JERA Cross × ヤマトグループが“爆速”で挑む、脱炭素の新たな一手
2025.6.23
脱炭素化が難しいと言われる業界において、その壁をいかに突破するか──。
2024年5月に設立したJERA Crossが、企業の脱炭素化に向けた課題を解く「GX(グリーン・トランスフォーメーション)のエンジン」として動き出した。
JERA CrossはJERAのGX専門の子会社として2024年6月に始動。戦略コンサルタント、エネルギーの専門家、デジタルの実務家たちが機動的なチームを構成し、企業のGXを「構想」から「実行」へ、そして「負担」から「価値」へと転換する “共創パートナー”である。JERAのアセットを活用しながら、個社ごとの事情や状況に応じた、テーラーメイドかつワンストップなGX支援が最大の強みだ。
設立から1年、JERA Crossがその強みを活かし、物流業界のGX支援に乗り出している。パートナーは宅配最大手のヤマトグループ。ヤマトホールディングス株式会社は2025年1月、再生可能エネルギーの調達・供給を担う新会社、ヤマトエナジーマネジメント株式会社(以下、ヤマトエナジー)を立ち上げ、JERAグループとともに電力事業を開始する。
この挑戦を全面的に支援するのが、JERA Crossだ。電力量のバランスを保つ需給運用をサポートし、将来的にはヤマトグループへの「24/7カーボンフリー電力」(毎日24時間・週7日間、年間365日にわたってCO₂を排出しない電力)の供給をめざす。この取り組みが実現すれば、ヤマトグループだけでなく、物流業界全体の変革をもたらす突破口となる。
国内における発電電力量の約3割を占めるJERAグループと、宅配最大手のヤマトグループ。2つのリーディングカンパニーが動かす、新たなGXモデルに迫る。JERA Cross取締役執行役員CPO(Chief Product Officer)の一倉健悟氏と、ヤマトエナジー代表取締役社長の森下さえ子氏に、その舞台裏を聞いた。
「ヤマト運輸の全国約3,000拠点を束ねて、エネルギービジネスをやろう」
JERA Crossの一倉氏はヤマトグループとのやりとりをこう振り返る。
「最初にご提案したのは、ヤマト運輸が多数保有している拠点の屋上に太陽光パネルを設置し、自己託送制度を活用して他拠点で電力を利用するという、一般的なエネルギーサービスでした」
しかし、ヤマトグループが見据えていたのは、もっと先の未来だった。
脱炭素化を進めるにあたり、特に課題となっていたのは車両からの温室効果ガス(GHG)排出である。たとえ車両をEVに置き換えたとしても、その電力がクリーンでなければ間接的であっても、GHG排出を伴うこととなる。さらに、サプライチェーン全体のGHG排出量を把握し、削減するスコープ3*への対応が重要視されている昨今において、輸送を担うヤマトグループが果たすべき役割や責任は一層大きくなっている。そうした目線のもと、ヤマトグループは自社が排出するGHG削減に留まらず、物流業界全体の脱炭素に貢献したいという強い決意があった。
*スコープ 1 は企業自身の直接排出、スコープ 2 は他社から供給される電気・熱・蒸気の使用に伴う間接排出、スコープ 3 はサプライチェーン全体でのスコープ1 ・ 2 以外の間接排出を指す。
この難題に真正面から取り組むために、ヤマトグループは自社が保有する全国の太陽光パネル、蓄電池、EVなどのエネルギーリソースを一括で管理・運用し、そのリソースを活用してエネルギービジネスを展開する構想を掲げた。
「ヤマトグループの壮大なビジョンを聞いたとき、物流のリーディングカンパニーが、自前でエネルギービジネスを展開したいと仰ったその高い志に深い共感を覚えるとともに、実行のハードルは一気に跳ね上がりました」(JERA Cross 一倉氏)
ここから、ヤマトグループとJERAグループが手を携え、物流業界のグリーン・電力課題を解決する新たなGXモデル誕生の幕が上がった。
ヤマトグループは2050年度までにGHG自社排出量実質ゼロを達成するため、2030年度までに温室効果ガスの自社排出を 2020 年度比で 48%削減するという高い目標を掲げている。その達成には、EVや太陽光パネルなどの設備導入や個別対策に加えて、
①昼夜を問わず再エネを安定確保できる多様な電源ポートフォリオの構成
