メインコンテンツに移動

ラジオNIKKEI 町田徹の経済リポートふかぼり!特別番組「地球温暖化、避けられない脱炭素問題」※2020年10月23日・30日放送を編集したものです。ラジオNIKKEI 町田徹の経済リポートふかぼり!特別番組「地球温暖化、避けられない脱炭素問題」※2020年10月23日・30日放送を編集したものです。

時代が大きく変わっていく中、
日本もいよいよ2050年にゼロエミッション、
温暖化ガスの排出を実質ゼロにする目標を打ち出す方針を固めました。
これから私たちはこの目標にどう取り組むべきかをテーマに、
環境問題、エネルギー政策に詳しい3人の専門家で
パネルディスカッションを行いました。

パネリスト・プロフィール

  • 小林 光

    日本経済研究センター
    特任研究員
    東京大学客員教授
    元環境事務次官
    小林 光

  • 小林 辰男

    日本経済研究センター
    政策研究室長
    小林 辰男

  • 奥田 久栄

    JERA奥田取締役
    常務執行役員

  • 町田 徹

    番組パーソナリティ:
    経済ジャーナリスト
    町田 徹

  • 杉浦 舞

    アシスタント:フリーアナウンサー杉浦 舞

※対談中、敬称略

ゼロエミッションをめぐる
世界の動向と日本の対応

町田徹
まず、地球温暖化対策をめぐる世界の動向はどうなっているのでしょうか? 国連で強まっている2050年にゼロエミッションという主張と、ここまでの日本の対応ぶりを教えてください。
小林光
ゼロエミッションにおける世界の動向と比べると、日本の対応は遅れているのが正直なところだと思います。ヨーロッパは温室効果ガスを2030年で44%程度削減するとしていますが、日本は26%の削減ということで、市場経済の中では第2番目の大排出国なのにちょっと腰が引けているという印象じゃないでしょうか。
町田徹
JERAは、日本の電力会社としては初めて、ゼロエミッションに関する明確な目標を公表しました。内容を聞かせてください。
奥田 久栄
奥田久栄
2050年にJERAの国内外の事業から排出するCO2をゼロにする挑戦このたび、「JERAゼロエミッション2050」という、新たなチャレンジを発表しました。最大のポイントは、「2050年にJERAの国内外の事業から排出するCO2をゼロにする」ことに挑戦すること。また、その中間目標として、「2030年にJERAのCO2排出原単位を、政府が示す2030年度の国全体の火力発電からの排出原単位と比べて20%削減する」ことにもチャレンジします。このため、非効率な石炭火力を全台停廃止することや、発電時にCO2を排出しないアンモニアを混焼する試験を開始、さらには、洋上風力を中心とした再生可能エネルギーの開発促進などを約束しています。非効率石炭火力の全台停廃止を約束したのは、日本ではJERAが初めてです。また、単に目標を掲げたというだけではなく、それをどのようなアプローチで実現していくのかということも明確にしました。具体的には、3つのアプローチを取ろうと考えています。1つは、再生可能エネルギーのみならず、火力発電の脱炭素化も併せてゼロエミッションを実現すること。その方が、より現実的に、かつ低コストで脱炭素に近づけると我々は考えています。2点目は、国ごとの事情に合わせたシナリオで脱炭素を目指すということ。経済の成長段階や地理的条件などは、国ごとに大きく異なります。従ってその国ごとに最適な選択肢は異なるというのが、我々の考えです。そして最後、3つめは、今できることからやり始めるというアプローチを取ることです。将来の夢物語を語るだけではなく、今できることから着手し、それを積み重ねて脱炭素を目指すという考え方です。JERAでは、これを「スマートトランジッション」と呼ぶことにしています。以上が、JERAの脱炭素に向けた基本的な考え方です。
町田徹
国が2050年のゼロエミッションを宣言する前に、JERAは政府の動きを先取りした形となりました。そこで、JERAの具体策の一つとして、非効率石炭火力発電を全台停廃止するという話がありました。この点は、どのように評価されていますでしょうか。
小林辰男
世界最大級の火力発電会社であるJERAが、2030年までに非効率石炭火力をすべて停廃止する、さらに、2050年にはゼロエミッションを目指すことを打ち出されたことは、個人的には脱炭素社会への実現に向けた第一歩として高く評価しております。業界のリーダーとして、責任ある行動ではないかなと思っております。ただし、仮に非効率石炭火力を全廃しても、この8割削減という水準を満たしません。私たちの試算では、約4%程度しか日本全体のCO2は減りません。

