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脱炭素のプランA。なぜ日本はアンモニアを火力発電燃料に用いるのか

2023.10.30

2050年までのゼロエミッション(CO2排出実質ゼロ)の実現に向けて様々な脱炭素施策が進むなか、JERAはその一つとして、石炭火力発電所の燃料をアンモニアに置き換える取り組みを発表。2024年3月には当初予定を1年早めて、燃料の20%をアンモニアに置き換える実証試験を開始する。
アンモニアは燃焼時にCO2を排出しないことから、次世代エネルギーとして期待されている。商用の火力発電所で大規模に使うのは世界初の取り組みだ。環境先進国と言われる欧州が重視する再生可能エネルギーに加えて、既存の火力発電所を活用したアンモニア利用へと向かうJERAの狙いとは? その技術はどのように開発・改良されたのだろうか。

世界初。CO2を出さない火力発電への第一歩

愛知県三河湾に臨む碧南火力発電所の1~5号機のうち、新型かつ発電出力が大きい4号機で、世界初のアンモニア大規模燃焼実験が始まる。

石炭や石油、天然ガスなどを燃やして電気を生み出す火力発電は、日本の電源構成の8割近くを占める※。化石燃料には炭素(C)が含まれおり、燃焼して酸素(O2)と結びつくとCO2が発生するのが課題だ。JERAは碧南火力を皮切りに、「CO2の出ない火力発電」の実現を目指す。
※2019年度、経済産業省「第6次エネルギー基本計画」より

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JERA碧南火力発電所

石炭火力発電所の脱炭素化実現へのカギを握るのがアンモニアだ。アンモニア(NH3)は燃やして酸素(O2)と結びついても、CO2が出ない。JERAは既存の石炭火力発電設備を改良し、アンモニアを石炭の代わりに燃やすことでCO2排出量を削減する。その第一歩が20%の燃焼実験だ。

脱炭素化といえば、洋上風力発電など大規模な設備投資が必要なイメージがある。しかし、アンモニアを燃焼させる場合、アンモニア受け入れ設備を整え、既存石炭火力発電所の一部を改造すれば実現できる見込みだという。

石炭火力では、ボイラーで水を沸かし蒸気を発生させて、羽根車のようなタービンを回し、電気を作る。ボイラーの熱源は、石炭を燃料とするバーナーを着火することで確保する。アンモニアを燃焼させるには、このバーナー部分を差し替えるだけで済む。

目前に迫るアンモニア火力発電は、石炭使用量・CO2排出を2割削減する。今後、50%、60%とアンモニアの割合を増やしていくと、その分だけ石炭使用量・CO2排出量も減っていく。

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既存設備を活用するメリットは、段階的にアンモニアの割合を高め、技術や安全性を検証しながら低コスト・短期間で低炭素化を推進できること。燃料アンモニアによる発電は、JERAが2020年に発表した「JERA ゼロエミッション2050」の重点施策のひとつだ。

2021年には国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成を受け、碧南火力発電所での小規模燃焼実験を開始。バーナーの改良や、燃料アンモニア輸送・受け入れ設備などの工事を並行して進めてきた。

JERAのO&M・エンジニアリング戦略統括部・技術経営戦略部長の坂(ばん)充貴氏は、「低炭素技術をできるだけ早く社会実装することが至上命題。その認識のもと、発電所のみなさんや協力会社の一人ひとりが、少しでも工期を縮めようと考えて工夫しています」と話す。

数年前まで「本当にできるのか」と疑われていた新たな脱炭素ソリューション開発は、当初のロードマップよりも1年前倒しで進んでいる。

なぜ「アンモニア」だったのか

JERAがアンモニア火力発電の技術開発に着手したのは、2016年ごろだ。

前年に開催されたCOP21では全ての国が参加する温室効果ガス排出削減の新たな枠組み「パリ協定」が採択され、電力業界でも「脱炭素化」が急務となっていた。

しかし、電力や燃料などのエネルギー分野でゼロエミッションを実現するには、CO2排出量の削減に加えて「安定供給・経済性・環境・安全性」のすべてを成立させることが前提になる。

当時は産官学を挙げて新たな電源をつくろうと、再生可能エネルギーや水素・アンモニア、バイオマスなど様々なプランが検討されていた。

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「JERAの社内でも、化石燃料を使わない道はないのか、再生可能エネルギーに大きく舵を切るべきではないかと議論が尽くされました。しかし、最終的に私たちが考えないといけないのは、CO2を削減しながらも、エネルギーをいかに効率的に安く、安定的に供給できるかです。

今ある技術やインフラ、社会が受容できるコストなどを現実的に考えると、天候によって発電量が上下する再エネをどれだけ増やしても、調整力としての火力が欠かせない。それならば、水素でできているクリーンなエネルギーを海外から日本へ運び、燃焼させて発電することでCO2を削減するほうが現実的だと考えたんです」(JERA・坂氏)

そんな議論のなかから浮かび上がってきたのが、「アンモニアを燃やす」という新たな選択肢だ。

2014年度から2018年度にかけて、内閣府の「戦略的イノベーションプログラム(SIP)」では、「アンモニア直接燃焼」をテーマにした共同研究開発が行われていた。

同プロジェクトに参加していた企業や機関には、JERAの前身である中部電力、プラントメーカーのIHI、電気事業の研究財団である電力中央研究所などがある。現在、JERAでアンモニア火力発電の実証に携わる尾崎亮一氏も、このプロジェクトに初期から参加していたメンバーの一人だ。

