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なぜ、アンモニアで「ゼロエミッション」が可能になるのか

2023.11.2

今年の夏は世界的に気温が高かった。

日本国内で過去最高気温を観測した地点は128地点に上り、各所で猛暑日連続記録が大幅に塗り替えられた。

北米・欧州の主要都市でも、各所で最高気温を記録。また、気温上昇は台風の大型化や山火事などの災害の引き金にもなっている。

もはや地球温暖化対策は待ったなしの状況だ。

そんななか、火力発電をメインとした国内最大の発電会社JERAは、2050年までにCO2排出実質ゼロに挑戦する「JERAゼロエミッション2050」を掲げ、その具体的な手段のひとつである、燃やしてもCO2を排出しない水素やアンモニアをこれまでの火力発電の燃料に置き換える「ゼロエミッション火力発電」の実現に向けた実証試験を世界に先駆けて開始する。

ただ、「CO2排出実質ゼロは本当に実現可能なのか」「燃料となるアンモニアはどこから調達するのか」「アンモニアを製造する過程でCO2が排出されるのではないか」といった声も多い。

同社の大滝雅人氏に話を伺った。

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アンモニアの製造過程で排出されるCO2も削減

──CO2が出ない火力発電は、本当に可能なのでしょうか。

火力発電で広く使われている天然ガスや石炭は、燃焼する際に温室効果ガスであるCO2を発生させます。

一方、アンモニアを燃焼させてもCO2は発生しません。当社は2030年までに非効率な石炭火力発電所をすべて停止し、石炭火力の燃料をアンモニアに段階的にシフトしていくことで、最終的にCO2を出さない火力発電を実現できると考えています。

これとあわせて、洋上風力発電など再生可能エネルギーへの投資を行うことも並行して進め、2050年までにJERA全体としてCO2排出ゼロを目指しています。

──火力発電に使う石炭を、すべてアンモニアに置き換えることは可能ですか。

発電設備の技術開発も進んでいますが、アンモニアを火力発電の燃料として用いるうえで必要となる、膨大な量の燃料アンモニアをどう確保するかという点が大きなカギを握ります。

2024年3月から燃料の20%を石炭からアンモニアに置き換える試験を始める愛知県・碧南火力発電所4号機(出力100万kW)において、1年間を通じて20%の燃料をアンモニアに置き換えた場合、年間約50万トンが必要になります。

日本が輸入しているアンモニアの量は年間20万トン程度に過ぎず、発電所1基のために、新たに日本全体の輸入量の2倍以上のアンモニアが必要なのです。

燃焼させるアンモニアの割合を上げたり、他の石炭火力発電所への水平展開を実施したりすれば、必要な調達量はさらに大きくなります。

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それだけの量を単純に輸入すれば良いかというと、そうもいきません。

現在、世界ではアンモニアが年間約2億トン製造されています。そのうち国際取引されているのは、全体の1割程度の約2000万トンしかないのです。

それに、現在取引されているアンモニアの多くは化石燃料由来で、製造過程で膨大なCO2を排出しています。それを輸入して火力発電の燃料に置き換えたとしても、「CO2排出実質ゼロ」を達成したとは言えません。

──どうすれば、CO2排出量をゼロにできるのでしょうか。

「CO2排出実質ゼロ」を実現するには、必要な量のアンモニアを確保するにあたり、製造・輸送・貯蔵する過程で発生するCO2を抑える必要があります。

そのために、アンモニア燃焼の技術開発だけでなく、クリーンなアンモニアを調達するためのバリューチェーンを新たに構築しなくてはなりません。

すでに「製造プロセスのCO2を減らしたアンモニア」を調達するべく、海外で複数の開発プロジェクトへの参画を目指しており、協議も大詰めを迎えています。

──CO2の排出を抑えたアンモニアの製造はどのように行うのでしょうか。

製造過程でのCO2排出を抑制するクリーンアンモニアには、主に2種類あります。

一つは、製造に必要な電気を再生可能エネルギーで賄う「グリーンアンモニア」です。

再生可能エネルギーを使って水を電気分解し、水素を取り出し、窒素を合成してアンモニアを作ります。

製造過程でCO2を排出しないのですが、今の段階では電力(再エネ)・電解プロセス共にコストが高く、発電燃料として使いづらい。

もう一つが、天然ガスなどを改質し水素を生成する過程で、発生するCO2を分離回収・貯留し、生成した水素に窒素を合成して作る「ブルーアンモニア」です。

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私たちが足元で進めているのは、米国などでの「ブルーアンモニア」製造プロジェクトです。製造時に発生するCO2の回収率は、急速に向上しており、将来的に90%を上回ると予想しています。

──日本国内でアンモニアを作ることはできないんですか。

アンモニアの製造には、ブルーアンモニアであれば天然ガスとCO2貯留地が、グリーンアンモニアであれば再生可能エネルギー設備のための広大な土地が必要になります。いずれの方法も日本国内では適した土地がありません。

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その点、米国のプロジェクトはメキシコ湾岸の広大な土地、パイプラインなどの既存インフラ設備やアンモニア製造業者の数、水素・アンモニアや再生可能エネルギーへの優遇措置など、さまざまな条件が整っています。

