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日本最大の発電会社JERAが、
「防災備蓄食」を自ら開発するワケ

2023.9.1

日本のエネルギーインフラを火力発電で支えるJERA。地震や台風が頻発する災害大国において、いついかなる時も電気を届け続けるために必要なことは何か。BCP(事業継続計画)を見直す中で見えてきた「食」の課題と、新たに開発した「防災備蓄食」に込めた想いについて、総務・地域統括部長である有田和之氏に聞く。

世の中に無いのなら、作るしかない

――「防災備蓄食」を開発するきっかけとなった、JERAのBCPとはどのようなものなのですか

有田和之(以下、有田) JERAは東京電力と中部電力の燃料・火力部門が統合して誕生した企業であり、当時は2社のBCPを継承し、運用していました。しかし、異なる企業のBCPであるためどうしても一体性に欠けるという課題があったのです。皆さまの暮らしを支えるインフラ事業者として事業継続性のさらなる向上を目指すには、JERAとしてのBCPを作る必要があると判断し、2021年に新たなBCPを策定しました。私たちの独りよがりなものにならないよう、第三者に審査してもらう「レジリエンス認証」の取得も進め、2023年7月末に認証を得ることができました。

日本最大の発電会社JERAが、「防災備蓄食」を自ら開発するワケ イメージ

総務・地域統括部長 有田和之

――新たなBCPを策定する中で、なぜ防災備蓄食を開発することになったのでしょうか

有田 JERAではこれまで、備蓄食の管理は各事業所や発電所が独自に行っていました。しかし、それぞれが購入したり、在庫を管理したりするのは、手間がかかり効率的ではありません。そこで出たアイデアが、本社での一元管理なのですが、いざ蓋を開けてみると事業所や発電所ごとに用意している食品も違えば、賞味期限もバラバラ。このままではとても管理できないということがわかりました。そこで中身も賞味期限もすべて統一した「JERAの備蓄食」を新たに作り、管理することにしたのです。

まずは市販に良い備蓄食のセットがないか探すことから始めました。私たちが求めていた備蓄食セットは、被災した発電所など、過酷な環境で復旧作業を行う人のためのもの。しかし、一般的なものの多くは自宅や避難先で状況が落ち着くのを待つ方々が食べることを想定したものでした。具体的にはカロリーが少なく、必要最低限の食品だったのです。「無いものを探しても仕方がない。売っていないなら作るしかない」と、JERA独自の備蓄食セットの開発がスタートしたのです。

独自の備蓄食セットを作るに当たり、本社、支社、事業所、発電所の備蓄食の担当者に集まってもらい、大きく3つの方針を定めました。1つ目が「おいしさ」。規模の大きな災害では、被災生活が長く続くこともあります。そうした中で日々の食事は貴重な楽しみになると考えたのです。単に「食べられれば良い」「栄養が摂れれば良い」というものではなく、「おいしく食べられるものを作る」ことを大切にしました。開発メンバーがそれぞれ良さそうな市販の備蓄食を探し、集め、試食会を行って商品を厳選していきました。また、パウチや缶詰から直接食べることもできますが、「せっかくおいしい備蓄食なのに、それでは味気ない」という意見を受け、きちんと「食事」として楽しめるように盛り付ける紙皿などの食器もつけることにしました。

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おいしいと評判の備蓄食を見つけては試食を重ねて食品を厳選していった

2つ目が「管理のしやすさ」。食品ごとに賞味期限が異なると管理の手間が増えるため、賞味期限はすべて「5年」で統一。同時に、水、主食、おかずなどの食品を別々に管理するのではなく、一人分の食事(1日3食分)を1箱にまとめたセットとして管理にすることにしました。災害時に、水や主食をバラバラに配るよりも、「1日1人1箱」を配る方がシンプルで効率的です。さらに、箱のサイズが統一されるため保管場所も確保しやすいと考えたのです。
3つ目が「処分について」。これまで賞味期限が迫った備蓄食は、希望者に配り、それでも余ったものは廃棄するなど、有効活用ができていませんでした。そこで、フードバンクへの提供を検討することにしたのです。賞味期限は迫っているけれどまだ安全に食べられる備蓄食を、フードバンクを通して必要とする方々に配っていただけないかと考えています。
こうした方針のもと、食品を厳選し、1日分を1箱にまとめて完成したのが「JERA防災備蓄食 カロリーアップセット」です。

日本最大の発電会社JERAが、「防災備蓄食」を自ら開発するワケ イメージ
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カロリーアップセットの中でも担当者のイチオシは「さば味噌煮」。「家で作るよりおいしい」という声も。

