体のまま直接パイプラインに流して輸送し、利用する「クリーンな燃料と言えば水素」というイメージが定着していることから、「水素系燃料を用いて発電します」と言えば分かりやすかったかもしれません。

日本では再エネの絶対量が不足することから、国内で再エネ由来の水素を大量に製造することが難しく、海外で製造した水素を液化して船で輸送する方法や、より輸送や貯蔵のコストに優れるアンモニアへ転換して輸送する方法など様々な検討をしていました。欧州では輸送や貯蔵コストのことを考える必要が無かったので、アンモニアが脱炭素化推進の文脈として出てこないことから、ピンとこなかったのだと思います。

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しかし、この3年の間には、ヨーロッパで偏西風が吹かなかったことによる洋上風力の発電量不足や、ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー市場の大混乱があり、脱炭素に加えて「安定したエネルギー資源の確保」の重要性が認識されました。

こうした状況下で、多くの国が、エネルギーとしてのアンモニアの重要性に気づきはじめています。

たとえば、ドイツは水素社会実現のための政府プロジェクトを進めていますが、自国の製造量だけでは水素が足りず、輸送・貯蔵コストに優れるアンモニアの利用の検討を進めています。

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アジアの国々からの期待も高まっています。特に東南アジアは近年の経済成長に伴い、運転開始して間もない石炭火力発電所が多くあることや、島しょ部が多いことから再生可能エネルギーの設置場所に乏しく、また送電網も近隣の国とは連携されていないなど、日本と似た状況の国々が多くあります。

そうした諸国が脱炭素化を推進していくうえで、JERAが「ゼロエミッション火力発電」というソリューションをつくり、その技術やバリューチェーンを広めようとしていることが歓迎されています。

クリーンなアンモニアは増やせるのか?

―――アンモニアの製造時にCO2が発生するのではないかという指摘も聞きます。

アンモニアの製造、輸送、発電とそれぞれ課題がありましたが、私たちは三位一体で進めてきました。

発電においては、愛知県にある碧南火力発電所でアンモニアを燃料とした発電技術を開発し、2024年3月には燃料の20%をアンモニアに転換した実証試験を世界に先駆けて開始します。

脱炭素のプランA。なぜ日本はアンモニアを火力発電燃料に用いるのか

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また、発電する技術が確立されても、燃料として大量に必要となるアンモニアがクリーンに製造され、かつ低コストでなければ活用は拡がりません。

我々はクリーンなアンモニアの製造に直接参画していく予定です。クリーンなアンモニアには、天然ガスからアンモニアを製造し、その過程で発生するCO2を地中で吸収・固定化する「ブルーアンモニア」と、再生可能エネルギーを用いて製造する「グリーンアンモニア」があります。

我々はこれらを大量かつ安定的に調達するために国際入札を行い、世界的なアンモニア製造大手のCF Industries(米)とYara International(ノルウェー)と協業し、大規模な製造プロジェクトを進めています。

なぜ、アンモニアで「ゼロエミッション」が可能になるのか

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また輸送船を大型化することで、より低コストな燃料アンモニアの調達を目指します。現在、日本郵船、商船三井と共に、燃料アンモニア輸送船の開発や燃料アンモニアの輸送・受入体制を構築する検討を進めています。また、この輸送船においても、燃料としてアンモニアを使用する推進機関の開発を行うことで輸送時のCO2排出も抑制します。

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実はグリーンアンモニアを製造したいという企業は世界に多くあるのですが、まだマーケットに受け入れられる価格で供給できないことが障壁になっています。グリーンアンモニアの製造には再生可能エネルギーで作られた電気を用いますが、中東、豪州、北米などで製造すればまだまだ再エネのコストが下がる余地があります。製造に必要な電解装置の値段も中長期的に下がってくるはずです。

またアンモニアという燃料を安定した価格にするためには、世界全体で製造・供給の規模を拡大し、変動費・固定費を下げることも重要です。

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規模の経済性を成り立たせるため、我々だけがアンモニアを活用するのではなく、アンモニアを利用する仲間を増やしていくべきだと考えています。ドイツのエネルギー企業Uniperや日本の電力会社ともアライアンスを組んで、燃料アンモニアの技術開発、事業開発に協力するなど、仲間づくりを進めています。

「化石燃料の延命」という批判、どう変える?