②全国約 3,000 拠点の消費データを30分単位で統合制御する高度なエネルギーマネジメント体制の構築
──といった抜本的な改革が必要だった。
これまで各拠点で進められてきた太陽光発電設備の導入や再エネ購入は、契約・運用が拠点ごとに分散していたため、全国規模での最適化や24時間連続した需給調整を実現する横断的な管理体制には至っていなかった。
ヤマトグループが電力事業への参入を決断
ヤマトグループの壮大なビジョンに対し、JERA Crossは「同じ未来を見据える共創パートナー」として並走する姿勢を明確にした。単なるサービス提供者ではない。社内のコンサルタントとエネルギー専門家によるチームが立ち上がり、ヤマトグループの構想を現実的かつ緻密なモデルへ落とし込んでいく。ヤマトグループからは提案が次々と寄せられ、それに対しJERA Crossは課題と打ち手を定量的、定性的に整理してヤマトグループへ提示。フィードバックを受けてブラッシュアップし、プランが強力に磨かれていった。
「まずは全国約3,000拠点における再エネ・蓄電池・EVの需給運用をJERA Crossが全面的に支援します。その成果が見えてきた段階で、徐々に運用をヤマトエナジーへ引き継ぎ、最終的には同社が“電力小売事業者”として発電所から電力を直接調達できる体制にする──。排出削減の選択肢を大幅に拡大するロードマップで、双方の認識が一致しました」(JERA Cross 一倉氏)
ヤマトグループが自ら電力小売会社を設立することで、発電所から電力を直接調達できる資格を得ることができ、再エネ比率や電力コストを自らコントロールできるようになる。脱炭素に向けた選択肢を広げ、実行力を高めるための決断だった。
さらに、地域で発電した再エネを有効に活用したいという想いもあった。
「ヤマトグループは、『宅急便』をはじめとする地域密着型の物流事業を続けてきました。営業所は、全国各地にあります。電力小売会社を立ち上げることで、地域で発電された再エネを自社の拠点で使うだけでなく、地域にある運送会社や、EVを使用する企業にも供給することができます。これにより、物流業界全体の脱炭素化をさらに後押しできると考えました。地域社会とともに歩んできた私たちの原点とも重なる取り組みです」(ヤマトエナジー 森下氏)
物流業界の脱炭素化を加速させるべく、ヤマトグループは、エネルギー分野にも自ら深く踏み込む道を選んだ。
構想から約1年で新会社設立。エネルギービジネスの第一歩。
動きは速かった。ヤマトグループはJERAグループとの協議からわずか約1年後の翌2025年1月にヤマトエナジーを設立。(2025年4月現在、小売電気事業者の登録申請中)「JERA Crossの全面的なサポートがあってこそ実現しました」(ヤマトエナジー 森下氏)。
ヤマトエナジーのめざす姿
協業のスピード感を後押ししたのは、JERA Crossがヤマトグループの壮大なビジョンを具体的なアクションに落とし込む支援を行い、「同じ方向を向く共創パートナー」という関係を早期に築けたことだ。
さらに、JERA Crossが運営するバランシンググループ*に加わることで、一社単独で電力の供給と需要を調整するよりも、効率的かつ安定的に需給運用が行えるという安心感も大きな決め手だった。
「ヤマトグループの壮大なビジョンに対し、JERA Crossが一つひとつのステップを具体化する支援をできたことは大きな意味を持ったと思います」と一倉氏は振り返る。
*複数の事業者が共同で同時同量を達成する仕組み
わずか3か月で約3,000拠点の契約を切り替え
両社の協業のスケールとスピード感を物語るエピソードがある。
ヤマトエナジー設立からわずか3か月後に、全国約3,000拠点の電力マネジメントをヤマトエナジーに一括で切り替える方針が決まった。「当社は全国津々浦々に多くの拠点を持っておりますが、会社設立からわずか3カ月で全拠点での運用を始められたのは、JERAグループの力強いサポートと多くの方々のご協力があってこそです」と語るのは、ヤマトエナジー社長の森下氏。
「現場は締め切りに追われて、てんやわんやでしたが、ここまできたらと覚悟を決めて走りきりました」(JERA Cross 一倉氏)。ヤマトグループの再エネ活用は、ここから本格的に動き出した。
