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イノベーションの種は「違い」の中にある。JERA奥田 久栄社長 × グロービス・キャピタル・パートナーズ仮屋薗 聡一氏 特別対談

イノベーションの種は「違い」の中にある。JERA奥田 久栄社長 × グロービス・キャピタル・パートナーズ仮屋薗 聡一氏 特別対談

2026.1.8

日本最大の発電会社JERAが2023年に立ち上げたコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)「JERA Ventures」は総額3億ドル(約470億円)の投資枠を持ち、エネルギーのトリレンマを解決し、エネルギー産業の変革を担うスタートアップへの投資を進めています。

日本のベンチャーキャピタル(VC)業界を30年にわたり牽引してきたグロービス・キャピタル・パートナーズ共同創業者の仮屋薗 聡一氏を招き、JERA代表取締役社長CEO兼COOの奥田 久栄が対談。「イノベーションの種を見つける視点」をテーマに深く語り合いました。

そもそもベンチャーキャピタルとは何か? 大企業がスタートアップと手を組む意義とは? 「エネルギーのメガベンチャー」JERAが目指すイノベーションの形と、イノベーターに必要な二つの条件とは──。

ベンチャーキャピタルの本質とは? 米国における歴史

奥田:仮屋薗さん、本日はありがとうございます。まず、ベンチャーキャピタルとは何か、その本質についてお聞かせいただけますか。

仮屋薗(敬称略、以下同様):ベンチャーキャピタルについて検索すると、「ハイリターンを狙ったアグレッシブな投資を行う投資会社」といった説明が出てきます。でも、これはあくまで「How」の話なんですね。私が30年近くこの仕事をしてきて感じるのは、ベンチャーキャピタルの本質は「What」の部分にあるということ。つまり、国家の競争戦略に資する産業をつくることに本質はあるということです。

奥田:「What」の視点は非常に重要ですね。

仮屋薗:ベンチャーキャピタルの歴史を遡ると、1946年にアメリカで設立された「アメリカン・リサーチ・アンド・デベロップメント」という会社に行き着きます。第二次世界大戦が終わり、退役軍人の雇用創出が課題となる中、軍事技術を活用した新産業の育成を目的として生まれたのがベンチャーキャピタルでした。

奥田:つまり、雇用創出と産業育成という社会的な使命があったわけですね。

仮屋薗:その通りです。そして1970年代末、アメリカで年金基金のベンチャーキャピタルへの投資が認められました。これが転換点となり、シリコンバレーの躍進が始まります。1980年代にはマイクロソフト、1990年代にはインターネット企業、そしてGAFAへと続いていく。今やアメリカの時価総額上位ランキングを占めるこれらの企業は、実は元をたどると国民の年金基金によって創造されてきたのです。

奥田:国民のお金が、国の未来を担う産業を育ててきた。

仮屋薗:はい。さらに遡ると、エジソンがJ.P.モルガンから出資を受けて電気の開発に成功し、それがGEへとつながっていった歴史もあります。まだリスクが高く、モノになるかわからない発明家にお金を出し、それが成功して国の主要産業となった。ベンチャーキャピタルとは、そういった長い時間軸で社会を変えていく仕組みなのです。

奥田:VC業界の構造についても興味深いですね。

仮屋薗:業界は非常にユニークです。一般の事業産業では競合同士がシェアを取り合いますが、VCは競争相手とコラボレーションしながら価値を創造していきます。設立間もない企業はリスクが大きいので、他社と分散してリスクを取り、成功したらリターンもシェアする。協調投資をして、お互いの強みを生かし合って経営支援をする。だから業界の横連携がとても進んでいるんです。

CVCをどう使うか──奥田社長が明かす「迷い」と「問い」

仮屋薗:JERAさんはCVCを立ち上げましたが、奥田社長は企業がCVCを持つ意義について、どのようにお考えですか。

奥田:正直に申し上げると、「迷い」についてお話ししたいと思います。JERA Venturesを立ち上げて3年目に入りましたが、「CVCをどう使えばいいのか」という点で、社内でもさまざまな意見があります。

仮屋薗:具体的には、どのような議論があるのでしょうか。

奥田:「リターンを上げるための投資だ」という人もいれば、「技術開発の手段だ」という人もいます。それぞれに反対意見もあって、「投資なら自社事業に集中すべき」「技術開発なら事業部でやればいい」といった声も出てくる。