誰もが安心して食べられる備蓄食を

――JERAには現在5種類の備蓄食があります。当初からこうしたバリエーションを作る想定だったのですか

有田 実は、そうではないんです。カロリーアップセットが完成し、社内で報告したところ「JERAにはイスラム教徒の方もいるので、彼らも食べられるハラールのセットも必要ではないか」「アレルギーのある人のためのセットもあった方が良い」など、新たな意見が出てきたのです。当初は1種類だけ作れば良いと考えていましたが、誰もがおいしく食べられるものをつくるためには食文化の多様性やアレルギーへの配慮も重要だとわかり、新たに4種類の備蓄食セットを開発。現在の5種類のラインアップとしたのです。

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災害の時こそ豊かな食事で体も心も健康に保ってもらいたい。誰もが安心して食べられる5つのバリエーションを用意。

スタンダードセット:カレーを基本として、おいしさにこだわった食べ応えのあるセット。

カロリーアップセット:カレー、ビーフシチュー、牛丼の3種類の主食に加えて、おかず類や間食用のおやつなどを加えた1日2,400kcal摂取できるセット。

ハラールセット:スパイスを効かせた人気の炊き込みご飯“ビリヤニ”に、パンやクッキーなどを加えたハラール認証取得商品のセット。

アレルギー対応セット:特定原材料28品目を含まない備蓄食のセット。

ライトセット:どんな方でも食べやすい、おかゆやお雑炊のセット。

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イスラム教徒の方も安心して食べられるハラールセット。特にビリヤニは取材時にはじめて試食した社員からも好評。

中でもハラールセットの開発には苦労しました。そもそもハラール認証を取得している備蓄食の種類が少なく、賞味期限が5年のものとなると、さらに数が限られてしまいました。そんな中で見つけた「ビリヤニ」はとてもおいしく、イスラム教徒の社員に食べてもらったところ「本場のビリヤニよりおいしい!」とお墨付きをいただきました。

培った防災の知見を他社や地域へ共有

――「防災備蓄食」について、今後はどのような取り組みを検討しているのでしょうか

有田 大きく2つあります。まず1つが「備蓄品」についてです。災害時には備蓄食の他にも必要なものはたくさんあります。現在は、事業所や発電所ごとにバラバラになっている備蓄品も、備蓄食と同様に統一化を進めています。備蓄食と備蓄品が揃ってはじめて、災害時の安全安心が確保できると思っています。
もう1つは、備蓄食・備蓄品と管理システムをセットにして、グループ会社や他の企業、自治体へ販売することです。5種類の備蓄食ができた段階で、外部の方々の意見も聞くために防災関連の様々な展示会に出展しました。そこで「1日1箱のセットは管理しやすくてすごく良い」とたくさんの方から声をかけていただき、私たち以外にも「管理のしやすさ」というニーズがあることを実感しました。現在、「防災備蓄最適化サポート」という管理システムのサービス化を進めており、備蓄食・備蓄品の選定から配送、処分まで、JERAによるワンストップ対応の実現に取り組んでいます。一方、展示会では「水は別途まとめて確保できるからいらない」「1日セットでは足りないので、3日分まとめてほしい」という意見もあり、他社への販売を考えた場合には、ある程度のカスタマイズ性が必要だと感じました。ただし、あまりカスタマイズしすぎると大量生産・一元管理によるコストダウンが機能しなくなってしまうため、その辺りのバランスは必要だと考えています。

――その他に、BCP対策として注力していることはなんでしょうか

有田 特に注力しているのが社員のご家族の安全安心です。というのも、JERAでは災害時に発電所復旧のため非常災害要員の社員には現場に出て対応してもらう必要があります。その際、ご家族の安全が確保されていないと、社員も安心して復旧作業に取り組めません。そこで、ご家族向けに災害時にとるべき行動を説明した「家族のためのJERA防災手引き」という冊子を作成しました。それに加えて、JERAの備蓄食や備蓄品を自宅に持ち帰っていただくことで、ご家族の安全を確保しようと考えています。
また、災害時においては地域との連携も一層重要になります。私たち単独での災害訓練はもちろん、警察や消防の方々と連携した訓練も欠かせません。さらに、災害時に私たちにできる取り組みのアイデアを社内から募る「防災アイデアコンテスト」も開催しています。例えば、「災害発生時に発電所の煙突や壁面を使ったプロジェクションマッピングで地域の方々にお知らせできないか」、「備蓄食を近隣の方々に配れないか」など、さまざまな取り組みを模索しています。
JERAは、皆さまの暮らしを支えるインフラ事業者として、万が一の場合に備え様々な取り組みを行っています。そこで得た知見やノウハウをグループ会社はもちろん、他社、そして地域へと広げ、安全安心な社会の実現に貢献したいと考えています。

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【防災備蓄最適化サポートに関するお問合せ】

株式会社JERA 危機・安全管理部 危機管理ユニット
TEL : 03-4231-4631(代) / FAX : 03-3272-4635

有田和之(ありた かずゆき)

有田和之(ありた かずゆき)

株式会社JERA 総務・地域統括部長