火力発電における
CO2ゼロへの取り組み

町田徹
小林辰男室長のおっしゃることは、非効率石炭火力の全廃だけでは足りないということだと思いますが、それでも、非効率石炭火力の全廃なしにゼロエミッションを実現するのは、不可能ですよね。
町田 徹
奥田久栄
CO2削減のために、将来的に、火力発電でアンモニアや水素の混焼にチャレンジ脱炭素は、何か一つのことをやれば実現できるような単純な問題ではないと思います。ありとあらゆる選択肢を総動員して、脱炭素に向かう現実的なロードマップを描かなくてはなりません。そのひとつは、再生可能エネルギーを導入するため最大限努力をすること。もう一方では、今ある火力発電所から出るCO2を段階的に減らし、最後はそれをゼロにするという取り組み、これを併せて実施したいと考えています。火力発電はどうしても「CO2をたくさん出す」というイメージで捉えられがちですが、例えば、アンモニアや水素は燃やしてもCO2は出ません。こうしたグリーンな燃料をまず今ある発電所で、今使っている燃料に混ぜて、その量や比率を高めていく。そうしたことを確実にやっていけば、確実にCO2の削減が可能になります。我々はそれにチャレンジをしたいと思っています。
町田徹
火力発電に使うアンモニアは、現在はそれほど量があるわけでもなく、量を確保するために取り組むべき課題はたくさんあるということでしょうか。
奥田久栄
現在、アンモニアは主に肥料の製造に使われているのですが、発電所で燃料にしようとすると、比較にならないぐらい大量のアンモニアが必要になります。従って、本当にアンモニアを大量に用いて発電しようとするならば、アンモニア製造の拠点から作らなければならない、ということになります。これは非常に長丁場で取り組むべき課題になるとご理解いただければと思います。
町田徹
そのアンモニアを製造する過程で、逆にCO2が排出されてしまい、それも処理しなければならないということもありますか。
奥田久栄
我々は基本的にアンモニアの製造過程で排出されるCO2は、現地で地中に埋める、あるいは森林に吸収させるなどの方法を用いて、完全にCO2フリーの状態にして日本に持ってくることを目指そうと考えています。そうすれば燃焼時にCO2が出ないわけですから、完全にCO2フリーのサイクルができることになると思います。

これからの火力発電の
新たな可能性

町田徹
やはり「再生可能エネルギーだけで実現してほしい」という人たちもいると思います。ソリューションとして考えた時に、世界の解として火力との併存のようなこともまとめていけるのでしょうか。
小林 光
小林光
私は火力を使うこと自体には反対ではないです。まず電力事情に応じて出力を調節ができる電源が必要だと思います。電気は需要と供給が一致しなければなりません。そういう意味では、火力発電はたいへん役に立つ電源だと思います。ただし、負荷変動に応じて調節できる電源としては、石炭は向かないので、天然ガスにシフトしていくべきだと思います。結局、石炭は安いから使いたいというのが多くの人の本音ではないでしょうか。天然ガスに徐々に水素を混ぜていくと、CO2は滑らかに削減できますし、かたや、世界中で再生可能エネルギーをつくると余る場合も出てくるのですが、それをどのように貯蔵するかというと、例えば水素にするのは、蓄電池よりも安価なソリューションなので、そうした組み合わせはあると思います。水素は燃料に使えます。CO2を完全に削減するとなると「水素を焚く」ソリューションが必要になると思います。アンモニアも水素の一種ですが、水素を窒素と結合させて輸送でき、燃えるのは水素ですからCO2は出ません。そんな水素社会に真剣に向かうことを考えると、その時に石炭はあまり使いやすい電源ではないと私は思っています。
町田徹
時限的にはある程度はあり得ますか
小林光
CO2を見かけで減らすのなら、古い火力に水素を混ぜるのは最も削減できたように見えます。最先端の効率のいい石炭火力に混ぜてもあまり削減できません。まずはそれでCO2を減らす手法はあると思いますが、遅かれ早かれ石炭火力はなくなるものだという覚悟は必要だと思います。
町田徹
小林辰男室長は、発電や電力だけではなく、社会全体の問題で捉えなければ、というのがご持論ですよね。
小林辰男
約30年前に小林光先生が政策の先頭に立っておられた時から、私は記者として取材していましたが、政府の審議会を聞いていると、議論にいつも違和感がありました。違和感の正体がわかってきたのですが、エネルギーの供給サイドでCO2をゼロにすることばかり議論されていて、肝心の需要サイド、消費する側の議論がまったくといっていいほどされておらず、これは今後もたぶん変わらないのではと思っています。ですから先ほどいわれたように、再生可能エネルギーで全部やればいい、というような極端な議論が出てくるので、やはり需要サイドの構造変換を考えなくてはと思うのです。これから先、桁違いの省エネや生産性向上がDXをうまく取り込めば実現できる可能性があって、これがゼロエミッションを実現するかどうかのカギの一つだと思ってます。

