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再生可能エネルギー導入支援に向けた、
蓄電への挑戦。

2023.4.17

トヨタ自動車とともに考えた「蓄電システムの未来」

再生可能エネルギー導入支援に向けた、蓄電への挑戦。 イメージ

2023年2月中旬、訪れたのは伊勢湾を臨む四日市コンビナートの一角にある四日市火力発電所(三重県四日市市)。中部エリアにおける電力の安定供給という使命を、これまで約60年にわたって担い続けている。

「大容量スイープ蓄電システム」の実証設備で出迎えてくれたのは、トヨタ自動車との実証試験を牽引する、技術経営戦略部技術開発ユニットの尾崎亮一ユニット長と森山友広課長代理だ。

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「大容量スイープ蓄電システム」の実証試験を牽引する、プロジェクトリーダーの尾崎亮一氏(写真左)と電気主任技術者の森山友広氏(同右)

「カーボンニュートラルの実現に向けて、蓄電池は再生可能エネルギーの導入拡大に必要な調整力として、今後需要が拡大していくことが見込まれています。加えて電池の材料となるコバルトやリチウムなど資源の埋蔵量に限りがあるため、使用済の電動車用バッテリーを回収し、蓄電池として有効に活用するなど、地球環境に配慮した取り組みも求められています。このような状況に対してJERAおよびトヨタは2018年から共同で検討を重ねた結果、現在では、電動車の使用済みバッテリーを再利用する『大容量スイープ蓄電システム』を電力系統に接続して実証を進めている最中にあります。2022年10月27日から発電所構内に設置した蓄電設備で実証試験を開始し、2023年1月23日に同システムを電力系統に接続した実証試験を始めました。前例のない蓄電システムであるため、系統連系に必要な機能要件の確認や系統接続に関する調整などに苦慮しました。本日も120台分のリユースバッテリーを接続して、充放電運転をしています」(森山氏)

プロジェクトの始動は2018年。JERAからトヨタ自動車に声をかけた。その背景には、JERAによる”ある思い”があった。

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四日市火力発電所は、日本の高度経済成長期を支えてきた。

「世界規模で脱炭素化に向けた取り組みが進む中、サーキュラーエコノミー(循環型経済)の視点をもち、再生可能エネルギーの普及や拡大に繋がる新しい取り組みができないか。こんな思いが着想の原点にあります。そこで注目したのが蓄電池でした。電動車の開発を進めるトヨタ自動車の使用済みバッテリーのリユース技術と、火力発電で培ったJERAの電力需給や系統連系に関する知見を持ち合わせれば、気候や気象条件により変動する再生可能エネルギー由来の電力を安定的に供給する基盤を構築できるはずです。こうして、トヨタ自動車との共同事業がスタートしました」(尾崎氏)

両社の強みを活かし、クリーン電力の安定供給と資源循環を進めるため、電動車の使用済みバッテリーを再利用した「大容量スイープ蓄電システム」の開発が始まるのだった。

“世界初の技術”の確立に向けて

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デモ機は「スイープ蓄電システム」の動作原理を説明するために作られた。

「スイープ機能とは、直列に接続した各電池を通電と非通電をマイクロ秒(100万分の1秒)で切り替えることにより、充放電量を任意に制御する機能のことです。この技術により、電池の劣化状態を問わず、異種電池を混合した状態でも容量を使い切ることができるようになります」

乾電池をリユースバッテリーに見立てたデモ機を用い、スイープ蓄電システムの動作原理を説明する森山氏。

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10個のバッテリーカートリッジで構成したデモ機は、電力変換装置を使用せずに直流電力と交流電力を生成できるスイープ機能を装備。この仕組みを応用して「スイープ蓄電システム」は構築された。

「赤いランプは通電している状態で、青いランプは電気が通っていない状態を示しています。電池の状態を監視しながら、回路を切り替えることで電気を安定供給する仕組みです。中央にある制御装置が電池の状態を監視していて、ある電池の容量が少ないと判断したら、別の電池に負荷をかけるように制御します。通常の蓄電システムでは、ひとつでも電池が停止するとシステム全体が停止してしまいますが、スイープ機能によってシステムの運転を止めずに個別に切り離して電池交換ができるようになります。直流から交流の電力へ直接変換できることも、スイープ機能の強みのひとつです」(森山氏)

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プロジェクトを通じてトヨタ自動車との調整を担当してきた尾崎氏が続く。

