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オリジナリティあふれる
JERAのD&Iへの取り組みとは

2024.3.8

2021年6月、金融庁と東京証券取引所が「コーポレートガバナンスコード」を改訂し、企業統治における主要な指針としてダイバーシティに関する原則が追加された。とくに「企業の中核人材における多様性の確保」が盛り込まれたことで、上場企業は女性・外国人・中途採用者の登用など、管理職における多様性の確保が求められている。ダイバーシティ推進が企業の経営課題となりつつある今、JERAではD&Iという価値観をどのように捉え、新たな組織づくりに取り組んでいるのか。社長直轄組織において企業価値創造を担当する藤家美奈子執行役員に話を聞いた。

深層的ダイバーシティを大切にし、イノベーションにつながる社内カルチャーをつくりあげたい。

──JERAにおけるD&I推進は、人事部門ではなく社長直轄組織がリードしている点が特徴的です。女性活躍推進に注目が集まりがちなD&I推進ですが、JERAではどのように取り組みを進めていますか?

藤家 美奈子(以下、藤家):JERAでは2023年7月から、社長直轄の企業価値創造部門がD&I推進を担当しています。「統合報告書2023」においても、経営トップが多様性の重要さをメッセージで言及している通り、全社のMission・Vision実現に不可欠なものとしてD&Iの取り組みを位置付けています。

日本におけるD&Iは、どうしても女性管理職比率や障がい者雇用率といった表層的な数値に目が行きがちです。しかし、私たちはより深層的なダイバーシティに注目し、「マイノリティだけではなくマジョリティも含んだD&Iカルチャーの醸成」に舵を切りました。

つまり、「性別や国籍、宗教などにとらわれることなく、みんなが活躍できる状況」といった仕組みづくりにとどまらず、さらに一歩踏み込んで、「それぞれの価値観や個性をぶつけ合い、新しいイノベーションを生み出していく」ことに本気で取り組み、新たなカルチャーをつくりあげていくことが重要だと考えています。

JERA執行役員 藤家美奈子

私自身は肩に力が入った女性活躍推進のあおりを受けた世代で、「今日は会議に女性がいるから雰囲気が違う」「女性としての意見はどうですか」と言われることもありました。自分の意見は言えますが、女性代表としての意見は言えませんよね。女性などのマイノリティを増やして多様性を高めるだけではなく、大切なのは、一人ひとりが持っている個性や価値観、経験を活かし合うこと。全員が主役となって生産性を高めていく、そんなフラットな社内カルチャーの浸透に重きを置く視点が、JERAにおけるD&I推進の特徴といえます。

一方、私たちは発電事業者として、「誰が発電しても安定供給が維持でき、誰がメンテナンスしても品質が保たれる」という同質性を大事にしてきたことも事実です。

これまでの常識を超えた「ゼロエミッション火力の実現」を掲げ、グローバルに展開していこうという現在のJERAにとって、この同質性だけでは先に進むことができません。発電所においてもデジタル化や生成AIの導入など、次世代への変革が急ピッチで進んでいます。同質性の高い集団といっても、それぞれが元々持っている価値観や個性の違いは必ずあるはずなので、今こそその違いを引き出し、イノベーションが自然と創出されるカルチャーの醸成を目指したいと思っています。

経営トップが、JERAにおける多様性の重要さを語った「統合報告書2023」
https://www.jera.co.jp/sustainability/ccb2023)

JERAにおけるD&Iの考え方。全社のミッション・ビジョン達成のため、D&Iカルチャーの醸成を目指している。

フェムテックへの出資を通して、ミッションとして掲げた「家族の幸せ」まで実現する。

──JERAのコーポレート・ベンチャー・キャピタル「JERA Ventures」では、D&Iの領域でも注目を集める「フェムテック(Femtech)」分野に出資されています。女性特有の健康課題をテクノロジーで解決しようとするこの投資は、どのような意義があるのでしょうか?

