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知性と感性を融合させる「青少年高野山会議」~イノベーティブで豊かな未来を創造する場~

知性と感性を融合させる「青少年高野山会議」~イノベーティブで豊かな未来を創造する場~

2024.11.25

日本最大の発電容量と世界最大級の燃料取扱量を有するJERA。「世界のエネルギー問題に最先端のソリューションを提供する」ことを企業のミッションに掲げ、電力の安定供給に取り組みながら、再生可能エネルギーと低炭素火力を組み合わせることで、2050年時点でのCO2ゼロエミッション実現を目指している。しかし、気候変動や貧困、地政学的なリスクなど、様々な事象が絡み合い、エネルギーを取り巻く環境は日々、複雑性、不確実性を増し続けている。しかし、そんな正解の見えにくい時代においても、JERAはミッション実現のため、新たな価値の創造に力を入れる。JERAの考える「価値創造」とは、世界中のすべての人が幸せを感じられる社会にむけて、問題を明らかにし、それにソリューションを提供していくことを意味している。東京大学先端科学技術研究センター(以下、東大先端研)と共催した「青少年高野山会議」もその一環だ。

今回、企業価値創造部門を担当する吉田哲臣氏に、価値創造のための具体的な取り組み、そしてJERAが「青少年高野山会議」を共催する意義について話を聞いた。

多様な立場・分野の見方にふれて視座を変え、視野を広げる

そもそも「高野山会議」とは何か。高野山開創から1200年が経った今、さらにその先の1200年後の世界を見据え、科学・芸術・哲学をはじめ、様々な分野にかかわる多様な人々が集い、対話を通して、異なる見方や考え方を溶け合わせ、あらたな価値観を生み出すことを目指す、他に類を見ないユニークな学術会議である。2021年に東大先端研の主催によって開催されたのが始まりであり、年1回の開催が続けられている。青少年高野山会議は、1200年後の世界を考えるのであれば、これからの時代を担う若者たちにも参加して学んでもらう場が重要との理念から、2024年に東大先端研とJERAの共催で発足した。高野山会議の青少年版としての、STEAM教育を取り入れた次世代育成の場である。

「STEAM教育」とは、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Arts(芸術)、Mathematics(数学)の頭文字をとった言葉で、これら5つの分野をはじめ様々な分野を統合的に学ぶ教育アプローチだ。知性領域(科学、技術、工学、数学)に感性領域の芸術を加え、創造性を育むことを重視している。様々な分野の多様な見方や考え方を、感性を駆使して融合し、社会の問題をあぶりだして解決策を探ることを目指した学びの方法である。

高野山 奥之院

2024年4月、東大駒場キャンパスに約40名の高校生・大学生が集まった。普通科・音楽専攻の学生が一つの教室で、様々な専門家からいろいろな視点で話を聴く。人を取り巻く環境要素である食生活、エネルギー、気候変動、そして紛争、さらには人間の内面を形づくる芸術・文化、身体表現、脳科学、そしてAIや障がいと人との関わりまで、講義では多岐にわたるテーマが取り上げられた。また、弦楽四重奏を間近で囲んで聴く特別な体験も実施。人を取り巻く世界の見方がいかに多く、そして全く異なる解釈が交錯するということを実感してもらうために。

青少年高野山会議に見た、価値創出の片鱗

東大駒場キャンパスでの講義を終えた後、2024年8月18日、参加学生とともに日本を代表する研究者・芸術家・哲学者、そして企業人としてのJERA社員が、和歌山県の高野山に登った。研究者の専門分野は、気候変動、国際安全保障、脳科学、先端アートなど様々。また芸術家も、演奏家やオペラ歌手、バレエダンサーなど多彩な顔触れである。広い視野で社会をとらえながら、対話を通して、異なる見方や考え方を溶け合わせることを、4日間をかけて実践する。

