メインコンテンツに移動

企業のGXを加速する!「JERA Cross」 始動

企業のGXを加速する!「JERA Cross」 始動

2024.5.27

2024年5月、JERAは、企業における脱炭素の取り組みを推進し、カーボンフリー電力の社会実装を担うことを目的に「JERA Cross」の設立を発表した。JERA Crossは、企業における脱炭素の取り組みを、コストからバリューに転換するという。これに協力したのは、世界3大戦略コンサルティングファームのひとつであるマッキンゼー。脱炭素化と事業成長の両立に悩む企業のために、エネルギー転換の実行から企業のサステナビリティ変革までを視野に、一気通貫で脱炭素化を進めるソリューション「GX(グリーントランスフォーメーション)」の提供を協力していく。これはマッキンゼーが有するグリーンビジネス構築に関する専門知識と企業変革に関する多数の実績を活かしたものだ。

今回、JERA Cross取締役執行役員CPO (Chief Product Officer)に就任する 一倉健悟氏に、そのビジョンや事業内容、またGX成功の鍵となる「共創」への強い想いを伺った。

企業向けのGXソリューションを提供する「JERA Cross」

脱炭素に向けた動きが世界的に加速している。日本政府はカーボンニュートラルの実現に向けた「グリーン成長戦略」を策定し、企業の多くは「事業のGX」が急務となっている。

「ほとんどの企業が脱炭素の目標を立てていますが、投資コストに対する将来のリターンが見えづらいことが壁となり、次の一歩を踏み出せないでいます。また、エネルギー調達に関するルールも難しく、担当者だけでは解決できない現状があります」

そう語るのは、JERA Cross設立前から企業のGXを手掛けてきた一倉氏。彼の目から見ると「今、日本の企業は脱炭素に向けた課題でがんじがらめになっている」という。

「私が対峙してきた自社の脱炭素を推進する部署の方たちは、本業がやりたくてその会社に入ったのに、それとは関係のないエネルギーに関する難題を日々突きつけられています。再エネ導入をしつつコストを低減するプレッシャーがある中で、そういう重荷から皆さんを解放したい。そんな想いから、JERA Crossは誕生しました」

JERA Crossが掲げるMissionとVision。まさに一倉氏の想いがそのまま言葉になっている。

JERA Crossという社名には、3つの「クロス」がこめられている。

企業の脱炭素化と事業成長を加速する

では、「企業を脱炭素の課題から解放する」ために必要なものとは何なのか? 一倉氏はDXによる変革を例に取り、次のように解説する。

「DXにも段階があって、最初はITシステムの導入がメインでした。しかし、DXの本当の目的は、ビジネスモデルの変革によって新たなサービスや価値を生み出すこと。システムの導入は、将来のリターンを見越した経済合理性のある投資でなければなりません。その点、GXはDXに比べてこのリターンが見えづらい。そのため、まずはJERA Crossが企業と直接的に売電契約を締結してグリーンな電力をお届けすることに一義的な意味はあると考えますが、それではCO2の削減のみが目的となってしまいます。DXでいうところのシステム化だけが目的だと、その先で行き詰まることになります。だからこそ、企業と一緒に事業の将来像を描き、エネルギーとビジネスの両面から段階的に変革を進めるサポートが必要なんです」

一倉氏の構想は、エネルギーの消費者である企業のビジネスモデル変革にまで踏み込み、GXによって新たな価値を共創すること。「事業が成長するほどCO2が減る」状態を作り出していくイメージだ。そのためにも、マッキンゼーの事業構築や変革に関するノウハウや実績が不可欠だったと言う。

「JERAはエネルギーの知見は豊富ですが、企業の5年、10年先を描く事業変革力が不足していました。GXによる変革を実現するにはこの事業変革力が必要で、多くの企業の変革を実現・支援してきたマッキンゼーのノウハウが大きな力になります。この取り組みは、マッキンゼーが私たちのビジョンに社会的意義を感じてくださったことで実現しました」

世界的コンサルティングファーム・マッキンゼーのノウハウを活用して、グローバルなエネルギーバリューチェーンを有するJERAの持つエネルギーの知見やデジタル技術を組み合わせた新しい脱炭素ソリューションにより、企業の脱炭素化と事業成長の両立を実現する。

GXに悩む企業のニーズに合わせた2つの入口

GXに直面する企業の課題は、業界によっても異なる。たとえば鉄鋼業界において製造工程のCO2排出量がゼロとなる「グリーン鉄」へのシフトなど、多大な設備投資がかかりビジネスモデル自体の変革を余儀なくされるケースもあれば、既存のビジネスモデルのままCO2削減を達成できるケースもあるからだ。

このような多様なニーズを受け、GXの上流から下流、つまりエネルギーの調達から、CO2削減の実行、そしてそのエネルギーから生まれる商品・サービスのコンサルティングまでを一貫して手掛けるJERA Crossには、2つの入り口が用意されている。

「多くの企業にとっての最初の入り口は、グリーンエネルギーマネジメントです。『目標年度までにCO2をどれだけ削減したい』といった課題を丸投げしていただければ、計画から実行まで全てJERA Crossで行います。先行して東宝や山梨県と共創していく、24時間365日、常にCO2を排出しない『24/7カーボンフリー電力』*も、このエネルギーマネジメントのメニューに入っています」

「24/7カーボンフリー電力」は、国連が国際イニシアティブ「24/7 Carbon Free Energy Compact」を設立し推進している。

映画制作というエンタテイメントのゼロエミッション化を目指し、東宝には日本初となる「24/7カーボンフリー電力」の導入を進めている。

関連記事:JERAと東宝 異業種コラボがめざす「CO2ゼロエミッション映画」

山梨県との共創では、「24/7カーボンフリー電力」や「グリーン水素」を活用し、カーボンフリーな地域社会の構築に取り組んでいる。

関連記事:山梨県とJERAが地域の水素活用を推進し、カーボンフリーな未来を共創!