再生可能エネルギーの
拡大に向けて

町田徹
火力発電の効率化も、再生可能エネルギーの拡大も全部やるのが企業としての戦略だと理解しました。そこで、再生可能エネルギーの具体的な拡大戦略について聞かせてください。
奥田久栄
国内外での洋上風力に「チャレンジ」JERAは昨年、台湾のフォルモサという世界最大級の洋上風力プロジェクトに参画しました。そこでは、運転中、開発途上、これから開発するという、開発段階が異なる3プロジェクトがあり、これら全てにJERAは参画しています。これにより、洋上風力発電をゼロから開発し運転するまでの技術やノウハウを一気に取得することを期待しています。また、台湾は日本と地理的条件が近く、技術やノウハウを日本に移転しやすいメリットもあると考えています。ここで得た知見をフル活用してJERAは日本国内の洋上風力案件である、秋田沖、石狩湾沖の案件に、まずはチャレンジしていく予定です。日本は海洋国家ですので洋上風力発電のポテンシャルは大きく、我々も期待しています。一方で、洋上風力といえども、発電量は風況で左右されることになるため、その変動を吸収するためにも火力発電は必要です。従って、火力発電のゼロエミッション化も同時に進める必要があると考えています。この2つを上手に組み合わせることで、経済的に脱炭素化を進めることを目指していきたいと考えております。
町田徹
ドイツ、アメリカ、中国など、世界の再生エネルギーの普及活動状況を教えてください。それと比べて、今の日本はどのような段階にあるのかも、ご説明いただけるとありがたいです。
小林光
例えばドイツでは、2019年時点で再生可能エネルギー比率が40%を超えたと聞いています。それに比べて日本は2030年の再生可能エネルギー比率を22%~24%を目標にしていましたが、23%まで達しました。コロナの影響で電力需要が減り、再生可能エネルギーは、割合の問題でシェアが高まったということだと思いますが、それにしても23%までいきました。それでもドイツに比べれば半分程度ですので、やはり遅れてるなと思います。日本の場合なぜ「できない」となるのか分かりませんが、既存の電力網でもっと大きい割合を出してる国はあります。技術が劣っているとはいいたくないので、少しチャレンジ精神が足らないのかなと個人的には思っています。
町田徹
小林辰男室長、なぜそういうチャレンジ精神が不足するような状態になったのか、そこを知っておくのはこれからのためにも役立つと思うので、解説いただけますか。
小林辰男
電力会社は電気事業法に基づいて事業をされて、今、電力自由化の時代ではありますが、安定供給がまず念頭にあります。火力発電や、原子力発電は安定した発電ができるわけです。電力の需要の変化にも追随して、きちっと電力を供給することが可能です。私、これも高く評価しますけれど、JERAがトライされようとしてる再生可能エネルギー、例えば太陽光発電はお日様まかせですし、風力発電なら風まかせなので「電源として頼りにならないよ」と、発電のプロの方々はよくおっしゃっていました。今でもそう思っている方が電力業界では多いのかなと、JERAのように果敢にトライしようという方は少数派じゃないかなと、私はちょっと心配しています。
小林 辰男

ゼロエミッションを
実現するためのDX

町田徹
JERAは、今の状況が「変わった」というお考えなんでしょうか。実は経産省の関係者に取材をしてみましたが、フロントランナーとして技術開発を含めてJERAに期待してると、相当リーダーシップを発揮してくれることを期待してるようでもありました。
奥田 久栄
奥田久栄
日本の脱炭素化のために「覚悟を決めた」「覚悟を決めた」と断言したいと思います。JERAは国内最大の発電会社で、日本の火力発電の半分を所有し運転しています。その火力発電が、今の日本の電力需要の8割を支えているという事実があります。その一方で、日本のCO2の約4割がその火力発電から出ています。持続可能な社会の実現に向けてJERAのような会社が果たすべき役割は、非常に重いと考えています。言い過ぎかもしれませんが、JERAが動かなければ日本の脱炭素化は進まないし、逆にJERAが動けば日本の脱炭素化を進めることができるのでは、そのように考えて、今回覚悟を決めて、脱炭素の新しい考え方を発表しました。ただ、JERAが努力するだけでは、残念ながら脱炭素は実現しません。我々と一緒にこの問題に取り組んでくれる仲間を業界の内外に増やすことで、初めて持続可能な社会が実現できると思います。これからは仲間づくりにも力を入れて取り組んでいきたいと考えています。
町田徹
「仲間づくりが大切」と奥田さんはおっしゃいましたけれど、小林辰男さんは、全体をどう考えますか?
小林辰男
供給側の仲間づくりは非常に重要で、エネルギーを供給される電力業界や、石油業界などの他業界とも結束していただきたいと思います。もう一つは、DXの話です。経済社会の構造全体を大きく変える、あるいは変わることがゼロエミッション、脱炭素社会には不可欠だと私は思っています。いま我々は、使いたいだけ電力を使える環境にありますが、今後、効率的に電気を使うためには、需要サイド・消費者側でDXを取り入れると、それをコントロールできるようになるわけです。DXはデジタル技術であり、資源価格が変動しようが否応なく進展します。だから、第4次産業革命という言葉が使われているのだと思います。まさに今起きていることは、石油や資源、エネルギーの世紀から、情報が世の中を動かす機動力になる。21世紀はそういう意味でも、情報の世紀になるということで、ゼロエミッションが現実味を帯びてきているのではと、個人的に思っています。
町田徹
DXが進めば産業構造が簡単に変わるというニュアンスかと思いますが、本当にうまくいくでしょうか。
小林光
私もそれは聞きたいところですけれども、私が現役の時は、当時の環境省が温暖化対策の目標を達成するためには産業構造を変えないといけないと提案をしたことがあったのですが、驚くことにとても怒られました。ですから、昔はその産業構造を変えるのは禁じ手だったと思います。ただ、日本の生きる道は、やはり知恵を使い、付加価値の高いものをつくること以外にないと思います。日本の製造設備の効率は良く、今まで長持ちさせて昔の産業構造で稼げるだけは稼いだと思うのですが、そろそろ賞味期限が来ているのです。かたや、外国はどんどん生産性を上げている中、日本はこのDXにすがるしかないというところまで来ていると思います。そういう意味でも切羽詰まっているなかで、コロナが来たこともあり、違うことができる、変わるチャンスかなと思っています。