藤家:以前より「D&Iはビジネスに必要なもの」との理解を社内や世の中に促したいと思っていました。そうした中で、アジア初のフェムテック特化型「NEXTBLUE2号ファンド」のお話を聞いた時、D&Iが投資の対象にもなり得るチャンスだと感じました。

NEXTBLUE側としても、化粧品や流通といったそもそも女性が活躍している業界だけではなく、重厚長大なエネルギー産業の存在が日本のD&Iを変えていくためには欠かせないと考えていたらしく、まさに相思相愛のタイミングで組ませていただくことができました。

JERA Venturesというコーポレート・ベンチャー・キャピタルの枠組みができたことで、フェムテックという新しい領域へのチャレンジングな投資が可能になったことも大きいですね。リーダーが男性ということもあり、「フェムテック=女性活躍推進」となりがちなイメージを変えていく動きもD&Iカルチャーの醸成の追い風になっているところです。

2023年7月、「本気で世界を変えたい人のSandbox(遊び場)になる。」をキーコンセプトとして誕生したJERA Ventures。総額 300 Million USDの戦略的な投資を実施するコーポレート・ベンチャー・キャピタルとして、同年9月にはFemtechに特化したアジア初のベンチャーファンド「NEXTBLUE2号ファンド」へ出資した。

JERAのD&Iのミッションは、ひとつ目が「社員やその家族が幸せになること」で、次いで「JERAの企業価値を高めること」。社内からは、企業価値よりも社員や家族の幸せを優先する姿勢に賛同する声をもらう一方で、家族の幸せをどう会社が実現するのか、といった疑問の声もあります。これはもっともな指摘で、今後はフェムテックの製品やサービスの提供などを通して、社員の家族により直接的なメリットをもたらしたいと考えています。
JERA社員の9割は男性。しかし、その家族には、母親や姉妹、妻や娘といったフェムテックを必要とする女性がいるかもしれません。具体的なフェムテックの製品やサービスの提供をするプログラムはまだ準備段階ですが、最新のフェムテックを届けることで、家族の幸せに具体的に貢献し、より大きなD&Iカルチャーをつくっていけたらいいなと思っています。
フェムテック製品を創り出す過程で、試作品をJERA社員や家族がモニター利用し、その結果をスタートアップ企業へフィードバックする試みも想定しています。社員やその家族にフェムテックの製品、サービスを試してもらいつつ、柔軟で熱量あふれる起業家とJERA社員の共創・協業を促進し、イノベーションが自然と創出されるカルチャーの醸成につながる連携の場も作りたいと考えています。

3年目となる「D&I月間」では、経営幹部も巻き込み社内イベントを実施。

──2023年11月の「D&I月間」では、「Well-being ~誰もがイキイキと働くために~」というテーマでさまざまな社内イベントが実施されました。開催の狙いや取り組みの成果はどのようなものでしたか?

藤家:2020年から毎年D&I月間を設定し、社員がD&Iの考えに触れ、自分事化し行動へつなげる機会の提供を目的としたイベントを開催しています。D&I推進というのはマジョリティを含んだ全社員への働きかけであること、「全員が対象」であることを明確にしたい思いがあります。

今年度、テーマに掲げた「Well-being」は究極の目標です。すぐに実現できることではありませんが、取り組みの中で見えてきた個別課題を今後のテーマにしていこうと考えています。今回は「生理痛体験企画」「NEXTBLUE×JERA Ventures対談」「ワールドカフェ」といったイベントを中心に展開しました。

「生理痛体験企画」
生理痛を疑似体験できるシステムを使って、女性特有の痛みを男性にも体感してもらおうというもの。希望する男性社員をはじめ、経営執行会議の場に合わせて、経営トップが体験した。

「NEXTBLUE ✕ JERA Ventures対談」
NEXTBLUE代表の井上加奈子さんを招いて、世界のフェムテック事情を具体的な数字や事例を交えながら解説していただくとともに、JERA Venturesのリーダーである大山さんとの対談や社員からの質疑応答などを行った。