グリーンエネルギーマネジメントの領域では、まずは再生可能エネルギーによるCO2削減が目標となる。しかし、そもそも何のために脱炭素化を進めているのか? このような根本的な問いになると、「うまく答えられない企業が多い」という。

「さまざまな企業にヒアリングしていると、事業全体としての脱炭素の目的がボヤッとしていることが多いんです。CO2削減だけを達成しても、その価値が商品やサービスに反映されなければただのコストになってしまう。結果として、GXによって変革した将来像を言語化し、脱炭素化と事業活動を同時にコンサルティングする必要が出てきます。それが二つ目の入り口、グリーントランスフォーメーションサービスの役割です」

GX成功の鍵となる「新トラッキング技術」を導入

JERA Crossが特に強みとしているのが、「エネルギーを届け、運用する」フィールドだ。JERAが有する発電に関する上流側のデータやデジタル技術と、マッキンゼーのノウハウを活用した新しい電力データによるUX(ユーザー体験)を、お客様の電力消費に関するデータに掛け合わせれば、これまでにないエネルギーの使い方が見いだせる。

「これらのデータから、お客様が1時間ごとに使うエネルギーに“色”をつけることができます。例えば、14時から1時間は100%太陽光発電を使うとか、15時からの1時間は全体の20%だけ風力発電を使うとか、どこで作ったどんなエネルギーをどれだけ使うか、正確なトラッキングとマッチングが可能になるんです」

「日経SDGsフォーラム特別シンポジウムin渋谷(2024年3月22日開催)」に登壇

これが実現すると、商品やサービスに「カーボンフットプリント(製品単位のCO2排出量を⾒える化する仕組み)」をより精緻に表示できるようになる。今後、エンドユーザーがカーボンフリーな商品を選ぶようになった時、このカーボンフットプリントは消費行動を変える可能性があり、既にヨーロッパでは算定ルールの整備が進行中だ。

そして、この強みを活かすために重要なのが、国際ルールに準拠したトラッキング技術だ。

「CO2排出量や削減量の算出に用いられる、各電源で発電された電力データの管理・認証は、義務化される企業の報告に資するだけでなく、グリーン価値の取引をする上でも肝になる技術と言って過言ではありません。Energy Tagという英国の非営利団体と連携し、国際的な認証ルールをいち早く取り入れたトラッキング技術を導入することで、GXを進める上で大きなアドバンテージとなると考えています。」

自社の利益よりも、『共創』の関係で正しい市場を作りたい

JERA Crossが思い描くのは、カーボンフリー電力が当たり前のように社会実装された未来だ。そのためにはGXの価値に関する市場でのコンセンサスを得ることが必要だと一倉氏は考えている。

「私たちが目指すのは、電力を高く売ることではなく、未来志向のビジネスパーソンたちと東宝や山梨県のようなモデルケースを増やし、GXやカーボンフリー電力の価値を世の中に認めてもらうこと。企業を脱炭素の課題から解放し、カーボンフリー電力を社会実装するためには、適正なGX市場を作ることが何よりも重要です。そうなればJERA本体が進めている再生可能エネルギーやゼロエミッション火力の価値も自ずと高まりますので、今から動き続けることが私たちの使命だと思っています」

そして、一倉氏が大事にしているのが『共創』の関係だ。

「東宝や山梨県に導入していく『24/7カーボンフリー電力』*は、世界で最先端の、ある意味“未来を先取りした究極のクリーンエネルギー”です。これが実現できるのは、発注者と受注者の関係ではなく、一緒に未来を考えていく『共創』の関係を持てたからこそ。とはいえ、いきなり大きなことをするのではなく、まずは小さなことからご一緒させていただきたいと思っています。どんなお悩みでも絶対に断らないので、気軽に相談してほしいですね」

終始穏やかに語りながら「絶対に断らないは、ちょっと言いすぎたかな」と笑う一倉氏だが、その胸の内は熱い。

「日本企業のGXに必要なのは、諦めないこと。とにかくパンチを打ち続けるしかないんです。諦めなければ、必ずブレイクスルーは来ます。だからパンチが当たるまで打ち続ける。もう、根性ですね」

立ち上がったばかりのJERA Crossのメンバーは30人程度。現在もAIやコンサルティング営業のプロフェショナルなど“強い人財”が続々と集結中だ。一倉氏も「自分たちが風穴をあけられなければ、日本中の誰もできないよねと話しているし、その自負があります」と自信をのぞかせる。日本のGXを切り拓くフロントランナー、JERA Crossの次の一手に注目だ。

* 経済産業省の「電力の小売営業に関する指針」に従い、需要電力量の100%について、CO2ゼロエミッション電源を電源構成とし、および非化石証書の使用による環境価値をともに供給することを意味する。

一倉 健悟

株式会社JERA Cross 取締役執行役員 CPO(チーフプロダクトオフィサー)
一倉 健悟

2006年、東京電力入社。国内外の火力発電事業に従事。2018年よりJERAにて、デジタル戦略構築およびDXプロジェクトの推進を経て、デジタルトランスフォーメーション室長として、デジタル発電所プロジェクトやデジタルプラットフォーム戦略等に従事。2023年からソリューション営業統括部の上席推進役として新規事業の立ち上げを推進。2024年6月、株式会社JERA Cross 取締役執行役員 CPOに就任。