―――規模の経済を確立するためにも、国際的な理解が必要です。「石炭火力発電の延命」という声はおさまるのでしょうか。

それが難しいところですよね。どこの国の人も、自国の現状から他国の取り組みを想像するものです。

日本でアンモニアの燃料利用への理解が進んだのは、過去の公害問題を乗り越えて火力発電所のクリーン化が世界最先端に進んでいることが背景にあると感じます。国内の石炭火力発電所では、いわゆる黒煙をもくもくと出すイメージのような発電所はほぼありません。

対して海外の一部の火力発電所では、まだもくもくと黒煙を出し、SOx(硫黄酸化物)やNOx(窒素酸化物)もあまり除去できていないものも少なくありません。このような発電所をイメージすると、「石炭火力の設備でアンモニアを燃やす」と聞いただけで拒否反応が出てしまいます。

実際、JERAがアンモニア火力の商用実験を進めている碧南火力発電所を視察してもらうと、驚かれます。「これが石炭火力なのか、煙が出ていないよ」と。

それに、我々のコミュニケーションにも問題がありました。アンモニアと石炭との「混焼」という表現が一人歩きして、石炭からクリーンなアンモニアに “切り替える”ということがうまく伝わっていません。

我々が目指しているのは、非効率な旧式の石炭火力発電所は全て停廃止したうえで、残る最新式の石炭火力発電所の設備をそのまま使うけれども、燃料である石炭を減らして段階的にアンモニアに転換していく、将来的にはすべてをアンモニアに転換し、石炭を“ゼロ”にします。それをしっかりと、誠実に伝えていくことが大事ですね。

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―――どうすれば、理解を得られると思いますか。

実際にどれだけCO2を減らしたかをモニタリングして、結果をお伝えしていくことだと思います。まだ始まっていない状態では「机上の空論」と言われるのは致し方ありません。

2024年3月から燃料の20%をアンモニアに転換した石炭火力発電の実証試験を行います。燃料の20%をアンモニアに転換するということは、石炭が20%減ることによって発電時のCO2排出も20%削減できるということ。こうした成果をモニターし、発信し続けることで、少しずつ理解が広まっていくと考えています。

将来的にはブルーアンモニアやグリーンアンモニアの製造工程や、輸送時のCO2排出量もきっちりと算出したいですね。

逆風を追い風にするのは組織

―――アンモニア20%の商用運転を実現した後、どんなロードマップを描いていますか。

まずは碧南火力発電所で50%、60%とアンモニアの利用率を上げていきます。並行して他の石炭火力発電所の燃料にアンモニアを利用する技術を水平展開します。

ここでインパクトのある実績を示せば、アンモニアは「有効な脱炭素のツールだ」と世界中に認めてもらえると考えています。

また、アンモニア以外にも、水素や再エネ、バッテリーなど、様々な次世代エネルギーソリューションの開発も、2050年に向けて準備しています。

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―――もはや火力発電事業者ではありませんね。

「世界のエネルギー問題に最先端のソリューションを提供する」ことがJERAのミッションです。

設立時から、柔軟かつ迅速にグローバルとわたりあえる新しいカルチャーの会社を作ることを目指してきました。

2020年頃、脱炭素が世界の課題になる中「JERAはどういう答えを出すのか」という検討は社内の最重要事項でした。欧州勢は「再エネ100%」を打ち出し、世界のトレンドとなった。一方で、我々は世界中のすべての国々で脱炭素と安定供給を両立するには、再生可能エネルギーとゼロエミッション火力の相互補完で脱炭素を目指すべきだと結論づけました。

そもそも脱炭素化とエネルギーの安定供給の両立は、世界の誰もが解決したことがない問題です。新しいオプションを提示するときは、世間の「何それ?」というリアクション、つまり逆風からスタートするわけです。

次から次へと手を打ち、しぶとく発信することで、逆風を追い風に変える。それができないようでは、日本、そして世界の脱炭素と電力の安定供給は、両立しえないんですよ。

制作:NewsPicks Brand Design

※このコンテンツは、JERAのスポンサードによってNewsPicks Brand Designが制作し、NewsPicks上で2023年11月24日に公開した記事を転載しています。
https://newspicks.com/news/9134914
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