仮屋薗:よくある議論ですね。

奥田:ただ、私はどちらの意見にも違和感があるんです。JERAのミッションは「世界のエネルギー問題に最先端のソリューションを提供する」ことです。これを分解すると、まず「エネルギー問題とは何か」という問いがあり、次に「どうやって解決するか」という問いがある。
30年前、誰も脱炭素とは言っていませんでした。脱炭素という「問題」を発見したからこそ、みんなで解決しようという動きが生まれた。これから10年後には、全く違う切り口のエネルギー問題が出てくるかもしれない。既存のビジネスや技術だけでは、その問題を解決できないかもしれない。

仮屋薗:つまり、JERAの中だけで議論していては、ミッションを果たせないと。

奥田:その通りです。組織というのは、作った瞬間から古びていくものです。自分たちが作った事業は可愛いから、なかなかそこから逃れられない。「これはうちの仕事じゃない」と思った瞬間に、新しい問題も、ソリューションも見つからなくなる。
CVCには、そういう「しがらみ」や「呪縛」から解き放ってくれる役割を期待しているんです。

日本の大企業がスタートアップのように動くと「脅威」に?

仮屋薗:大企業がそういう思想で、スタートアップ思考で経営されると、ベンチャーからすると脅威ですね。

奥田:と言いますと?

仮屋薗:普通に考えれば、大企業には大きな利益、売上、顧客、ブランド、優秀な従業員がいる。なのに、スタートアップがゼロから立ち上がって、大企業がいる世界で戦えるのはなぜか。持っているリソースで考えれば、おかしな話じゃないですか。
でも現実には、30年でGAFAが世界の時価総額トップを占めるようになった。かつてライジングサンとして世界を席巻した日本企業は、その座を明け渡した。なぜこんなに景色が変わったのか。

奥田:その原因は何だとお考えですか。

仮屋薗:産業や事業は、できた瞬間から陳腐化が始まる。カルチャー、マインド、スピード、インプット能力──さまざまな観点で、次に来るものに対して一歩、二歩、足が遅れる。その間にスタートアップが先行し、一気にGoogleやAppleのような企業が生まれていく。大企業は本当は進化できるのに、なかなか体が動かない。

奥田:技術だけでなく、ビジネスモデルの革新も重要ですよね。

仮屋薗:まさにその通りです。ベンチャーキャピタルは技術に投資するというイメージが強いですが、イノベーションやディスラプションの核心は、実はビジネスモデルにあると私は思っています。Googleを例に取ると、もともとは検索アルゴリズムの会社でしたが、収益モデルは検索連動型広告で、破壊したのは広告業界なんです。収益モデルを発明することで、いつの間にか破壊的なパワーを持っていった。

奥田:なるほど。

仮屋薗:そしてGoogleは「この時代も終わる」と見越して、当時は冷ややかな目で見られながらもYouTubeを買収した。今やGoogleの収益の核は動画です。一つのビジネスのライフサイクルはどんどん短くなっている。企業としてサステナブルに活動を続けるためには、自分で自分のビジネスをディスラプトして、次の潮流を自分で創造する気概がないと、企業の継続性は担保できません。

奥田:耳が痛い話です。

仮屋薗:だからこそ、新しいことに転換できる能力を持った大企業は、スタートアップからすると手ごわすぎて、最初からリングに上がるのをためらってしまう。そのくらい革新的な存在になり得るのです。

「エネルギーのメガベンチャー」JERA統合秘話

奥田:JERAの歴史をお話しさせてください。もともとは東京電力と中部電力の火力発電、燃料、海外発電事業を丸ごと切り出して統合した会社です。

仮屋薗:日本のエネルギー業界では画期的な動きでしたね。

奥田:当時、可児 行夫(現・代表取締役会長Global CEO)と私の二人で「JERAをどんな会社にするか」を議論しました。最初から一致していたのは、電力会社のいいところは持ち込むけれど、それ以外は全く新しいカルチャーにしようということ。あえて電力会社と違う会社をつくることで、成長させていこう、と。

仮屋薗:新しいカルチャーを意図的につくろうとされた。

奥田:日本の大企業が変われないことに対して、一つの答えを出したいという思いがありました。一つの企業体の中で変えていくのは難しい。でも、事業を丸ごと切り出して統合し、両株主が50対50で株式を持つことで、どちらも支配権を持たないで、JERA独自のガバナンスで経営できる。

