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山梨県とJERAが地域の水素活用を推進し、カーボンフリーな未来を共創!

2023.12.27

世界的なエネルギー構造の変化、特に脱炭素の観点からクリーンなエネルギーとして注目が集まる「水素」。山梨県とJERAは2023年11月22日に「未来の水素エネルギー社会構築に関する基本合意書」を締結し、共同で脱炭素燃料であるグリーン水素を活用してカーボンフリーな地域社会の構築に取り組んでいくことを発表した。水素エネルギー開発に力を入れる山梨県と日本最大の発電会社であるJERAがタッグを組み、水素エネルギーの社会実装に向けた新たな一歩を踏み出した。

水素社会実現への大きな可能性を秘めた提携

2023年11月22日、暦の上では小雪(しょうせつ:雪が降り始めるころ)だが、山梨県甲府市では最高気温18.4℃と、暖かな日差しが降り注いだ。この日、山梨県とJERAは「未来の水素エネルギー社会構築に関する基本合意書」を締結した。

「基本合意書自体はシンプルなものでありますが、そこには大きな発展の可能性が秘められていると、大いに期待しています」と話す山梨県の長崎幸太郎知事。

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左:山梨県知事 長崎幸太郎 右:株式会社JERA 代表取締役社長CEO兼COO 奥田久栄

今回の提携は、「県民一人ひとりが豊かさを実感できるやまなし」という理念の下、「誰一人取り残さない」「持続可能な山梨」を目指す同県と、「再生可能エネルギーと低炭素火力を組み合わせたクリーンエネルギー供給基盤を提供することにより、アジアを中心とした世界の健全な成長と発展に貢献する」ことを目指すJERAが、両者の強みを連携させて水素社会の実現を目指すためのもの。

具体的には、山梨県の「やまなしモデルP2Gシステム※」とJERAのグローバルなグリーン燃料のバリューチェーンとの連携により、カーボンフリー電力と水素系燃料の安定した製造・供給と経済性を両立させる「地域の水素バリューチェーン」の構築に取り組んでいく。

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※最先端の技術を活用した固体高分子(PEM)形水電解装置によりグリーン水素を作り出すシステム。P2G(Power to Gas)は、再生可能エネルギーなどの余剰電力を活用して、水素などの気体燃料を製造し、貯蔵・利用を行うシステム。

水素エネルギー開発の最先端を行く山梨

数ある自治体の中で、JERAはなぜ山梨県との提携に至ったのか。山梨県に抱くイメージと言えば「フルーツ」「ワイン」「富士山」など様々ある。しかしエネルギー業界において同県は今、「日本で水素と言えば山梨」と言われるほど注目を集める、水素エネルギー開発の最先端を行く自治体なのだ。

すると次に出てくるのが「どうして山梨県が水素を?」という疑問だ。これにも明確な理由がある。気象庁による全国の日照時間データによると、山梨県は2022年に3位、2021年は1位、2020年は2位と、国内屈指の日照時間を誇る地域であることがわかる。その理由は地形にあり、四方を山に囲まれた甲府盆地では山が雲の侵入を防ぐことで晴天の日が多くなり、日照時間も長くなるといわれている。そんな日照条件に恵まれた同県が目をつけたのが「太陽光発電」だ。

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山梨県が米倉山に設置した太陽光発電施設

2012年、甲府市南部に位置する米倉山にて太陽光発電施設が運転開始した。以来、山梨県は地産のクリーンエネルギーの利用を進めてきた。しかし太陽光発電は、天候の影響を大きく受けるため、発電量の調整が難しい。電力は貯めることができないため、天候が良く多く発電できたとしても、需要が少なく余った場合には無駄になってしまっていた。そうした余剰電力を有効活用するためのキーとして目を付けたのが、水素であった。余剰電力で水を分解して水素を作ることで、長期間貯蔵可能なエネルギー資源に転換することができるのである。

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太陽光発電施設に併設されるP2G実証研究棟と棟内の水電解装置

燃焼させてもCO2を排出しないうえ、太陽光をはじめとした再生可能エネルギーを使うことで、製造段階においてもCO2を出すことのないグリーン水素は「究極のクリーンエネルギー」「脱炭素化の切り札」ともいわれる。その将来性にいち早く着目して水素エネルギー開発に取り組んできた山梨県は、大学や民間企業と共同で技術開発を進め、2023年3月30日に米倉山に「米倉山次世代エネルギーシステム研究開発ビレッジ」(通称:Nesrad/ネスラド)を開館。日本の水素研究のトッププレイヤーたちが集まる、次世代エネルギーシステムの研究開発拠点をつくり上げた。同県は2018年に「やまなし水素・燃料電池バレー戦略工程表」を策定しており、シリコンバレーならぬ水素・燃料電池バレーを目指して着実に進んできたのである。

だからこそJERAは、地域の水素バリューチェーン構築の第一歩を山梨県とともに踏み出すことにした。長崎知事もまた、「今後、次世代エネルギーに係る知見がますます米倉山に蓄積されていくことが期待されます。JERAとともにイノベーション拠点としての米倉山をさらに発展させていきたい」と語る。

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水素の研究開発拠点「ネスラド」にはすでに9社・団体が入居している

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目指すは24時間365日、カーボンフリー電力の供給

国内の発電電力量の約3割を発電しているJERAは、同時に世界最大級のLNG(液化天然ガス)取扱量を誇る企業でもある。脱炭素化の流れはますます勢いを増しており、エネルギーの安定供給との両立という課題を解決するため、「再生可能エネルギー」と「ゼロエミッション火力」を組み合わせた新しいエネルギー供給モデルの実現に挑戦する「JERAゼロエミッション2050」に取り組んでいる。

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これまでの火力発電では石炭やLNGといった化石燃料を燃やすことで発電を行っていたが、化石燃料を使い続けていてはCO2の排出をゼロにすることは難しい。そこでJERAは火力発電のための燃料を、燃やしてもCO2を排出しない水素やアンモニアに切り替えていく方針に舵を切った。この燃やしてもCO2が出ない火力発電をJERAでは「ゼロエミッション火力」と呼んでいる。

しかし、ここにも課題はある。「ゼロエミッション火力」を実現するためには膨大な水素系燃料が必要になるのだ。「日本国内だけでは到底足りる量ではありません。そのため、世界各地で水素系燃料を大量に製造し、それを大量に輸送するグローバルな水素系燃料のサプライチェーンを構築することが必要なのです」とJERAの奥田久栄代表取締役社長CEO兼COOは語る。ゼロエミッション火力の実現に向け、グローバルな水素系燃料のサプライチェーン構築を目指すファーストムーバーであるJERAのノウハウを生かし、山梨県の地域の水素バリューチェーン構築に貢献すべく、JERAと山梨県はタッグを組むに至った。

今後JERAは、米倉山に水素発電設備を設置し、山梨県内の企業向けに電力を供給する実証試験を進める。その際には、米倉山の太陽光発電施設で作られた電力も組み合わせて供給することになる。つまり、日中や天候の良い日は太陽光発電、夜間や天候の悪い日は水素による発電を用いて、「24/7カーボンフリー電力※」を供給できる体制の構築に取り組む。

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水素発電設備が新設されるのは早くて2025年。「24/7カーボンフリー電力」を利用する企業の要望を酌みつつ、水素を燃料とした発電だけでなく燃料電池などの選択肢も視野に入れながら、最適なシステムを検討していく。奥田社長CEO兼COOは「地域の資源をフルに生かした形で、地域の水素バリューチェーンを新たに構築することに一緒に取り組んでいきたい。これから始まる実証試験が大変楽しみです」と語る。

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