「ワールドカフェ」
社員同士のディスカッションの場として開催。自分の職場で「良いと思うカルチャー」と「変えていきたいカルチャー」について6人1組でメンバーを入れ替えながら話し合った。初の試みであったが36名の社員が参加。顔合わせの段階から会場は熱い盛り上がりを見せ、社員が社員同士のコミュニケーションの深まりを楽しんでいる様子がうかがえた。

社員の家族にJERAを体験してもらうファミリーデーを行い、社内見学や発電所見学を実施。子連れのファミリーからは好評だが、今後は小さな子どものいないファミリーにも楽しんでもらえる内容を検討中。

D&I推進において大事なのは、「平等」と「公平」の違いを知ることです。例えばここに、体格や身体的特徴の異なった4人がいたとします。この4人に同じ大きさの自転車を渡すことが「平等」であり、それぞれの身体の大きさや特徴に合う自転車を渡すことが「公平」です。この公平性(エクイティ)というのが難しく、人は悪気がなくても自分中心に物事を考えがちで、自分が体験したことがないものは理解しづらいもの。だからこそ、経営幹部が率先して生理痛を体験し、「違いがあることを知る」姿勢を示してくれたことは、とても意味のあることだと感じています。

私たちのD&Iの考え方では、フェムテックはエクイティのためであって、女性活躍推進だけを見据えたものではありません。もし男性が困っていることがあれば、エクイティの観点から男性をサポートすればいいわけです。あらゆる社員が自身のパフォーマンスを維持していけるよう、会社として公平に策を講じていくことが大事だと思っています。

これからのD&I推進の課題は、グローバルにどう広げるか。

──最後に、現在までの取り組みの総括と今後の展望をお聞かせください。

藤家:JERAの女性社員比率は、ようやく10%を超えたところ。女性管理職比率についてもまだまだ胸を張れる状況ではありません。ただ、冒頭でも申し上げた通り、私たちは表層的なものよりも深層的なダイバーシティを追求しています。

「管理職を目指したくない」という女性に会うと「力があるのにもったいない」と思いますが、誰もがバリバリ仕事をしたいわけではありませんよね。同質的に一方向に進むのではなく、フェムテックなども取り入れながらさまざまな選択肢を提示した上で、その人自身の考えを尊重していくことが大切だと思います。そして、まだまだ積極的に意見を言えていない部分も見えてきましたので、もっと気軽に発言できたり、言いたくないことは言わなくても良いといった雰囲気をつくったりしていきたいですね。

男性社員に関しては、育児休職の取得率が40%。年々上がってはきていますが、世の中と比べたらさらに上を目指す余地があります。しかし、全社共通のスケジューラーに保育園の送り迎えを記入している人も増えているなど、一昔前では考えられなかった新しい波を感じていますので、これがうまく広がっていくことを願っています。

今後の課題は、国内にとどまらずグローバルでD&Iを推進していくこと。3月には国連が制定した「国際女性デー」がありますので、これをきっかけに海外拠点との横断的ネットワーク構築を目指したイベントを開催します。毎年少しずつグローバルな活動も進めていく予定です。これからもエクイティを大切に、フラットでイノベーティブなD&I推進を続けていきたいと思います。

藤家 美奈子

藤家 美奈子
執行役員
企業価値創造部門担当
株式会社JERAミライフル 代表取締役社長

東京電力入社。横浜支社総務グループマネージャー、株式会社キャリアライズ経営戦略室長、福島本部福島原子力補償相談室東京補償相談センター所長を歴任し、2016年に鶴見支社長、2019年にJERA監査役に。2023年から現職。ダイバーシティ&インクルージョンをJERAに根づかせるチャレンジを通じて、社員のモチベーション・エンゲージメントを向上させる新たな企業文化の醸成を目指している。