「“爆速”で切り替えを実現することができ、JERA Crossにとっても自信になりました。難易度が高いと言われる物流業界でできたなら、他の業界にも展開できる、そんな手応えも感じています」(JERA Cross 一倉氏)
コンサル・運用・デジタルで支えるGX推進
JERA Crossがヤマトグループに提供している機能は「コンサルティング」「エネルギー運用」「デジタルテクノロジー」。「フェーズごとに、重心を置き換えながらソリューションを提供するのがJERA Crossのサービスです」(JERA Cross 一倉氏)。
今後、両社が取り組むのは、3つのフェーズにわたるGXプロジェクトだ。
電力の需給調整については、まずはJERA Crossが主体となって取り組み、成果が見えるところまでしっかりと事業運用を行う。運用モデルがある程度固まった段階で、その「型」をヤマトエナジーに引き継ぎ、徐々にヤマトエナジー自身が運用を担えるようにしていく。最終的には、ヤマトエナジーが自ら再エネの開発を行い、電力小売会社としてクリーンな電力を自ら調達し、ヤマトグループ、および他社に供給していくことを目指す。JERA Crossは、必要に応じて支援を行うパートナーとして伴走する。
全国で手がけてきた「宅急便」の理念を、電力でも
森下社長は「地域の再エネをヤマトグループの拠点や集配車両、さらには地域の運送会社に供給することで、物流と地域社会の両方を活性化したい」と語る。「ヤマト運輸が長年地域に根差して『宅急便をお届けする』といった理念を、電力でも体現したい。そんな思いがあるんです」。
脱炭素化のハードルが高いとされる物流業界において、ヤマトグループはその先頭に立って挑戦していく。
JERA Crossが見据える未来
ヤマトグループとの協業発表以降、JERA Crossには問い合わせが相次ぎ、多様な企業との対話が生まれているという。
JERAグループの強みは、再エネの調達から需給運用、さらに脱炭素時代における事業の戦略策定やビジネス構想の策定までをワンストップで支援できる点にある。一倉氏は「GXはコストでなく、企業価値の向上につながるバリューになる。ヤマトグループとの事例は、他の業界にも広く展開できるはずです」と力を込める。
変革への志を、一倉氏はこう語る。
「今回の取り組みは、『ヤマトグループだから達成できた』と言ってしまえば、それまでかもしれません。ただこうした挑戦は決して大規模で始める必要はありません。小さくトライして、気づきを得て、次に繋げていく。その繰り返しが、やがて企業全体の変革に繋がっていくのだと思います。
『うちにも、できる一歩があるかもしれない』
そのように感じていただけるような伝え方や伴走のあり方を、私たちももっと磨いていきたいと思います」
最後に、日本全体のGXへの思いを強調し、こう締め括った。
「戦略から実行まで、一気通貫で伴走できるエネルギー会社はJERA Cross以外にありません。ビジョンはあるもののその実現方法が分からない企業も、まだ一歩も踏み出せていない企業も──。
JERA Crossは一社一社と真摯に向き合い、同じ方向を見据えてともに歩んでいきたいと考えています。
挑戦は楽なことではありませんが、パンチを打ち続ければ必ずブレークスルーは来る。日本のGXはきっと実現できる。そう信じています」

株式会社JERA Cross 取締役執行役員 CPO(チーフプロダクトオフィサー)
一倉 健悟
2006年、東京電力入社。国内外の火力発電事業に従事。2018年よりJERAにて、デジタル戦略構築およびDXプロジェクトの推進を経て、デジタルトランスフォーメーション室長として、デジタル発電所プロジェクトやデジタルプラットフォーム戦略等に従事。2023年からソリューション営業統括部の上席推進役として新規事業の立ち上げを推進。2024年6月、株式会社JERA Cross 取締役執行役員 CPOに就任。

ヤマトエナジーマネジメント株式会社 代表取締役社長
森下 さえ子
2007年、ヤマト運輸入社。営業所で現場業務を経験後、ヤマトホールディングス財務・経営戦略部門に在籍し、全社的な財務・経営・環境対応に従事。2024年2月、ヤマト運輸のグリーンイノベーション開発部に異動し、ヤマトエナジー設立に関わるチームの中核を担う。2025年、ヤマトエナジーの代表取締役社長に就任。物流現場での経験と財務・経営ノウハウを武器にヤマトエナジーを率いる。