ゼロエミッションへの追い風は
海に建つ発電所から吹く!
2024.6.27
世界が脱炭素化に向けて取り組むなか、2022年2月に始まったロシアのウクライナ侵攻などは資源価格の高騰を引き起こした。各国のエネルギー情勢は大きな影響を受け、今、エネルギー安全保障の危機が叫ばれている。エネルギーを取り巻く環境が大きく変化する難しい時代のなか、JERAは2050年時点で国内外の事業から排出されるCO2をゼロとする「JERAゼロエミッション2050」を精力的に進めている。
「JERAの源流をたずねて」第3回となる本記事では、世界を舞台に活躍するソプラノ歌手の田中彩子さんが、JERAの脱炭素化の鍵を握る「ゼロエミッション火力」と並ぶ「もうひとつの取り組み」の現場を訪ねた。
脱炭素化を支えるもうひとつの柱
私には母国と呼べる国が2つあります。ひとつは生まれ育った日本。もうひとつは音楽活動の拠点としているオーストリアです。電力に関して日本と大きく違うと感じるのは、発電電力量の約8割を再生可能エネルギーによって賄っていること。なかでも大きな存在が「水力発電」です。アルプス山脈が広がるオーストリアでは、水量の豊かな河川が多く、水力発電が盛んなのです。日本では、電源構成における足許の再エネ導入比率は20%程度ですが、2030年度には36~38%を再エネとする目標を掲げており、クリーンな社会の実現のために太陽光発電や風力発電など再エネ導入の最大化を進めています。
私は、これまで2回にわたりJERAの最先端の火力発電所を見学し、電力の安定供給とグリーン燃料を導入し発電時にCO2を排出しない「ゼロエミッション火力」について学んできました。
第1回「電気という当たり前が生まれる場所火力発電の最前線を見学!」
第2回「ここからエネルギーの未来が動き出す!JERAが灯す脱炭素への希望の火」
ゼロエミッション火力の現場を目の当たりにして、このプロジェクトの実現により日本の脱炭素化が大きく前進することを心待ちにする一方で、電力の安定供給との両立を考えた際に、JERAは多様な選択肢を最適に組み合わせることを提案しています。今回は、そのもう一つの選択肢である、「再生可能エネルギー」という大きな柱について学びました。
洋上に吹く無限のエネルギー
今回、私が訪れたのは雄大な自然を抱く北の大地、北海道。札幌から車で北上すること約40分、そこは美しく輝く日本海を望む石狩湾でした。現地に着いた私が「ここで何が行われているのか?」という疑問を持つことはありませんでした。なぜなら、眼前の洋上に建つ14基の巨大な風車が、すべてを物語っていたからです。
今年、JERAと、国内風力発電事業大手の株式会社グリーンパワーインベストメントが共同で保有する、北海道石狩湾新港で国内最大級の洋上風力発電所「石狩湾新港洋上風力発電所」が商業運転を開始しました。同発電所の稲田亮所長は新たに誕生した洋上風力発電所について、次のように話します。
「風車が建つのは港から沖合2.5㎞から4.0㎞のエリアです。そこに500m間隔で陸側、沖側2列に並んで14基の風車が建てられています。今回私たちの建てた風車は、海面からの全高は196 m、ブレード(羽根)部分が回転して描く円弧の直径は167mにも及びます。港からだと遠すぎて大きさを感じにくいかもしれません。例えばさっぽろテレビ塔の全高が147mですので、それよりもさらに50mほど高い構造物が海にそびえ建っていると言えばスケールが伝わるでしょうか。すべての風車を合わせた総発電出力は11.2万kW。一般家庭8万7,000世帯分の年間消費量に相当する電力をつくり出し、年間約173,000tのCO2削減効果がある、日本最大級の洋上風力発電所となります」(稲田所長)
しかし、日本に風力発電の先進国というイメージはありません。むしろ思い浮かぶのは私が活動するヨーロッパの風景です。そこには日本とヨーロッパの風況の違いがありました。
「1年を通して偏西風が吹くヨーロッパは、風力発電において風況に恵まれた地域。もともとヨーロッパには古くから風車を利用した暮らしや文化があり、風車にまつわる技術的なノウハウも脈々と受け継がれ、進化させ続けてきた歴史があります。しかし、日本においても、十分に風力発電が行える風が吹いています」(稲田所長)
日本で「強い風」と言えば「台風」です。しかし稲田所長は「台風の風は使えない」と話します。
「台風が来た場合には、風車は自動的に止まるようにつくられています。風を受け流すようブレードを調整して、台風が過ぎ去るまで耐えるのです。私たちの風車は風速4m/秒から28m/秒の間で発電することができるのですが、風速28m/秒を超える台風の風は強すぎて発電できないのです」(稲田所長)
