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【日本発】
世界が注目する
「CO2を出さない」
火力発電

2023.1.17

 愛知県は名古屋市から南へ40キロほど。移動時間にして約1時間の場所に位置する、日本最大の石炭火力・碧南火力発電所。
 1991年に開業、現在では愛知県の半分の電力供給を担う地域の重要なインフラで、国内外のエネルギー関係者から大きな注目を集める挑戦が行われている。
 それが、「CO2を出さない火力発電」だ。

【日本発】世界が注目する「CO2を出さない」火力発電 イメージ1

碧南火力発電所。壁面のデザインは、三河湾に浮かぶヨットがモチーフになっている。

 火力発電のなかでも、特にCO2排出が多く、脱炭素が進むなかで槍玉に挙げられやすい石炭火力。
 それにもかかわらず、「CO2を出さない」とは一体どういうことか?
 本記事では、碧南火力発電所を運営する日本最大の発電事業者・JERA副社長の奥田久栄氏と、同所への取材を通して、実態に迫っていく。

INDEX

脱炭素はグローバル市場への「入場券」

 2020年10月26日、政府は2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を宣言した。
 その約2週間前の10月13日、国内最大手の発電事業者であるJERAは、2050年までに段階的にCO2排出をゼロに近づけていく長期ビジョン「JERAゼロエミッション2050」を発表。
 2015年に東京電力と中部電力の火力・燃料事業の統合によって生まれ、日本の火力発電の約半分の出力を占める同社の「CO2排出ゼロ」への意思表示は、日本のエネルギーシフトにとって重大な出来事だった。
 ビジョンの策定をリードしたJERA副社長の奥田久栄氏は、脱炭素へのコミットを「世界規模でエネルギービジネスを行う上での“入場券”」と形容する。

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1988年中部電力株式会社入社、2017年グループ経営戦略本部アライアンス推進室長。2019年JERA常務執行役員経営企画本部長に就任後、取締役常務執行役員経営企画本部長、取締役副社長執行役員経営企画本部長を経て2022年より現職。

「世界、特に先進国のエネルギー企業は、環境に対する姿勢を強く問われています。
 もはや、それがなければ、グローバルで他社とパートナーシップを組んだり、ファイナンスを受けたりはできないと言っても過言ではありません。
 火力発電がメインの発電事業者として、そして今後、海外事業をさらに拡大していくグローバル企業として、脱炭素への取り組みは私たちに絶対に欠かせないピースでした」(奥田氏)
 石炭や石油、LNG(液化天然ガス)などを燃やし、電気をつくる火力発電。
 資源に乏しい日本でも、安定的に燃料を調達でき、太陽光や風力といった再生可能エネルギーのように自然条件に左右されず、広大な場所も必要としない。
 現在の日本の電源構成の約8割を占め、政府が発表したエネルギー基本計画でも2030年の電力構成の約4割を占める案が示されている、重要な発電法の1つだ。
 CO2排出量が多いという点はあるが、JERAはこれを徐々にゼロに近づけ、最終的にはCO2を排出しない「ゼロエミッション火力発電」の実現を目指す。
 その上で、再生可能エネルギーも同時に推進し、ゼロエミッション火力と相互補完するかたちで低炭素・脱炭素化を進めていくのだ。

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JERAはゼロエミッション火力と再生可能エネルギーの両輪でCO2削減に取り組む。

「CO2の出ない火」をつくる

 では、具体的にどうゼロエミッション火力を実現するのか?
 カギを握るのは「アンモニア(NH3)」と「水素(H2)」だ。化学式からもわかるように、この2つには「炭素(C)」が含まれていない。
 つまり、燃やして酸素と結びついても、CO2が出ないのだ。
 2050年のゼロエミッション実現に向けてJERAが描くロードマップでは、石炭やLNGを燃料とした現状の火力発電設備に手を加え、それぞれ化学的に相性のいいアンモニアと水素を「混焼」する。

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 冒頭で紹介した碧南火力発電所は、その実証の舞台だ。
 2021年からは、重工業大手・IHI社と共同で、石炭とアンモニアの小規模混焼がスタート。
 2023年度には、混焼率20%の実証試験を実施、その結果を踏まえた本格運用が始まり、2040年代の専焼化に向けて段階的に混焼率を上げていく。
 この混焼率が、すなわち「CO2排出の削減率」だ。
 JERAの計画では、碧南火力での実証を通して世界初のアンモニア大規模混焼技術を確立し、国内外の火力発電所にも適用していく。

