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JERAの源流を訪ねて

ここからエネルギーの未来が動き出す!
JERAが灯す脱炭素への希望の火

2024.1.26

「脱炭素」「カーボンニュートラル」……これらの言葉を聞かない日はないと言っても過言ではない今日。それほどまでに、世界中で地球気候変動に関する取り組みが待ったなしとされている。2020年、JERAは自社の火力発電所からのCO2排出量ゼロに向けた取り組みとして「JERAゼロエミッション2050」を宣言。以来、ゼロエミッション火力と再生可能エネルギーを利用した発電に取り組んできた。そうした中、愛知県碧南市にある「碧南火力発電所」で、新たな一歩が踏み出されようとしている。世界を舞台に活躍するソプラノ歌手の田中彩子さんが、JERAのアンバサダーとして、その現場に迫る。

CO2を出さない!火力発電に起こすブレークスルー

「火力発電所」と聞いてイメージするのはどんな景色でしょうか?高い煙突からモクモクと黒い煙が立ち上る様子を想像する方も多いと思います。そういう私もその一人です。今、世界では石炭火力発電所の新設停止や全廃に向けた動きが加速しています。私の住むオーストリアでも2020年に国内で操業していた最後の火力発電所が閉鎖。世界の多くの国々で2050年までのカーボンニュートラルが表明されています。

もちろん、日本もそのうちのひとつ。しかし日本は、発電電力量の約7割を化石燃料による火力発電で賄っていると聞き、CO2排出量ゼロを達成するには、並大抵の努力では叶わないのではないかと思っています。

今回、私が向かったのは愛知県碧南市にある「碧南火力発電所」。日本最大、世界でも最大級の石炭火力発電所です。どうして、日本では今もなお火力発電所が発電施設の主力として稼働しているのでしょうか。碧南火力発電所の谷川勝哉所長が、そんな疑問に答えてくれました。

「電気は、使う量と作る量をぴったり一致させる必要があります。発電方法は主に原子力、再生可能エネルギー(太陽光、風力、水力など)、火力があります。原子力はCO2を排出せず安定した発電が行えますが、細かな発電量の調整はできず、また、日本では東日本大震災以降、発電量が低下しています。再生可能エネルギーもCO2を排出しない重要な電源です。しかしこちらは、天候などの自然条件によって発電量が左右されやすい側面があります。原子力も再生可能エネルギーも、必要な時に必要な量だけ、柔軟に発電するのが苦手。そこで必要となるのが火力発電なのです」(谷川所長)

しかし、どんなに火力発電が柔軟に発電量を調整でき、日本の安定した電力需給に必要なものだとしても、化石燃料を利用する限りはCO2の排出を止められません。その火力発電の最大の課題に、JERAは今まさに取り組んでおり、2050年までにCO2排出をゼロにする「JERAゼロエミッション2050」に挑戦していると言います。

「日本最大の発電会社であるJERAが、CO2の排出量をゼロにした時のインパクトはとても大きなものになります。具体的にどうするのかというと、可能な限り再生可能エネルギー発電を行うと同時に、CO2を排出しない火力発電を行います」と話す谷川所長。そして、発電量を調整しやすい火力発電のメリットは維持しながら、デメリットであるCO2の排出をゼロにする、それが「ゼロエミッション火力」であり、そのカギとなるのが新燃料の「アンモニア」と「水素」だと続けます。

「これらの燃料は燃やしてもCO2が出ません。まずは石炭にアンモニア、LNGに水素を混ぜて燃やすことでCO2の排出量を減らします。徐々にアンモニアと水素の比率を高め、最終的に、2050年にはアンモニアのみ、水素のみでの火力発電を実現します。その第一歩として、石炭の20%をアンモニアに置き換えた火力発電の実証試験を2024年3月に開始します。その場所がここ、碧南火力発電所です」(谷川所長)

19世紀末、トーマス・エジソンによって世界初の火力発電所が作られて140年あまり。石炭に始まり長きにわたり化石燃料による発電を行ってきた火力発電が、誕生以来最大の転換期を迎えようとしています。

日本最大の石炭火力発電所で進む、世界初の実証試験!

碧南火力発電所は総出力410万キロワットをほこる、日本最大の石炭火力発電所。燃料となる石炭を貯蔵しておく「貯炭場」は、46万平方メートルにも及ぶ広さ。「ここには88万トンもの石炭を蓄えることが可能です」と谷川所長は話します。まさに山のように積み上げられた石炭。これだけの量があれば、さぞ多くの電気を作れるのだろうと思っていると、「大量の石炭がありますが、これだけあっても実は約1ヶ月で使い切ってしまいます。そのため、2、3日に1隻のペースで石炭を船で運んで来ています。この石炭の8割ほどが、オーストラリアとインドネシアから調達しています。一旦、貯炭場に入れられた石炭は、リクレーマと呼ばれる車輪のような機械で削り取り、ベルトコンベヤに乗せてボイラへと送られます」と谷川所長は説明を続けました。

その話を聞き、私は改めて広大な貯炭場に目を向けます。日々、当たり前のように使っている電気。それを生み出すためにどれだけ多くの資源が必要なのかを実感し、貯炭場を後にした私たち。コンベヤに運ばれる石炭を追うようにして、ボイラ建屋へと向かいました。

「石炭はそのままでは燃えにくいので、小麦粉ほどに細かく砕いてからボイラに運ばれ、全48本のバーナーで燃焼させます。それによって水を沸かして超高圧・高温の蒸気を作り、この先にあるタービンを回すことで発電しています。この穴をのぞいてみてください。今まさに石炭が燃焼している様子が見られます」と谷川所長に言われのぞいた穴の先では、オレンジ色の炎が煌々と燃え盛っていました。その炎はあまりにも明るく、長時間見つめていることが難しいほど。ボイラ内の温度は1500℃にもなると言います。そしてこの48本のバーナーこそ、石炭とアンモニアを置き換えて燃焼するうえで重要な役割を果たすものなのだと、谷川所長は言います。

