the next memory
“安全”への飽くなき挑戦
2024.11.1
鹿島火力発電所1-6号機の撤去工事を追う全3回シリーズ。第2回は前編・後編に分け、日本経済の成長期や停滞期を通じて、電力の安定供給を支え続けた功績をたどった。最終回となる今回は、撤去工事の先にある未来にスポットを当てる。
JERAでは、鹿島火力発電所のほか、知多火力や大井火力などの他拠点でも撤去工事を計画・実施している。これらの撤去工事が目指すものは何か。そして、その先陣を切る鹿島火力発電所の役割とは。過去から現在、そして未来へと続く挑戦が着々と進んでいる。
>> 第1回「トップランナーが果たす“責務”」を読む >> 第2回「安定供給を守り抜くDNA(前編)」を読む >> 第2回「安定供給を守り抜くDNA(後編)」を読むINDEX
JERAだからこそのCutting Edgeな撤去工事を
JERAが国内26カ所の火力発電所の操業に携わるなかで、その開発・建設から運転・保守に至るノウハウを培ってきたのがO&M・エンジニアリング部門だ。JERAの取締役副社長執行役員で、Chief O&M・Engineering Officer(COMEO)を務める渡部哲也氏は、撤去工事の位置づけについて次のように語る。
「発電所それぞれに、地域と育んできたストーリーがある」。そう話す渡部氏
「発電所は地域の大切な土地を譲り受けて運営しており、地域の理解や信頼がなければ成り立ちません。発電所の建設や運転だけでなく、撤去工事もこの一連のプロセスのひとつであり、地域との共生を中心に据えた事業活動の一部なのです」
撤去工事後の再開発や跡地利用についても、地域貢献を最優先に考えている。渡部氏は次のように続ける。
「発電所は工業地帯にある場合もあれば、住宅地に近い場所にある場合もあります。それぞれの土地で求められる役割は異なりますが、どのケースにおいても『地域に貢献できるものでなければならない』という信念は変わりません」
鹿島火力発電所1-6号機の撤去工事は、2015年のJERA設立以来、計画から工事完了までJERAとして一貫して取り組む初めての撤去工事だ。JERAは「世界のエネルギー問題に最先端のソリューションを提供すること」をミッションに掲げており、撤去工事においても従来の考え方にとらわれない新しい方法を模索している。具体的には、地球環境や建設業界の現状に配慮した工法や廃材の処理方法の選定、そして働く人々が安全に快適に仕事を継続できる現場環境の整備など、現状に即した取り組みを進めている。
撤去現場を視察する渡部氏。「安全は全ての事業活動に最優先」。現場視察ではそう繰り返し伝えている
撤去の現場には何度も視察に訪れているという渡部氏。繰り返し伝えているのは、「発電所で働くすべての人を仲間と思ってほしい」ということだ。
「撤去現場には、まず元請の建設会社が、その先には協力会社の方々がいます。工事にあたって多くのリスクに直面するのは誰かと言えば、協力会社も含めて現場にいる方々です。ですから、JERAとして、安全を達成するという揺るぎない気持ちを持って、発電所で働くすべての人を仲間として守らなくてはならないのです」
安全の根幹にあるのはコミュニケーション
解体工事が進む3号機・4号機のボイラ煙風道
2024年8月——厳しい暑さのなか、鹿島火力発電所ではショベルカーが3号機・4号機ボイラ煙風道の解体を進めていた。「まず、飛散の可能性がある保温材の解体から始めました。7月からは次のステップである、重機による煙風道の解体に取り組んでいます」。そう話してくれたのは、鹿島火力発電所O&M機械ユニットの木幡信一課長代理だ。撤去工事の安全管理、工程管理、予算管理、行政への手続きのほか、稼働中の7号系列や既設エリアに配置されている設備の巡視・保守・維持管理なども担う。
さまざまな発電所でボイラの建設工事や撤去工事を担ってきた木幡課長代理。鹿島に着任して11年目を迎える
鹿島火力発電所1-6号機の撤去工事には、いくつかの難点がある。1つが、撤去エリア内に稼働している設備があり、定期点検などによる作業の調整が頻繁にあることだ。
「鹿島火力発電所には、撤去工事を進めている1-6号機のほか、現在稼働中の7号系列もあります。例えば、現在解体を進めている3号機には、7号系列につながる配管や排水設備が残っています。そのため、簡単に解体できるわけではなく、これらの機能を守りながら進めなくてはならないのです」
もう1つ、撤去中も老朽化が進んでいることだ。1-6号機は日に日に塩害による損傷が増しているため、着工前に「人が入っても問題なく安全な状態であること」の再確認が不可欠だ。そこで、所員と協力会社が一緒になって、階段や梯子・歩廊などをハンマーで叩いて安全な状態が維持されているか確認をしながら工事を進めている。
塩害による損傷が進む発電所設備。着工前の安全確認が不可欠だ