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「アンモニア」に賭ける理由

 これまでも、水素は次世代のクリーン燃料として有望視されており、自動車や船の燃料、発電のエネルギー源など幅広い分野で期待を集めている。
 一方、アンモニアをエネルギーとして活用する例はほとんどないが、なぜJERAはアンモニアに注力するのか?
 いくつか理由があるが、まず大きいのは「既存の技術や設備を生かせる」こと。

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「通常、新しい燃料を扱う際は、それに適した新しい発電設備をつくる必要がありますが、アンモニアの混焼は、既存の発電設備を少し改造するだけで実施できます」(奥田氏)
 石炭火力は、「ボイラー」と呼ばれる高さ80mの大きな直方体に、石炭を燃やして火を放つバーナーを差し込む。
 その熱で水を沸かして蒸気に変え、タービンと呼ばれる発電機の羽根車を回して電気をつくるのだ。
 アンモニアの混焼は、このバーナー部分を少し変えるだけで、実現が可能。
 アンモニアを貯めておくタンクや配管は別途必要になるが、その他の発電設備や送電線にはほとんど手を加える必要はないという。
 奥田氏の話すとおり、多額のコストと長期間の準備や工事が必要となる発電所の新設と比較し、「ゼロエミッション火力発電」は低コストかつスピーディーに脱炭素化を進める有効な手段だろう。

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 加えて、日本の石炭火力はアンモニアの扱いに「慣れている」。
 というのも、アンモニアは火力発電の排ガスに含まれる有害物「窒素酸化物(NOx)」を、窒素(N2)と水(H2O)に分解する「脱硝」のために、すでに火力発電所で使われているのだ。
 光化学スモッグの原因になるNOxだが、1970年代の公害問題などを経て、日本は世界でも群を抜いた処理技術を持つ。
 アンモニア自体を燃やす際にもNOxは発生するが、すでにある技術で対応できると踏んでいる。

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排ガスの環境設備。窒素酸化物や硫黄酸化物などを取り除く。

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脱硝用のアンモニアタンク。

世界が注目する「碧南火力発電所」

 率直に「嬉しい」と感じた――アンモニア混焼の計画を聞いた当時のことを、碧南火力発電所の谷川勝哉所長は振り返る。
 先出のとおり、CO2排出がとりわけ多い石炭火力。
 碧南火力発電所では、15年以上前から「木質バイオマス」や、下水道処理で生まれる「炭化汚泥」と呼ばれる物質を石炭に混焼し、CO2を減らす先進的な取り組みを行ってきた。
 だが、それでも一定のCO2は出てしまう。電力の安定供給を担う自負はありつつも、世界的な脱炭素の流れを受け、少しだけ肩身が狭い思いをしていた。

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「そんな矢先に入ってきた実証の話だったので、私を含め、職員はみな責任と誇りを感じていました。日本ならではの技術を生かした、大きな挑戦がここで始まるんだ、と」(谷川氏)
 碧南火力発電所には、現在5つの発電設備がある。発電所の開設初期につくられた70万kW出力が1〜3号機、そして100万kW出力の4〜5号機だ。
 発電に使われる石炭は、オーストラリアやインドネシアなどの国から輸送船で運ばれ、約30万平方メートル、およそ東京ドーム6個分の巨大な貯炭場に山状に貯められる。
 その後、ベルトコンベアに乗って、1〜5号機に送られる仕組みだ。

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エネルギーセキュリティおよび燃料コストの低減を追求すべく、複数種の石炭を組み合わせて使用する。これまで碧南火力発電所で扱ってきた石炭は160種類ほど。

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山型に積まれた石炭。下部に水が溜まっているのは、石炭が飛ばないように定期的に散水しているため。

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石炭は、写真中央部の長いベルトコンベアに乗って各発電設備に運ばれる。

 取材を行った2022年11月は、5号機での0.02%の小規模な混焼テストを終えた後だ。
 先に述べたとおり、ボイラー本体には手を加えない。ボイラーに差し込まれた48本のバーナーのうち、2本だけを改造してアンモニア混焼が実施された。
 そこで、2023年度に控える20%の大規模混焼実証に向けた実証用バーナーの開発を主目的に材質の違いによる影響や実証用バーナーに必要な条件を確認したという。
「小規模テストでは必要なデータも採取でき、発電設備運用においても、まったく問題ないことが確認できました。
 今は、世界初となる『20%のアンモニア混焼実証』に向けて準備を進めているところです」(谷川氏)