仮屋薗:それは確かにユニークな構造ですね。

奥田:当時の若手社員が「JERAはエネルギーのメガベンチャーですね」と表現したことがあって、言い得て妙だなと思いました。このマインドを持ち続けることが大事だと思っています。

今は「3年一昔」。常に問い直し、追いついていく

奥田:仮屋薗さんがおっしゃる通り、社会の変化スピードは本当に速くなっていますね。

仮屋薗:私が就職した1990年頃は「企業30年説」と言われていました。30年かけて成長し、そのサステナビリティも30年くらいだと。でも今は、10年経って残っている会社は数パーセント。大企業のトップリストも毎年大きく入れ替わります。

奥田:1990年に企画室にいた時、上司から「企業30年説について調べてこい」と言われたのを覚えています。今や30年どころか、3年一昔と言えるペースで環境が変わっています。

仮屋薗:JERAさんもこの変化する環境に対応していったのですよね。

奥田:ええ。2013年頃にJERAの検討を始めた時は、原子力発電が止まっている中、燃料の獲得競争で中国勢に負けないようにすることが最大の課題でした。ところが2019年に火力発電事業を統合した時には、もう「火力は時代遅れ」という風潮になっていた。その後、ロシアによるウクライナ侵攻があり、トランプ大統領の登場によりまたガラッと変わった。

仮屋薗:まさに「3年一昔」ですね。

奥田:だからこそ、一度事業部を作ったら10年同じことをやるという時代ではない。常に「これでいいのか」と問い直しながら、事業部の中だけで対応できないものは別のスキームで追いついていく。CVCもその一つの手段だと考えています。

「こだわり力」と「交わり力」

奥田:スタートアップの経営者と話していると、学ぶことが本当に多いんです。同じように社会を見ていても、微妙に見る角度が違うことで、僕らには気づかない問題に気づいている方がいる。それに、スタートアップ同士の「交わり」がすごい。こんな組み合わせで面白いことができるんじゃないか、という会話がたくさん行われている。

仮屋薗:おっしゃる通りです。スタートアップの経営者に共通しているのは、ものすごい「こだわり力」と「交わり力」ですね。
「俺はこれをやりたい。このビジネスを成功させることで社会をよくしたいし、自分も儲かりたい」というこだわり。そして、それを実現するために自分の力だけではできないから、いろんな人と交わって実現をスピードアップさせる交わり力。この両方がすごいんです。

奥田:ベンチャー企業に限らず、どのような組織で働く人にも同じ能力が必要だと思います。自分はこの道を極めたい、こうやって社会を変えたいというこだわり。そして、自分だけではできないから、社内の他部門を巻き込み、会社の外の経営資源も使って実現していく交わり力。

仮屋薗:一番学びやすいのは、ベンチャー企業の方々から学ぶことだと思います。

7割失敗は当たり前、継続することが成功への道

奥田:スタートアップへの投資は、リスクも伴います。そのあたりはどうお考えですか。

仮屋薗:スタートアップで成功する会社は1割、そこそこ成功する会社が2割、そして残りの7割は失敗します。新しいことにチャレンジすれば、失敗するのが当たり前。失敗を通じて学び、次の成功確率を上げることが成功への近道です。

奥田:でも7割失敗して、ベンチャーキャピタルは成り立つのでしょうか。

仮屋薗:成り立ちます。なぜなら、一番の成功は、それまでのすべての失敗をはるかに超えるリターンを生むからです。例えば、私たちがワークスアプリケーションズに投資した1億円は50億円になりました。メルカリへの投資は数百億円のリターンになった。

奥田:一つの大成功が、それまでの失敗を全てカバーする。

仮屋薗:その通りです。そして、成功する人と失敗する人の違いは何かというと、「継続した人が成功する」ということ。ベンチャーキャピタル業界では定説があって、最初は失敗が先に出て、ロスが積み重なる。5年から10年かけて成長した時に大きな成功が出て、それまでのマイナスを全部カバーする。

奥田:短期志向ではダメだ、と。

仮屋薗:多くの企業は、一番ボトムになった3〜5年目でチャレンジをやめてしまう。すると、それまで投下したお金は全部サンクコスト(撤退しても回収できないコスト)になる。新しいことにチャレンジする時は、失敗が先に来て成功が後に来る。そこまでやりきる覚悟が必要です。