「わかりやすく腐食が進んでいるところはもちろんですが、ちょっとした変化にも注意が必要です。例えば、エレベーターの不調に気づき、現場スタッフに聞いたところ、実は何日も前から調子が悪かったということがありました。わざわざ報告する必要はないと思うようなことでも、その積み重ねで事故につながることがあります。『どんな些細なこともすぐに私たちに報告してほしい』と伝えています。」
現場スタッフへの声かけをこまめに行う発電所の所員。夏期は熱中症対策として塩タブレットも配布
「全ての現場スタッフが安全・安心に作業ができ、笑顔で家に帰れることが何よりも大切」と語る木幡氏は、常に現場を最優先に活動している。朝は協力会社の朝礼に参加して安全の注意事項を伝達。その後も事務作業をこなしながらこまめに現場に向かい、作業状況の確認、現場スタッフへの声かけを行っている。
随所に見られる、現場スタッフへの思いやり
鹿島火力発電所の構内を回ると、現場スタッフへの配慮が散りばめられている。なかでも目を引くのが、多言語で書かれた掲示物や安全標識のピクトグラムだ。
多言語で書かれたピクトグラム。英語の他、東南アジアの言語が書かれている
「現場スタッフに外国籍の方が増加したことを受けて実施しました。この取り組みは今、鹿島火力発電所を起点として、後続の撤去工事を実施する火力発電所にも波及させています。」
仲間として大切にする——その思いは、毎月実施している安全表彰にも表れている。鹿島火力発電所の所員が安全に寄与している現場スタッフを選出・表彰するもので、外国籍の現場スタッフが選ばれることも少なくない。
「表彰するのは、元気よく挨拶してくれたり、積極的に声がけしてくれたり、ちょっとしたことでも頑張ってくれた方です。国籍も経験も関係なく所員が『この人いいな』と思ったら、ヘルメットに書かれた名前をメモしておき、クスッと笑えるようなエピソードを添えて感謝状を渡しています。外国籍の方は『故郷のみんなに自慢したい』と、とても喜んでくれました」
安全表彰の様子。日々の頑張りを褒め称えることで現場スタッフのモチベーションが上がるという
“仲間”として大切にする文化を継承
こうした鹿島火力発電所の活動やノウハウは、同じく撤去工事を計画・実施している他の発電所にも広がりつつある。その一つが、横浜火力発電所だ。
現在第1期として、5・6号機の煙突・煙風道や燃料監視センター等を撤去する陸工事と、揚油桟橋、物揚場桟橋等を撤去する海工事が進む
横浜火力発電所では、5・6号機の撤去工事を進めている一方で、改良型コンバインドサイクル方式の7・8号系列が稼働中だ。その安全操業を損なわないことを最優先に、7・8号系列に接続する配管やケーブルを干渉しない緻密な工程管理を行う。また、工事エリアごとに協力会社が異なるため、その横串を通したコミュニケーションを図っている点も特徴的だ。
「鹿島火力発電所とは同時期に撤去工事を進めていくので、切磋琢磨しながら進めていきたい」。そう話す永徳康典所長
「鹿島火力発電所を見学し、勉強になったのは安全確保の取り組みです」と話すのは、横浜火力発電所の永徳康典所長。
「特に印象に残っているのは、現場スタッフが誤って危険エリアに入らないよう、所員自らハンマーを使って歩廊や階段など一つひとつ安全な状態が維持されているかをチェックしていること。協力会社に任せきりにしないで、『ここは自分たちで責任を持って取り組むべきだ』と安全管理を徹底している姿勢から多くのことを学びました。横浜火力発電所でも、鹿島火力発電所の取り組みを参考にし、ハンマリングでの健全性確認の上、立ち入り禁止エリアや安全通路の明確化を図って工事を進めています。
また、外国籍スタッフ向けの安全標識のピクトグラムも取り入れています。危険なエリアがパッと見てわかるピクトグラムは非常に効果的だと感じています」
取り組みの内容もさることながら、鹿島火力発電所からの一番の学びは「構内で働くすべての人を仲間と思う意識」だという。
鹿島火力発電所視察の様子。「現場・現物を見ることによる学びは多かった」という
「鹿島火力発電所の構内を歩いていると、所員が現場スタッフへこまめに声をかけている様子をよく見かけます。危険な状況では、しっかりと声を上げて注意喚起している場面も少なくありません。他の会社の方だと遠慮しがちですが、何としても安全を守ろうという強い意識を感じます。横浜火力発電所でもエリアごとに異なる協力会社が入るため、そのコミュニケーションは大きな学びになりましたね」
協力会社とのコミュニケーションに力を入れている横浜火力発電所。「何でも言い合える関係」を目指している
撤去工事で得られたノウハウを全国へ
撤去工事を計画・実施している火力発電所間では、お互いの活動を共有して、それぞれの地点に合った取り組みに活かそうとしている。横浜火力発電所の永徳氏は次のように語る。
「実際に現場へ足を運び、現物を確認し、話を聞いて勉強することはもちろん、オンラインツールを活用して相談事項や、好事例、ヒヤリハット事例などをタイムリーに情報共有しています。拠点ごとに特徴があるため、これらの情報を共有することで多くの気づきを得られることはJERAならではの強みだと思います」