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発電を行うタービン(5号機)。

 2023年度からの20%混焼は、実証の順調な進捗を踏まえ、当初の計画よりも1年前倒しでのスタートとなる。
 世界初の実証が行われる現場を一目見ようと、碧南火力発電所には多数のメディアやエネルギー関係者が、国内外から訪れる。
「多くの方に期待いただいていることに気が引き締まります」と、谷川氏。
 取材の最後は、「地域の皆様ならびに一緒に働く仲間の安全を第一優先に、一歩ずつ着実に実証を進めたい」と言葉を結んだ。

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実証用のアンモニアタンクの建設予定地(写真手前のクレーン付近)。

混焼に向けた「もう一つの壁」

 ゼロエミッション火力の実現に向け、準備が進められているアンモニア混焼。
 だが、利用を本格化するには、もう1つ乗り越えなくてはいけない壁がある。
 それが、「アンモニアの確保」だ。
 現在、国内で消費されているアンモニアは主に工業用がメインで、その規模およそ年間100万トン。
 一方、石炭にアンモニアを20%混焼して、100万kWの電力を発電するには、年間50万トンのアンモニアが必要になる。
 つまり、現在日本で使われているアンモニアの半分を、碧南火力発電所4号機の20%混焼(年間)で使ってしまう計算になるのだ。
 さらに、今後アンモニアの混焼率を上げていくためにも、膨大な量のアンモニアを確保できるかがキーポイントになるが、ここはどうするのか。
 奥田氏は「初期のLNG同様、アンモニアの価値が認められれば、調達のハードルは下がっていくだろう」と予想する。

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LNG輸送船「総州丸」。

「今でこそ、LNGはさまざまな国にとって欠かせない燃料の1つになっていますが、実は天然ガスは、石油を掘ったら一緒に出てくる副産物で、もともとは捨てられてしまうものだったんですよね。
 それが50年ほど前に、これは燃料として使えるぞ、と日本を筆頭にいくつかの国が使い始めた。そして、ニーズが増えていった結果、サプライチェーンが安定して、コストも下がっていったわけです。
 同じように、アンモニアも大量に使いたいという需要があれば、それに見合う供給も自ずと増えていくのではないか、と」(奥田氏)
 その実、アンモニア混焼についての構想を発表後、JERAには中東やアジア、オーストラリアなどあらゆる国から燃料調達へのオファーがあったという。
 2022年2月にはアンモニアの調達に向けた国際入札を実施。現在は複数の事業者と、具体的な取引に向けて協議を進めているところだ。

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 国内企業との連携も同時に進めている。
 2022年11月には、九州電力、中国電力、四国電力、東北電力の4社と発電用燃料としての水素・アンモニアの共同調達などをはじめとした協業の検討を公表。
 同月、JERAは日本郵船と商船三井との協業も発表し、大型アンモニア輸送船の開発、安全な輸送体制の構築などを踏まえた、サプライチェーンの構築・拡大を両社と具体的に検討中だ。

アジアを中心に海外にもアプローチ

 さまざまな課題を乗り越えながら、ゼロエミッションの実現に向けて歩みを進めるJERA。
 先に見据えるのは、日本で培ったソリューションの「海外展開」だ。
 たとえば、東南アジア諸国は経済成長率が高く、電力需要が増えている。その上、まだできたばかりの石炭火力発電所も多い。
「今後は、先進国のみならず、世界全体でCO2排出ゼロへのコミットが、求められるようになるでしょう。
 その中で、大きな改造を必要とせずにカーボンフリーを実現できるアンモニアへのニーズは、さらに高まると踏んでいます」(奥田氏)

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 加えて、これまでは「脱火力」を掲げていたヨーロッパ諸国も、ロシアによるウクライナ侵攻などを機に、「現実的な発電手段」として火力に再び注目している。
 すでにJERAにも、アジアだけでなく、ヨーロッパの事業者からもアンモニアに関連した相談が来ているそうだ。
 これまで、「火力はCO2を出す」のが常識だと考えられてきた。だが、それはもう過去のものになるかもしれない。
 常識を覆す挑戦が今、日本で始まっている。

制作:NewsPicks Brand Design
編集・執筆:高橋智香
撮影:森カズシゲ
デザイン:小谷玖実

※このコンテンツは、JERAのスポンサードによってNewsPicks Brand Designが制作し、NewsPicks上で2022年12月23日に公開した記事を転載しています。
https://newspicks.com/news/7878973
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