「JERAが担った役割は、デモ機の仕組みを応用して構築したトヨタ自動車による『スイープ蓄電システム』を電力系統に接続し、大容量化に向け、システムの運用方針策定や電力システムへの影響評価を行うことです。共同事業として本プロジェクトを前進させるために、この5年間、密に連携してきました。前例のない技術的な取り組みだったので、まずは両社の共通言語を増やすことを目的として打ち合わせを密に行いました。いま、どのくらい技術開発が進んでいるのか? また、どんなところに苦慮しているのか?など両社の状況を逐次共有し、実証試験が迫る時期になると毎日のように膝を突き合わせた会議を行いました。パワーコンディショナー(PCS)を使わずに直交流変換を行うスイープ技術の動作原理を深く理解した上で、電池ごとの特性に依らない制御方法の確立に向け、これまでニッケル水素電池とリチウムイオン電池による小規模実証・小規模ハイブリッド実証を行いました。2022年度は系統連系要件や各電力市場の要件への適合を確認することを目的として配電線に接続し、『大容量スイープ蓄電システム』の実証を行なっています。」

なお、両社は現在、サーキュラーエコノミーに寄与する取り組みとして、リユースバッテリーから電池の材料となるリチウムやコバルトなどを回収して蓄電池として有効活用することを目的とし、高純度・高回収率・低CO2の実現に向けた非焙焼式のリサイクルプロセスも開発中だ。

地球に優しいクリーン電力

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発電所の敷地内に設置した、3棟の蓄電設備(2023年2月16日時点)。「大容量スイープ蓄電システム」の実証試験はこの設備の中で行われる。

「こちらが、『大容量スイープ蓄電システム』です。2023年1月23日から系統用蓄電池の実証試験として充放電運転中です。20フィートコンテナを4つ連結したものを3棟設置し、車両にして約120台分のリユースバッテリーを設置し、約150世帯が1日に使う電力を蓄えることができます」(尾崎氏)

蓄電設備の中に入ると、HEV(ハイブリッド車)、PHEV(プラグインハイブリッド車)、BEV(電気自動車)などの電動車のリユースバッテリーが電池棚に収納され、その迫力に圧倒される。

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設備内には、トヨタ自動車から供給された電動車のリユースバッテリーが並ぶ。

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実証試験中は、バッテリーカートリッジを1つの単位とし、電池の状態を管理していく。

「これまで中古車のバッテリーは、一番劣化している電池の性能によってシステム全体の性能が決まってしまう問題がありました。劣化している電池が電欠になると、他の電池のエネルギーが余っていてもシステム全体の運転が停止してしました。デモ機で説明したように、どのようなバッテリーでも活用できる点にスイープ技術の強みがあるので、性能や容量がそれぞれ異なるリユースバッテリーでも、安定して充放電することができます。また、スイープ技術により直流から交流に直接出力できるため、PCSを省くことができ、システム全体のエネルギー効率の向上が図れます」(森山氏)

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実証試験中のデータは、『大容量スイープ蓄電システム』の統括制御装置に送られる。集約したデータを基に、電力システムへの適合性評価を行うのはJERAの役割だ。その結果が次の実証試験に活かされていく。

同施設の規模は485kW /1260kWh。今後は一般家庭や工場などに配電する系統電力に接続する予定であり、「2020年代半ば頃までに供給電力量約10万kWhの蓄電システムの導入を目指したい」と、両氏は未来を見据える。

「10万kWhで終わるような事業ではないと思っています。リユース電池を使った蓄電システムを静脈とし、開発中であるリサイクルプロセスも組み合わせることによって、いかに新しい電池に繋いで動脈側へのサプライチェーンを構築できるか。こんな思いを大切にしながら、サーキュラーエコノミーの視点を持ち、JERAの取り組みとして存在感を示していきたいと思います」(尾崎氏)

「将来的な大規模化にあたって、太陽光や風力、バイオマスなどの再生可能エネルギーとの連携により『充電する電気も放電する電気も再エネ』という環境付加価値をつけながら、より発展していくことが大事だと思っています。大規模な発電所ならぬ「蓄電所」の開発に向け、着実に技術開発に取り組んでいます」(森山氏)

「JERAゼロエミッション2050」を掲げ、国内外の事業で排出されるCO 2の実質ゼロに向けた挑戦を続けるJERA。今後も多角的な視点をもちながら、国内外のトッププレイヤーと連携し、蓄電システムの構築をはじめとした技術開発やエネルギーの最適利用に資するサービスの開発に努め、カーボンニュートラルと資源循環によるサーキュラーエコノミーの実現に向けて前進していく考えだ。