新しいエネルギーを導入する際には、相対的に高コストにならざるを得ないものの、太陽光やLNG同様にアンモニア製造の規模が大きくなり、技術が進歩することで中長期的に低下していくと考えられています。

グリーンアンモニアに関して言えば、製造原価の5〜6割を占めている再生可能エネルギーの価格が年々下がっていますし、水素・アンモニアの製造に必要な水電解装置の性能も向上しているため、今後製造コストは下がっていくと考えています。

ゼロエミッションには、バリューチェーンの創出が必要

──グリーンアンモニア、ブルーアンモニアの供給量は、安定的に調達できるくらいまで増えるでしょうか。

アンモニアを発電用の燃料として直接利用する計画は、現在のところ日本・韓国にしかありません。

そのため、アンモニアの安定供給や低コスト化を実現するには、グローバルで製造・輸送・貯蔵にかかわるビジネスを創り出さないといけません。

それぞれのセグメントに我々自身が乗り出し、関与していくことによって、アンモニアの市場を広げ、供給網を太くしていくことが必要です。それが、JERAが発電設備の開発とあわせて構築に取り組んできた「バリューチェーン」です。

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──サプライチェーンとは違うんですね。

バリューチェーンとは、価値の連鎖です。たとえば大規模な再エネの開発、アンモニア製造、港湾からタンカーでの輸送。それぞれのセグメントだけを見ているとサプライチェーンですよね。

私たちは、JERAがすべてのセグメントに関与することによって価値の連鎖を生み、特定の領域だけでビジネスをするよりも社会全体の価値を高める余地があると考えているんです。

たとえばLNGについても、受け入れ基地だけ用意して、オイルメジャーに届けてもらうのを待って発電するだけだと、コスト構造や供給力を把握できず、経済効率性・安定性のある調達をしようにも他力本願になりかねません。

なにより、我々のビジネスも広がらず、イノベーションも生まれない。これでは、社会に対して価値提供できる幅が非常に狭い。

より上流から資源の開発に投資し、輸送や発電まで技術やノウハウを持ったパートナーとつながることで、従来の領域を超えた新たな価値、新たなソリューションを創造することができます。

アンモニアを軸に広がる協業体制

──実際にバリューチェーンの構築は、どの程度進んでいますか。

製造に関しては、世界最大手の窒素系肥料メーカーであるヤラ・インターナショナルや、世界最大のアンモニアメーカーであるCF Industriesと協力して、複数のブルーアンモニア製造プロジェクトを進めています。

製造したアンモニアを輸送する手段については、日本郵船や商船三井とパートナーシップを結びました。大型アンモニア輸送船の開発や安全な輸送体制を共に検討しています。さらに将来的に船舶燃料としてアンモニアを用いた推進機関を搭載した輸送船の利用も研究しています。

また、大量のアンモニアを国内で受け入れ、貯蔵する設備として、国内パートナー企業と共に受け入れ設備の建設やアンモニア供給体制の構築を研究しています。

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──バリューチェーンを構築したことで、どのようなビジネス展開が可能になりますか。

期待しているのが、水素関連のビジネスです。アンモニアはそれ自体を燃料として直接利用することもできますし、分解して水素を取り出すこともできます。

今後、クルマや船舶などのモビリティ、家庭用ガスの燃料が水素に代わっていくと見られていますが、水素を大量に輸送する際は、体積の小さいアンモニアの状態で運び、輸送先で水素を取り出すという方法が検討されています。

社会全体で水素の生産・輸送・貯蔵の必要性が高まれば、アンモニアに関するノウハウが不可欠になるでしょう。そこで、当社のアンモニア活用技術や、インフラ等が幅広い分野で生きてくるはずです。

発電用途に限らず、あらゆる産業の脱炭素化に貢献していきたいですね。

すでに、当社はドイツのエネルギー企業EnBWとは、アンモニアから水素を取り出すプラントの研究で協力しています。アンモニアを燃料や化学素材としてだけではなく、水素のキャリアー(運搬手法)としてとらえ、水素を供給するビジネスモデルを共に実現したいと考えています。

また、同じくドイツのエネルギー企業Uniperへアンモニアを供給する覚書を締結しました。

昨年実施したクリーンアンモニアの国際入札などを通じて、これまで接点の薄かった企業とのつながりが生まれたことが、こうしたビジネスにつながっていると感じています。

バリューチェーンの各セグメントに関与したことで、自分たちの今までの領域を超えたチャンスが次々に生まれてきていると実感しています。

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──一般的な電力会社のイメージと異なる部分にも、事業が広がっているのですね。

当社の母体となった東京電力や中部電力と比べると、雰囲気は変わったかもしれません。

ただ、変化の一方で、私たちの根底には、エネルギーセキュリティ(電力の安定供給)に対する強い思いがあります。市場環境やビジネス環境の変化があっても、そこは変わりません。

電力の安定供給という提供価値を維持しつつ、脱炭素に関するソリューションを社会に対してしっかりと提示しながら、「2050年までにCO2排出実質ゼロを実現する」という目標に向けて進んでいきたいと思います。

制作:NewsPicks Brand Design

※このコンテンツは、JERAのスポンサードによってNewsPicks Brand Designが制作し、NewsPicks上で2023年11月2日に公開した記事を転載しています。
https://newspicks.com/news/9012214
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