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JERAが世界に提示する未来
脱炭素と火力発電の新しい関係

2024.2.26

世界的に「脱炭素化」が進む中、今も化石燃料による火力発電を使い続ける日本。その背景にあるものは何か。日本はどう脱炭素化に取り組んでいくのか。オーストリアはウィーンを拠点に、世界で活躍するソプラノ歌手・田中彩子さんが、奥田久栄 代表取締役社長CEO兼COOに話を聞いた。

日本は再生可能エネルギー後進国なのか

脱炭素先進国と呼ばれるオーストリアでは、「2040年までに温室効果ガス排出実質ゼロ」「2030年までに国内で消費される電力をすべて再生可能エネルギーで賄う」という目標を掲げている。そのような国に暮らす田中さんが、日本が石炭火力発電所を稼働し続けていることに疑問を抱くのも不思議ではない。

2022年度の日本の発電電力量の割合は次のとおり。
・原子力発電 5.6%
・再生可能エネルギー発電 21.7%
・化石燃料火力発電 72.7%

(出所:資源エネルギー庁「令和4年度(2022年度)エネルギー需給実績(速報)」)

実に国内の発電電力量の約7割を化石燃料による火力発電で行っている。こうした現状を背景に、田中さんは奥田CEOに次のように質問を投げかけた。

田中:ヨーロッパ、特にオーストリアに住んでいると発電に対してネガティブなイメージがほとんどありません。それは、石炭火力も原子力も使っておらず、発電電力量の約7割が再生可能エネルギーによるものだからです。もちろん、日本と比べて人口も少なければ、そもそもの発電量も違います。そのうえで、日本でももっと再生可能エネルギーを活用することはできないのでしょうか?

奥田:私たちは「日本は、世界に比べて再生可能エネルギーの利用が遅れている」と思いがちです。しかし、そんなことはありません。太陽光発電について言うと、単純な発電量ではアメリカや中国のような大陸の国々の方が上ですが、普及率で言えば、実は日本は世界でもトップクラスです。

資源エネルギー庁の調べによると、国土面積あたりの太陽光導入容量(kW/㎢)は、日本175、ドイツ165、イギリス57、中国32、フランス27、スペイン30、インド16、アメリカ12と、主要国の中で最大級。また、総発電量に占める太陽光発電の割合も日本は8.3%で、ドイツの8.5%に次ぐ高さとなっている※。

※出所:資源エネルギー庁「今後の再生可能エネルギー政策について(2023年6月21日)」

奥田:再生可能エネルギーにも太陽光や風力、地熱など様々な発電方法があります。どの発電方法が一番いいのか。それは国によって違います。当然ですが、風が吹く国もあれば吹かない国もある。日照時間が長い国もあれば短い国もある。温泉が出るような国は地熱も利用できますが、そうではない国もあるわけです。どのエネルギーを使うかは、各国が持つ資源を見ながら決めるのが一番いいのです。そのため、みんなが同じ方法で脱炭素を目指すのではなく、自分たちに最適な方法を見つけて取り組んでいくことが大事だと、私は考えているのです。

日本で再生可能エネルギーといえば「太陽光」を思い浮かべる人も多いだろう。実際、日本の太陽光発電の普及率は世界トップクラスだ。しかし、ヨーロッパに目を向けると「風力」による発電が盛んに行われている。その理由は、偏西風により1年を通して安定した強い風を受けることができるからだ。また、田中さんの住むオーストリアでは、発電電力量の半分以上を「水力」で賄っている。こうしたことからも、再生可能エネルギーの利用には、各国の自然条件が大きく影響していることがわかる。

目指すのは再エネ100%ではなく、CO2排出ゼロ

奥田:ヨーロッパでは、再生可能エネルギー100%を目指すという目標に対して、それだけの根拠があるのです。一方、日本はと言うと、エネルギー資源の状態を見ると再生可能エネルギーだけでこの国のすべての電気を賄うのは難しいことがわかります。そこで、「再生可能エネルギーだけではなく、他にも様々ある脱炭素の方法を組み合わせて取り組んでいきましょう」というのが、私たちJERAの提案なのです。