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「当初、アンモニア直接燃焼の開発は50kWほどの小さなガスタービンで行われていましたが、それ以上大型化するとNOxが極端に増加するので商用利用は難しいと言われていました。ところが、2016年ごろに石炭と一緒に燃やし燃焼速度を遅くすれば大型のボイラーでもNOxを抑制できるという発想の切り替えがあった。
この技術を旧型や小規模な研究設備で実験するだけでなく、碧南火力発電所にある世界最大規模の発電設備を使って一気に商用化を目指した。これが大きな転換点でした」(JERA・尾崎氏)

アンモニア(NH3)を燃やしたときに出る窒素酸化物(NOx)は、光化学スモッグの原因となる大気汚染物質であり、一部の窒素酸化物(N2O)は温室効果ガスでもある。この排出を抑えることが、アンモニア直接燃焼におけるいちばんの技術課題だ。

アンモニア20%の発電で、なにが実証されるのか

内閣府のプロジェクトは2018年で終了したが、その研究成果とパートナーシップは引き継がれた。2015年に東京電力と中部電力の出資によって設立されたJERAは、2019年に国内火力発電事業の統合を終え、IHIとの研究開発をさらに推進した。

最新型設備である超々臨界圧プラント、碧南火力発電所の4号機、5号機を使ってアンモニア火力発電の技術開発に取り組み、海外でのアンモニア製造・調達から輸送、発電まで新しいエネルギーのバリューチェーン構築に乗り出したのだ。

アンモニアは既に、肥料や化学製品、食品添加物などの産業用途で使われており、マイナス33度で液化して運び、安全に貯蔵する技術が確立している。輸送船やタンクを大型化すれば、世界から日本へクリーンエネルギーを供給する現実的な方策になりうる。

技術的な課題はやはり、NOxをいかに抑えられるか、だ。アンモニアの燃焼技術開発に長く関わってきたIHIの須田俊之氏は、「NOxの発生を抑制する研究や技術開発が進んでいたことが、日本のアドバンテージになっている」と語る。

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「石炭には窒素分が含まれていて、石炭火力発電所でも少量のNOxが出る。これをどう抑えるかという研究は1980年代から続いていて、日本の石炭火力発電所にはバーナーや空気の入れ方の工夫によりNOxを抑制、さらには除去する技術が実装されています。
その技術を応用できたことが、アンモニア火力発電をここまで短期間で進められた要因です」(IHI・須田氏)

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NOxを抑えるには、石炭やアンモニアに含まれる窒素分(N)を極力酸素(O2)と結合させないことがポイントだ。日本の石炭火力発電所では、最初に空気が少ない状態で燃やして窒素分がNOxになりにくくして、あとから空気を加えて燃え残りを燃焼させる二段燃焼という高度な技術が使われている。

実は、兵庫県・相生市にあるIHIの試験設備では、アンモニア100%で燃やせるバーナーがすでにできている。

碧南火力発電所での実証試験で検証されるのは、大規模な発電設備で大量のアンモニアを燃やすためのバーナー吹き出し口の角度や、最適な空気量の調整。加えて、設備の劣化状況や発電効率のデータを細かく取り、商用運転に進めるかどうか調べる。

「我々のゴールはアンモニア100%のゼロエミッション火力発電です。簡単ではありませんが、今までの研究の蓄積を利用し、理屈が正しいことをある程度まで証明できた。どのアプローチで進めれば商用化にたどり着くのかは見えています。
日本は技術で先行してビジネスで負けるとよく言われますが、ここからできるだけ早く商用に持って行くことでリードを保てると思います」(IHI・須田氏)

CO2を2割減らすためにできること

JERAの尾崎氏によると、「アンモニアが燃えることはわかっているので、技術的には専焼は可能」。3月に予定されている20%の実証試験は、できるかできないかを確かめるのではなく、“既存の発電設備を使ってどこまで燃焼効率を高められるか”を確かめる意味合いが大きいという。

目指すのは、できるだけ設備の改修コストを下げながら発電効率を高め、最終的な電力価格を下げていくこと。

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「ここから段階的にアンモニアの燃焼比率を上げていきますが、脱炭素を目的とする以上、できるだけ早く50%以上を実現したい。そうすると、主力燃料がアンモニアに切り替わり、本当の意味で『アンモニア火力発電』が認知されていくでしょう」(JERA・尾崎氏)

その先は、まだ技術的にも不透明な部分や課題が多い。70%、80%と上げていくなかで、発電コストにかかわる燃焼効率を維持するために、アンモニア専用ボイラーの建設が必要になるかもしれない。

前出の坂氏は、エネルギー供給を考えるうえで、「いろいろな取り組みを同時に進めて、選択肢を増やしておくことが重要だ」と言う。

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「今まさに碧南でアンモニア発電の実証を進めているチームや、国際入札を含めて燃料アンモニアの製造・調達に取り組む上流のチーム、商船三井や日本郵船と共同でアンモニア輸送船の建造を進めているチームなど、JERAの社内にもさまざまなセクションがあります。私たちは、パートナーも含めてチームビルドして、アンモニア火力発電のバリューチェーンをつくろうとしています。
一歩一歩着実に安全性を確かめながら、燃料アンモニアによる電力を増やしていく。仮に碧南火力発電所で100%の燃焼が実現しなかったとしても、技術や設備、パートナーシップは残ります。アンモニアよりもよい技術が見つかれば、状況に応じて最適な手段を採り入れ、組み合わせていく。JERAが目指しているのは、2050年にクリーンなエネルギーで生み出した電気を送り続けていることです」(坂氏)

制作:NewsPicks Brand Design

※このコンテンツは、JERAのスポンサードによってNewsPicks Brand Designが制作し、NewsPicks上で2023年10月30日に公開した記事を転載しています。
https://newspicks.com/news/9010808
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