横浜火力発電所では、構内に定点カメラを設置してリアルタイムで安全を確認(1枚目)。「安全10か条」を制定して現場への浸透も図る(2枚目)
その先陣を切る鹿島火力発電所では、日々ノウハウの蓄積を進めている。木幡氏は、「私たちが現場で汗を流しながら得た気づきや学びを、後に続く撤去工事を実施する火力発電所に伝え、役立てていきたい」と意気込む。「撤去に携わる人々の声に真摯に耳を傾け、課題を的確に分析・特定し、解決策の提案やその実行を支援できる存在になりたいと思っています」。その言葉には、鹿島火力で培われた経験を未来へと繋げる強い責任感が感じられた。
鹿島火力発電所の所員にとって思い入れの深い設備だったという3号機・4号機のボイラ煙風道。解体される前、皆で集まって記念撮影をした
鹿島火力発電所の気づきや学びが、他の拠点にも広がり、そして新たな取り組みを生み出している。冒頭の渡部氏は、他の発電所に受け継いでほしいこととして、「安定供給を支える使命感と、安全最優先の揺るがぬ気持ち」を挙げる。なかでも、安全最優先を守り抜くために、「日々のコミュニケーションの積み重ねを大切にしてほしい」と強調する。
「どんな人でも疲れるときはありますし、『ついうっかり』を起こしてしまうこともあります。大切なのは、そういった“揺らぎ”が生まれそうなときに、『大丈夫か』『休んだらどうか』などと互いに声をかけ合い、守り合う風土ではないかと思います。この風土がなければ、安全は実現できませんし、こうした風土が醸成されれば、必ず良い現場になっていくはずです。撤去工事を進める発電所には、無事故・無災害を達成するために、日々共に働く仲間を大切に、コミュニケーションを積み重ねていってほしいと思っています」
「撤去工事は長く続く事業活動の橋渡し。その重要な役割を担ってほしい」。そう現場の所員にエールを贈る渡部氏
発電所の歴史は、携わった人々の汗と涙の結晶だ。自分たちが手塩にかけた設備が解体されるその様に、寂しさがないと言えば嘘になるだろう。だが、その過程は、地域に合った新しい地点へと生まれ変わるための重要なステップでもある。だからこそ、一人ひとり思い出をかみしめながらも前を向き、無事故・無災害に向けてできる限りを尽くしていく。そこにまた、新しい“記憶”が生まれる日を見据えて。
鹿島に続け
〜知多火力・大井火力の挑戦〜
双方向コミュニケーションから無事故・無災害へ
知多火力発電所 所長
本藤 浩司
知多火力発電所は、稼働中の5・6号機に隣接した1-4号機の撤去工事を進めており、人身災害はもちろんのこと、発電支障を絶対に起こさないことを目標に掲げています。撤去工事にあたっては、鹿島火力を訪問し、たゆまなく安全意識の醸成に取り組んでいることを学びました。協力会社と一体となった危険エリアの事前確認や合同パトロールなどは、鹿島火力と同様に実践していることです。
私たちは、無事故・無災害の達成に向けた最重要事項として「双方向のコミュニケーション」を掲げています。具体的には、「正確に伝わり、相互理解できていることを確認する」「相手からの意見・要望を聞き入れる」「目的達成に向けて、発注者、請負者の立場を超えて、遠慮することなく意見を言い合える」の3つで、協力会社の安全大会や日々のミーティングを通して定着を図っています。こうした日々の積み重ねが無事故・無災害に繋がるという強い信念を持ち、仲間意識・コミュニケーションを大切に、一致協力して撤去工事を進めていきます。
笑顔、会話、安心があふれた現場を目指して
大井工事所 所長
島上 里佳子
大井火力発電所は、近くに高速道路や新幹線等の交通インフラや事務所・マンションが存在することから、ジャッキダウン工法という騒音が少ない工法を採用したり、道路渋滞を回避するべく大型資機材の搬出入経路を変えたりと、周辺環境への影響を抑えるためのさまざまな工夫をしています。工事件名を約60件に細分化し、事前検討会を実施することで、各工事の安全や工程によりフォーカスされた事前の問題点の洗い出しと解決策を、JERAと協力会社にて協議することが可能となりました。
また、工事管理の効率化にも力を入れており、協力会社との情報共有サイトを構築して日々の作業連絡、書類のやりとり等を行っています。
現場の皆さんへの配慮は、鹿島火力から多くを学びました。特に、外国籍の現場スタッフが多いという情報が得られたことは大きく、熱中症の教育資料を外国語併記にする、ピクトグラムに複数言語を表記するなどの工夫をすることができました。
現場は刻一刻と変わっており、進めるなかでの課題も出てくると思いますが、近隣の企業や住民の皆さまあっての撤去工事ですので、皆さまに気持ちよく過ごしていただけるよう、“「笑顔が」「会話が」「安心が」お~い(多い・大井)工事所”を目指して、協力会社と一丸となって取り組んでいきます。