その提案の核となるのが、今まさにJERAが取り組んでいる「JERAゼロエミッション2050」だ。これまで、火力発電は化石燃料を燃料にCO2を排出しながら発電するものであった。しかしJERAは、使用する燃料を化石燃料からアンモニアや水素に置き換えることで、発電する電気の量はそのままに、置き換えた分だけCO2が削減する、最終的には燃料をアンモニアや水素100%とする火力発電「ゼロエミッション火力」の実現を目指している。2024年には、愛知県にある碧南火力発電所で、燃料の石炭を現在の80%に減らし、残る20%をアンモニアに置き換えて発電する実証実験が行われる。その後は、徐々にアンモニアの割合を増やし、最終的にはアンモニアのみを燃焼させる火力発電を実現していくのだ。LNG(液化天然ガス)を利用している火力発電においても同様に、段階的に水素に置き換えながら、最終的には水素のみでの発電を目指す。並行して再生可能エネルギー発電の導入も可能な限り拡大し、ゼロエミッション火力と再生可能エネルギーを組み合わせることなどで、2050年までに国内外の自社事業におけるCO2排出ゼロに挑戦している。

奥田:再生可能エネルギー100%を目指すことはもちろん素晴らしいソリューションです。しかし、もっと色んな選択肢を作ることで、それぞれの国や地域の事情にあった方法で脱炭素を目指しやすくなると考えているのです。

田中:非常に日本らしい、素晴らしい考え方だと思います。そうした発想の背景には、もしかすると日本人の宗教観も関係しているのかもしれませんね。クリスマスには教会へ行き、お正月には神社やお寺を参拝する。何かひとつの価値観を絶対的なものと考えず、いろんな価値観を受け入れていく。こうしたことを自然に行えるのは、とても素敵なことだと思っています。エネルギー問題に対する取り組みも、ヨーロッパにはない、日本独自の柔らかい考え方をされているのがよくわかりました。

奥田:どちらが正解というわけではないのです。世界には色々な国や地域があり、そこには様々な価値観がある。もちろん自然条件も異なるわけです。そうした実情に鑑みると、「世界中どこでも同じやり方で全部うまくいく」と考えることの方が、私は難しいと思っています。どうしても国や地域によって、乗り越えられない価値観の壁はあります。だから、それぞれの価値観を大切にしながら、それぞれに合った方法で問題を解決していく。私たちは、そうした文化を作りたいのです。

奥田社長CEO兼COOが語った、JERAの脱炭素社会実現への想い。そこには、単なる理想論ではなく、日本の、そして世界の実情から導き出された具体的かつ現実的な道筋があった。JERAの取り組みは、決して化石燃料を使った火力発電の延命ではない。世界の脱炭素を大きく加速させるための鍵を握ると言っても過言ではない、革新的な挑戦なのだ。

田中彩子

ソプラノ歌手、Japan MEP / 代表理事
田中彩子

18歳で単身ウィーンに留学。 22歳のとき、スイスベルン州立歌劇場にて同劇場日本人初、且つ最年少でのソリストデビューを飾る。その後ウィーンをはじめロンドン、パリ、ブエノス・アイレス等世界で活躍の場を広げている。「コロラトゥーラソプラノとオーケストラの為の5つのサークルソング」でアルゼンチン最優秀初演賞を受賞。同アルバムは英国BBCクラシック専門音楽誌にて5つ星に評された。
UNESCOやオーストリア政府の後援によりウィーンで開催されている青少年演奏者支援を目的としたSCL国際青少年音楽祭や、アルゼンチン政府が支援し様々な人種や家庭環境で育った青少年に音楽を通して教育を施す目的で設立されたアルゼンチン国立青少年オーケストラとも共演するなど、社会貢献活動にも携わっている。
2019年 Newsweek誌 「世界が尊敬する日本人100」 に選出。2022年10月22日に行われた、日本のプロ野球チームの頂点を決める「SMBC日本シリーズ2022」の開幕セレモニーでは国歌斉唱を務めた。
京都府出身、ウィーン在住。