世界のビジネスとなる
ゼロエミッション

町田徹
最後に、ゼロエミッションに向けた総括をお願いします。
奥田久栄
「脱炭素化」は海外でエネルギー事業を展開するための「入場券」今回は、日本での取り組みを中心に紹介しましたが、JERAは、アジア、北米をはじめ、様々な国で発電事業、燃料事業を展開しているグローバルなエネルギー事業者という顔も持っています。グローバルレベルでは、2050年の脱炭素を目指すことは、エネルギー事業を続けるための入場券のようなものと考えています。そこに向けて最大限の努力をしないプレイヤーは、もうエネルギー事業から出て行かなければならない、それが世界の現実です。JERAの脱炭素の取り組みも、グローバル規模で進めていこうと考えています。ただし、そこで重要なのは、国ごとに最適な選択肢は異なるということです。先進国のように、電力が国の隅々まで行き渡っている国と、電力供給が国の成長に追いついていない国とでは、当然この脱炭素に向けた道のりは異ならなくてはならないと思います。そこを無視して、どの国にも同じ処方箋を押し付けては、途上国はそっぽを向いてしまう。これでは世界的な脱炭素が進まないことになると思うのです。従いまして、我々はその国のステークホルダーの皆さんとしっかり相談をして、その国に合った脱炭素のロードマップを一緒につくり、ともに脱炭素を進めるスタンスでビジネスモデルをつくっていきたいと考えています。
小林辰男
非効率石炭火力の廃止ですら嫌という方々は、CO2の排出量に課税する、環境税、炭素税が効果的かもしれないと思います。どうしても石炭にこだわるというのであれば、そのかわりに税を納めるという仕組みは、分かりやすいですからね。EUでは、温暖化対策が不十分な国からの輸入品に、炭素税をかけようという動きもあります。CO2削減は、今世紀最大のビジネスチャンスの一つと頭を切り替えていただきたいなというのが、私が今、率直に思っているところです。
町田徹
国際政治のパワー・ポリティクスの問題から日本も同様に実施した方がいいと思いますが、どうしたら可能になるでしょうか?
小林光
そもそも社会的費用と言いますが、環境に良くないことをしているのに、その分のお金を払わずに安く石炭を使うというのは、正義に反するというか、経済の効率性にもかかわると思うのです。そういう意味で、本来は払うべきものだと思います。その税収を、福祉の財源でもいいですし、私が思うに、法人税の減税をして、企業はエネルギーを使うのではなく、人を雇うことで発展をするというような経済に変えるということはできると思います。もう一つは需要側の人たちにも意識を変えてもらわねばならないと思います。自分たちも払うんだというつもりになっていただいて。払うことによってお金は国内に回りますので、そこで例えば、省エネ機器をつくるとか、新しい風力発電機をつくるとか、工事や修繕をするとか、たくさん仕事ができますので、環境のためにお金を使うという意識を、国民、事業者側が持つ、これが一番大きな力になるのではと、個人的には思ってます。
町田徹
お三方、どうもありがとうございました。
ゼロエミッションに向けて、水素の可能性や、DXでどう変わるのか、たいへん勉強になりましたし、JERAの覚悟が伝わりました。これからも、日本のチャレンジをもっと世界にアピールしていただきたいなと思いました。