奥田:企業側としては、失敗を前提にリスクキャピタルを確保し、ポートフォリオを組んで分散させる。そして短期志向にならず、一定期間は我慢する。この3つが大事だと思いますね。

グローバルとローカルの橋渡し役として

奥田:JERAの強みについてお話しさせてください。私は常々、「グローバル力」と「ローカル力」の両方がないとうまくいかないと言っています。

仮屋薗:JERAさんの事業は、まさに両方にまたがっていますね。

奥田:ええ。燃料事業は完全にグローバルな市場で、一物一価で取引されており、ローカルの概念がほとんど消失しています。一方、発電事業は国ごとに市場形態も規制も違い、太陽光発電を行いやすい国もあれば風力発電が向いている国もある。かなりローカリティの強いビジネスなんです。

仮屋薗:その両方を手掛けているからこそ、JERAさんには独自の視点がある。

奥田:JERAが進んでグローバルとローカルの橋渡し役をいろんな領域でやっていくことが、私たちの強みになると思っています。日本でもエネルギーの話になると、どうしてもローカルな議論になりがちです。でも、発電所を作るための資材も燃料も、ほとんど世界市場で価格が決まっている。ローカルの視点だけでは、グローバル市場の動きと矛盾した答えを出してしまう可能性があるんです。

仮屋薗:ローカルとグローバル、両方を見て最適解を導けるということですね。

奥田:今、秋田で洋上風力事業に取り組んでいますが、洋上風力の電気は発電コストが高い。でも、地産地消価値や環境価値という、従来とは違う価値がついている。その価値を認めてくれるお客様を自ら模索して、ビジネスにできないか考えています。ローカルで付加価値がつけられる生産物と、グローバルに販売できる市場を組み合わせる。そういうモデルを作るのに、グローバルとローカル両方の発想が必要なんです。

仮屋薗:確かに。地方創生においても、同じことが言えますね。私が日本ベンチャーキャピタル協会の会長だった時、地方創生の部会を作りました。新しい発明やイノベーションは人が集積することで生まれるので、どうしても東京やシリコンバレーのような場所に集中してしまう。でも、地方の中堅企業にスタートアップのテクノロジーを持ち込み、DXで成長できるよう橋渡しをしたら、とても効果があった。お金を持っていくより、そちらのほうがうまくいったんです。

「違い」を楽しむ人間力、心の余裕、リスペクトを持て

奥田:最後に、JERA VenturesやJERA社員の皆さんへのお願いがあります。ベンチャー企業の方と交わる時に、心の持ちようによって、その交わりが成功するかどうかが左右されると思うんです。

仮屋薗:と言いますと?

奥田:自分と全然違う見方や価値観に出会った時、シャッターを下ろしてしまう人もいれば、拒否する人もいる。それでは絶対にいい関係にはなりません。「違い」こそが面白いと感じられる人間力があるかどうか。それがベンチャー企業の方々と向き合う上で一番大事なことだと思います。

仮屋薗:同感です。

奥田:違いに対して楽しむ心の余裕、相手を尊重すること。それがあって初めて、違う考えの組み合わせから新しいビジネスの発見、新しい問題の発見が生まれてくる。そこがイノベーションの醍醐味だと思います。

仮屋薗:私の妻がいつも言っているのですが、「はいか、それともイエスか」。どちらか選べと(笑)。まさにそういう姿勢が大切ですね。

対談の最後に、奥田社長はこう語りました。

「違う考えの組み合わせから、新しいビジネスの発見、新しい問題の発見が生まれてくる。そこがイノベーションの醍醐味だと思います」

エネルギー業界とベンチャーキャピタル業界。異なるフィールドから未来を見据える二人の発言には本質的な共通項もみられ、イノベーションを生み出すために必要な視点が示されました。

JERAは今後も、JERA Venturesを通じて、世界のエネルギー問題に最先端のソリューションを提供するためのチャレンジを続けていきます。

宗國 修治

グロービス・キャピタル・パートナーズ 共同創業者 エグゼクティブ・アドバイザー
仮屋薗 聡一 氏

1996年グロービスのベンチャーキャピタル事業設立に参画。日本初のアーリーステージ・ハンズオン投資VCを創業。2015年より日本ベンチャーキャピタル協会会長等歴任、現在は最高顧問。主なトラックレコードにユーザベース、オイシックス、グリー、ワークスアプリケーションズ、ネットエイジなど。慶應義塾大学法学部卒、米国ピッツバーグ大学MBA修了。