高野山でのプログラムは「選択演習」と「全体演習」という大きく2つの演習からなり、まず選択演習で「音楽」「舞踊」「座談」の3コースから好きなものを選択。学生はコースに分かれて、その領域に精通した先端人・企業人とのディスカッションや演習を通じて、前半の2日間で感性を研ぎ澄ませる。

その後、後半の2日間で行われた全体演習では、参加者が6つの班に別れ、高野山で過ごす中で観て、聴いて、話したことを融合し「芸術とはなにか?」について議論した。まさに正解のない問いだ。企業価値創造部門の吉田氏は、そんな青少年高野山会議のメインイベントともいえる全体演習をこう振り返る。

JERA理事 企業価値創造担当の吉田 哲臣

「面白いことに、6つの班から出てきた答えはすべて異なるものでした。例えば、脳の働きから芸術をとらえたチームや、芸術を『何かを伝える手段』として考えたチーム、言語と芸術を比較することで答えを出そうとしたチームもいました。大切なのはどの答えが正解かでありません。多様なバックグラウンドの人々が集い議論を重ねることで、それぞれの視点やプロセスを掛け合わせて、新しい考え方が導き出されたということが重要なのです。お互いのチームの発表を聞くことで『そんな考え方もできるのか』『その視点は気づかなかった』という発見も生まれます。こうして自分にはない新しいものの見方や多様な価値観にふれることでイノベーションが生まれやすくなるのです」

これこそ、JERAが青少年高野山会議に求めていた姿であり、多様性からイノベーションを創出する仕組みづくりのための大きな手がかりなのだ。

参加した青少年たちはもちろん、大人たちも多様性の中から新たな価値観が生まれるすばらしさを体感し、高野山での経験を次のように振り返った。

「相手の意見が自分の思考の延長線上になくても、それは間違いではなく、新しい思考を開く鍵。」
「多様性と口では言っていても、思考の多様性には程遠いことに気づかされた。」
「社会課題を見つけ、それに対していろいろな視点を持つ人々と共に考えることで、視座が変わり、解決が難しい問題だとしても、より自分事としてとらえることができるようになる。」

「音楽コース」

東京藝術大学名誉教授の澤和樹先生などの指導のもと、金剛峯寺で弦楽四重奏と五重奏を演奏。一般の参拝客の方々にも披露した。

「舞踊コース」

新国立劇場バレエ団プリンシパルの米沢唯先生の指導のもと身体表現を体感。成果発表では、弦楽合奏に合わせてダンスを披露。

「座談コース」

エネルギーシステムの権威である杉山正和東大先端研所長、国際安全保障の専門家 小泉悠東大先端研准教授、東大先端研フェローで脳科学専門の小泉英明先生、料理研究家の土井善晴先生、東京フィルハーモニー交響楽団コンサートマスターの近藤薫先生や高野山大学の添田隆昭学長をはじめとした各分野の第一人者、そして企業人としてJERA社員数名と参加学生が、宿坊の広間で車座になって様々なテーマで白熱した議論を重ね、異なる視点から「人とはなにか」を探求。

「奥之院を歩く」

20万基を超えるともいわれる墓石が並ぶ約2kmの参道を散策。織田信長、豊臣一族、明智光秀ら多くの戦国武将や皇族、貴族、大名、一般庶民の墓まで、生前の所業や信仰に関わらず、すべての人を等しく受け入れる高野山を象徴する場。

なぜJERAが?「青少年高野山会議」を共催する理由

冒頭述べたように、現代のエネルギー問題は、従来のアプローチの延長だけでは解決できないものが多い。さらに、新たな課題が次々と押し寄せ、状況はますます厳しさを増している。

「30年前、エネルギー産業での課題といえば『電力が足りない』ということでした。それが10年後には『電気料金が高い』という課題があらわれ、近年はさらに『二酸化炭素の排出削減』という課題が積み重なっています」