「石炭だけでなくアンモニアも燃焼するためにバーナーを改造する必要があります。2021年には、48本のうち2本を改造し、0.02%のアンモニアを混ぜた小規模な燃焼試験を行いましたが、アンモニアの燃焼による金属材質への影響等含め、設備に問題がないことが確認できました。現在は、2024年3月に開始予定の燃料の20%をアンモニアに置き換える実証試験に向け、さらなるバーナーの改造に取り組んでいます」(谷川所長)

アンモニアという新しい燃料を利用するためには、当然設備にも手を加える必要があり、コストも掛かります。バーナーの他に、アンモニアを貯蔵するタンクの建設やボイラまで運ぶ経路の整備は必要ですが、逆に言うと、まずは20%をアンモニアに転換し燃焼させるには、このバーナーを改造するだけで済むということでもあります。「世界初の実証試験」と聞き、発電設備を総入れ替えするくらいの大掛かりな取り組みを想像していた私にとって、いい意味でのギャップでした。

世界に目を向けると、特に東南アジアの国々には、まだ建てられたばかりの石炭火力発電所も多いと言います。このアンモニアを使った火力発電が実現すれば、そうした国々でも既存の火力発電所を活かしつつ、最低限の改造でCO2を出さない火力発電を実現できることになるのだと、谷川所長は話します。

最後に案内していただいたのが、次回の実証試験で使用するアンモニアを貯めておくタンク。現在建設中のため、フェンスで囲われており全貌は見ることはできませんが、この中で球形のタンクが作られています。大きさは奈良(東大寺)の大仏と同じくらいなのだそう。見上げるほどの大きさですが、谷川所長は燃料タンクとしては小さい部類だと話します。

「実証試験を終え、1年を通してアンモニアを燃料として使い続けるフェーズに入ったら、この25倍くらいの大きさのタンクを複数基、建設する予定です」(谷川所長)

88万トンもの石炭を受け入れられる貯炭場からはじまり、今より25倍も大きなアンモニア貯蔵タンクの建設と、日本最大の火力発電所の取り組みのスケールの大きさに圧倒され続けた碧南火力発電所の見学。日本の、そして世界のエネルギー課題に新たなソリューションを生み出すための大きな一歩が、今まさに踏み出されようとしていることを実感することができました。

見学を終えて
「できるかどうか」ではなく「やり遂げる」JERAの強い意志

「2050年までにCO2排出量をゼロにする」。この目標を掲げ、今、たくさんの国や企業がそれぞれの方法で取り組みを進めています。もちろん私たち一人ひとりも協力し、目標の達成に取り組んでいきたいですし、そうするべきだと思っています。一方で、その壁はあまりにも高く、「本当に達成できるのか」と疑念を抱いている自分がどこかにいたことも事実でした。

しかし今回、その疑念が晴れ、未来への希望を得ることができました。なぜならば、碧南火力発電所で、JERAのゼロエミッション達成に向けた取り組みが着実に前進していることを、この目で見ることができたからです。

石炭に代わる新燃料としてアンモニアを採用するという「発想力」と、それを実現する「技術力」。この2つが合わさることで、「CO2を排出しない火力発電」という夢が、グンと現実に近づいていることを感じることができ、そして何より、JERAの方々の「できるかどうかではなく、やり遂げるんだ」という強い使命感をもって取り組んでいる姿が、私にとって希望の光となりました。

ゼロエミッション火力が実現することで、世界の火力発電は大きく変わっていきます。その大転換に関われていることに、改めて感謝と感動を覚えました。

碧南火力発電所で進む、火力発電の歴史を変える可能性を持った実証試験。大きな目標を掲げると同時に、JERAは、それを支える地域との共生にも力を入れ取り組んでいる。発電所内には地域の方々の憩いの場として芝生広場を中心とした「JERA garden HEKINAN」や、ゼロエミッション火力発電の最先端に触れる体感型ミュージアム「JERA museum HEKINAN」など地域との共生施設がある。地域に開かれた発電所としても新たな発展をしていく碧南火力発電所のこれからに、ますます期待が高まる。

田中彩子

ソプラノ歌手、Japan MEP / 代表理事
田中彩子

18歳で単身ウィーンに留学。 22歳のとき、スイスベルン州立歌劇場にて同劇場日本人初、且つ最年少でのソリストデビューを飾る。その後ウィーンをはじめロンドン、パリ、ブエノス・アイレス等世界で活躍の場を広げている。「コロラトゥーラソプラノとオーケストラの為の5つのサークルソング」でアルゼンチン最優秀初演賞を受賞。同アルバムは英国BBCクラシック専門音楽誌にて5つ星に評された。
UNESCOやオーストリア政府の後援によりウィーンで開催されている青少年演奏者支援を目的としたSCL国際青少年音楽祭や、アルゼンチン政府が支援し様々な人種や家庭環境で育った青少年に音楽を通して教育を施す目的で設立されたアルゼンチン国立青少年オーケストラとも共演するなど、社会貢献活動にも携わっている。
2019年 Newsweek誌 「世界が尊敬する日本人100」 に選出。2022年10月22日に行われた、日本のプロ野球チームの頂点を決める「SMBC日本シリーズ2022」の開幕セレモニーでは国歌斉唱を務めた。
京都府出身、ウィーン在住。