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ベルギー大手洋上風力発電事業者買収と
JERAが目指す「ゼロエミッション」

2023.5.16

JERAは2023年3月22日、ベルギーの大手洋上風力発電事業者Parkwindを約15.5億ユーロで取得することを同社の株主であるVirya Energyと合意した。買収の狙いや2050年に自社事業からのCO2排出量を実質ゼロにする「JERAゼロエミッション2050」への貢献などについて、洋上風力発電事業の総責任者であるナタリー・オースターリンク氏に聞く。

Parkwind社員の突出した資質の高さ

──Parkwindとはどのような企業なのですか

ナタリー・オースターリンク(以下、ナタリー) Parkwindは、2012年にベルギー・ルーヴェン市に設立された洋上風力発電事業者で、現在、ベルギーで4つの洋上風力発電事業(合計総発電容量77.1万kW、同社持分容量42万kW)を運営し、ドイツでも25.7万kW(同社持分容量18万kW)のプロジェクトを建設中です。さらに欧州や世界各地で開発中の452.6万kW(同社持分容量)の洋上発電プロジェクトに関与しています。洋上風力発電ではベルギー最大の事業者です。

ベルギー大手洋上風力発電事業者買収とJERAが目指す「ゼロエミッション」 イメージ

──設立から10年でベルギー最大の事業者になった成長著しい会社を、株主は、なぜ売却したのでしょうか

ナタリー 株主のVirya Energyは、Parkwindをはじめ複数の再生可能エネルギー事業者を傘下に持つ持株会社です。大株主であるColruytグループは小売・流通業の企業であり、かつ一族経営(株式非公開)企業。2022年のロシアによるウクライナ侵攻を契機として再生可能エネルギーの需要が急速に高まる中、同グループは、Parkwindをさらに成長させるためには自らの投資だけでは限界があると判断し、より野心的な成長を実現できる方策を検討していました。そこで出たのが売却という結論だったのです。

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写真:Parkwind社の参画するArcadis Ost 1プロジェクト(ドイツ) 提供:Parkwind社

──一方、JERAは、Parkwindのどのような点を評価したのでしょうか

ナタリー 私は、再生可能エネルギーおよびインフラの開発と運営を成功に導く一番の鍵は「人」だと考えております。JERAも社内で、そのような人財を抱えており、将来はワールドクラスの組織を構築すべく取り組んでおります。Parkwindには開発技術者、プロジェクトマネジャー、運営技術者など130名以上の社員がおり、このチームの強力なプロジェクト開発力、リスクマネジメントを背景にしたプロジェクトデリバリーの巧みさ、発電所の運営能力、経営実績など、どれをとっても特筆に値するものです。また資産ポートフォリオ、開発のパイプライン、ジョイントベンチャーパートナーの質の高さ、地域住民や自治体と良好な関係を構築するコミュニケーション力などにも感銘を受けます。Parkwindの社員は真のプロフェッショナル集団であり、だからこそ設立から10年でここまでの成功を成し遂げたと思います。

もう一つ付け加えておきたいのは、JERAとParkwindは、組織文化や事業の将来性においても相性が良いということです。また、買収のプロセスおよび交渉を通じて、ビジネスにおける価値観の共通性についても確認できました。そして、この共通の価値観と組織文化は、これからのエネルギー事業の展開、それによる環境目標実現のための重要な基盤になると考えています。

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再生可能エネルギーとゼロエミッション火力の補完を強力に後押し

──Parkwindは、JERAにどのようなメリットをもたらしてくれるのでしょうか

ナタリー 両社は、グローバル市場において強いシナジーと補完性を追求できるようになります。少し欧州と日本のエネルギー市場を比べてみましょう。欧州は洋上風力発電などの再生可能エネルギーをエネルギーポートフォリオと自立の観点から重要な要素と認識し、さらに欧州全体に広がる広域の電力ネットワーク網を構築しています。
では、日本はどうでしょうか。まだ風力発電(陸上+洋上)がエネルギーポートフォリオに占める割合は、わずか0.7%1にすぎませんが、多大なポテンシャルを秘めています。イギリスと同じく国土の四方を海に囲まれていて、海岸線が非常に長い。他国とのエネルギーネットワークがなく、輸入エネルギーへの依存が続いています。当社の既存事業に加え、国内の再生可能エネルギーの普及への貢献と海外における、さらなる事業拡大はJERAの成長ストーリーの主な柱であります。
しかし、日本でも洋上風力発電の拡充は政府方針として示されています。それに対してJERAはParkwindの優れたノウハウを日本に導入できますし、JERAが取り組んでいる他の洋上風力発電事業でもParkwindの支援を得られるようになるだろうと考えています。JERAとParkwindは、将来において素晴らしいシナジー効果を発揮できると信じております。

  • 1 資源エネルギー庁『エネルギー白書2021』

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──JERAにとってParkwind買収の成功とはなんでしょうか

ナタリー 大変良い質問ですね。でも今の時点ではまだお答えが難しい質問でもあります。ただ、重要なのは継続的な「創造とシナジー(相乗効果)」であることは間違いありません。
JERAは、日本の電気の約3割を発電する国内最大の火力発電事業者です。2020年10月に、「JERAゼロエミッション2050」を掲げ、2050年にはJERAの国内外における事業からのCO2排出量を実質ゼロにすることを目指しています。ParkwindとJERAの洋上風力発電事業のシナジー効果によってこの「JERAゼロエミッション2050」の実現が後押しされると信じています。

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JERAのゼロエミッションに取り組む「強い野心」に入社を決意

──ご自身もベルギーの洋上風力発電会社のCEOだったと聞いています。JERAに入社した理由は、どのようなものだったのですか

ナタリー JERAとその経営者のビジョンに感銘を受けたのが大きいです。また、先ほど、「JERAゼロエミッション2050」という「再生可能エネルギーとゼロエミッション火力の相互補完」というユニークなアプローチに触れましたが、このような高い志を掲げ、それを自らのアイデンティティーとして世界で存在感のあるエネルギープレーヤーになろうとする企業姿勢は本当に興味深く、野心的なものだと感じました。それがJERAに参加した理由です。当社は高いアンビションを持っており、その成長ストーリーに貢献できることをとてもうれしく思います。

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ナタリー・オースターリンク(Nathalie Oosterlinck)

ナタリー・オースターリンク(Nathalie Oosterlinck)

ベルギー出身。ルーヴェン大学およびハーバード・ビジネス・スクール卒。ベルギーの洋上風力発電会社であるOtary RS NVおよびRentel NVなどのCEOを経て2021年にJERAに入社。洋上風力発電事業総責任者。