強すぎて活用できないほどの力を持つ台風。自然の力の大きさを思い知らされました。では一方で、風が吹かない場合はどうなるのでしょうか。ヨーロッパで風が吹かずに風力発電による発電量に影響が生じたという話もあります。
「風力発電の発電量は風況によって刻々と変化します。電力を安定供給する使命を担いながら、風が吹かないから電気がつくれませんでした、では話になりませんよね。そこで私たちは、陸上に蓄電池設備を設置することで対応しています。風況により需要を上回る量の電気を発電した場合は蓄電池に充電し、風が吹かなかった場合や電力需要が増えた場合には蓄電池から放電し、出力が変動しないよう調整します。」(稲田所長)
風が強すぎても弱すぎても発電できない洋上風力発電。一筋縄ではいかないからこそ、どうすれば風の力を上手に取り込み、活かすことができるのかと考え、今よりもっと良い未来のために、建設的に取り組むJERAの姿勢を感じることができました。
しかし、火力発電をルーツに持つJERAが、一朝一夕で風力発電を始められるものなのでしょうか。その背景には、洋上風力発電の可能性を信じて着実に一歩ずつ歩み続けてきた道筋がありました。
JERAは2019年に大型洋上風力案件としてアジア初となる台湾でのプロジェクト「フォルモサ1」に参画。続く「フォルモサ2」「フォルモサ3*」においてもプロジェクトを主導してきました。2023年には、ベルギーの洋上風力発電大手Parkwindを約15.5億ユーロで買収し、今年4月に2035年度までの新たな再エネ開発目標として「2,000万kW」を掲げるとともに、英国で再エネ事業会社「JERA Nex」を発足させました。
洋上風力発電で日本の先をゆく国々と協力し、ノウハウを学び続けているからこそ、再生可能エネルギーをJERAの脱炭素実現に向けたもう一つの柱とすることができるのだと納得することができました。
* 2023年6月に当社における事業権益の譲渡を完了
見学を終えて
未来は、知ることからはじまる
JERAが挑戦する「JERAゼロエミッション2050」。これまでは「ゼロエミッション火力」に注目しがちでしたが、今回、石狩湾新港洋上風力発電所を見学し、「再生可能エネルギー」の活用にも全力で取り組んでいることと脱炭素と安定供給の実現においては、この両方を活用することが重要であることを改めて実感できました。
私はこれまでJERAのさまざまな発電所を訪れ、多くの人との出会いを通じて、エネルギーの過去、現在、未来について学び、考えることができました。そうして、いま感じるのは「知ること」の大切さです。
エネルギーの世界は広く複雑で、すべてを理解することは簡単ではありません。さらに、今エネルギー資源を巡る情勢は不安定で、何をするにも難しい判断と行動が求められています。そうしたなかで、「JERAゼロエミッション2050」はとても大胆な目標に見えるかもしれません。しかし、発電の現場をこの目で見て、日々の暮らしを支える所員の方々の想いに触れ、私はJERAの取り組みに心から共感しています。
JERAが目指すのは電力の安定供給を維持し、手頃な価格で届けながら、脱炭素化を同時に達成すること。その柱となるのが「ゼロエミッション火力」と「再生可能エネルギー」だ。日本の脱炭素化を加速させる追い風は、すでに吹きはじめている。
ソプラノ歌手、Japan MEP / 代表理事
田中彩子
18歳で単身ウィーンに留学。 22歳のとき、スイスベルン州立歌劇場にて同劇場日本人初、且つ最年少でのソリストデビューを飾る。その後ウィーンをはじめロンドン、パリ、ブエノス・アイレス等世界で活躍の場を広げている。「コロラトゥーラソプラノとオーケストラの為の5つのサークルソング」でアルゼンチン最優秀初演賞を受賞。同アルバムは英国BBCクラシック専門音楽誌にて5つ星に評された。
UNESCOやオーストリア政府の後援によりウィーンで開催されている青少年演奏者支援を目的としたSCL国際青少年音楽祭や、アルゼンチン政府が支援し様々な人種や家庭環境で育った青少年に音楽を通して教育を施す目的で設立されたアルゼンチン国立青少年オーケストラとも共演するなど、社会貢献活動にも携わっている。
2019年 Newsweek誌 「世界が尊敬する日本人100」 に選出。2022年10月22日に行われた、日本のプロ野球チームの頂点を決める「SMBC日本シリーズ2022」の開幕セレモニーでは国歌斉唱を務めた。
京都府出身、ウィーン在住。
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