電力の安定供給、経済的な適正価格、そして脱炭素という互いに矛盾し合うトリレンマにさらされる状況になった。しかし、吉田氏はそれでは終わらないと言う。

「今後おそらく、4つ目、5つ目の新しい課題が出てくるはずです。このまま新たに起こる課題に対症療法的に対応していては、ミッションである『エネルギー問題に最先端のソリューション』の提供に程遠いばかりか、事業自体が立ち行かなくなってしまいます。まだ表面化していない潜在的な問題をとらえるために、今こそ求められているのが想像力やひらめきのベースとなる『感性』の力。これまでの社会は、今ある事象をベースに論理的に導き出された答えを重視してきました。しかし、社会の複雑化とともに問題も高度化し、論理的な思考、つまり『知性』のみに頼った考え方では、解決策どころか問題を見つけることにも限界があります。そこで、創造力のベースとなる『知性』、それも多様な知性を『感性』で融合させて、見えていない問題をあぶりだし、その問題にソリューションを提供できる、すなわち新しい価値を生み出せる人財が必要になっているのです」

感性によって新たな視点を発見し、それを理論化する形でイノベーションを生み出した一例に、「相対性理論」がある。アルベルト・アインシュタインは論理物理学者でありながら、優れたバイオリン奏者でもあった。彼は音楽的な発想を通じて、時間と空間の絶対性を超える相対性理論を創造することができたと言われている。また、「Apple」の創業者 スティーブ・ジョブズは、日本の浮世絵にインスピレーションを得て、コンピューターの“アイコン”を生み出したといわれている。

吉田氏は、この「感性」を研ぎ澄まし多様な「知性」と融合させるための「仕組み」のひとつが青少年高野山会議だと話す。先にも述べた通り、同会議は立場も分野も異なる人々が集まり議論を繰り広げる場だ。感性の現れである芸術分野の考えと、知性・論理を重視する科学・ビジネス分野の考えが交わることで、新たな見方や考え方が生まれ、それが課題解決の糸口となるのではないか。JERAはこの多様性に富んだ知性と感性の交差点で、イノベーション創出に挑んでいるのである。

「知性と感性が交差する多様性の中からイノベーションを創出することは、JERAだけに必要なものではありません。豊かな未来に向けて社会全体が目指す姿であり、そのためにだれもが活用できるイノベーション創出の仕組みを整えないと。世界の問題にソリューションを提供し、世界中の人々にとって豊かな社会を目指す当社として、この仕組みづくりに貢献したい。当社もその仕組みを活用する一人になればよいでしょう」

「もちろん、この仕組みを利用すれば具体的なイノベーションがすぐに生まれるというわけではありません」と話す吉田氏だが、初開催となった青少年高野山会議ですでに手応えを感じている。

「大切なのはこの取り組みを継続し、新しい価値を生み出す仕組みへと育てていくことです。多様な立場の人が集まって、その時々の社会問題をテーマに議論をすることでどんな化学反応が起こるのか、そしてその化学反応を起こす人財を育てるためにどのようなアプローチが必要なのかを探求していく場としていきたいと考えています。今後はより多くのJERA社員、さらには様々な企業や団体の方にも参加してもらい、新たな視点を持ち帰ってもらいたい。そして、参加した人が職場に戻って化学反応を生み出す人財、触媒となってもらえると嬉しいです」

昨年発足した企業価値創造部門。JERAの価値創造の取り組みはまだ始まったばかり。しかし、待ち受ける数々の社会課題に立ち向かうため、社内と社外の知性と感性を集結し、最先端のソリューションを提供するための強固な土台は、すでに着実に築かれ始めている。

吉田 哲臣

吉田 哲臣(よしだ てつお)
株式会社JERA 理事
企業価値創造部門担当

1993年、中部電力入社。2015~2018年まで米国ヒューストンにてJERA Americas LLC(Houston)の創設と事業拡大に従事。2020年、JERA経営企画本部兼財務・経理本部上席推進役を経て財務戦略統括部長。2024年4月より現職。