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アンモニアで切り拓く脱炭素への道 ──信頼と共創で築く、国内初・低炭素アンモニアバリューチェーン【前編】

アンモニアで切り拓く脱炭素への道
──信頼と共創で築く、国内初・低炭素アンモニアバリューチェーン【前編】

2026.7.23

大型の商用石炭火力発電機で燃料アンモニアを大規模に利用する、世界でも前例のない検討や実証が複数の国で進み始めた。一方でそれを支える制度もなく、世界各地で立ち上がったアンモニア製造プロジェクトの中には、コスト上昇や制度設計の遅れを背景に中断・見直しを余儀なくされるケースも見受けられる。

その中でJERAは、2025年12月19日に水素社会推進法に基づく「価格差に着目した支援制度」において低炭素水素等供給等事業者として認定を受け、さらに2026年3月27日には同法の「拠点整備支援制度」でも認定を取得。日本国内で初となる低炭素アンモニアのバリューチェーンが、2029年度を目処に完成する見込みとなった。

だが、この道筋をつけたのはJERA一社のみで成し得たものではない。LCF(Low Carbon Fuel、低炭素燃料)バリューチェーン統括部の加藤統括部長は、この取り組みには「制度、上流開発、そして発電所」という3つのピースが必要であり、そのいずれもが数多くのステークホルダーとの「信頼」と「共創」の上に成り立っていたと語る。本稿では、なぜJERAがこのプロジェクトに挑むのか、そしてすべての土台となった「制度」の認定をいかにして取得できたのかを追う。

なぜアンモニアか──脱炭素時代の「基盤燃料」

再生可能エネルギーは脱炭素社会の主役だが、太陽光や風力は天候に左右されやすく、単独で電力の安定供給を支えるのは難しい。そのため変動を補う仕組みが必要であり、燃焼時にCO₂を排出しない「基盤となる燃料」も重要な選択肢になりうる。

LCF(Low Carbon Fuel、低炭素燃料)とは、CO₂の排出を抑えながら安定的にエネルギーを供給できる次世代燃料の総称だ。水素、アンモニア、合成燃料などがあるが、その中でJERAが発電用途として注力してきたのが「アンモニア」である。LCFバリューチェーン統括部 統括部長の加藤 雄一郎氏はこう語る。

「アンモニアは水素を効率的に輸送・貯蔵できるエネルギーキャリア(エネルギーの『運び手』となる物質)であり、火力発電の燃料として直接利用できる。燃焼時にCO₂を出さない次世代燃料であることが、最大の特徴です」

水素は分子が軽く貯蔵・輸送が難しい一方、アンモニアは常圧では約マイナス33℃で液化し、加圧によって常温付近でも液体として扱えるため、大量輸送・貯蔵がしやすい。既存の火力発電設備を活用しつつ、バーナー(燃料を燃焼させる装置)や受入・貯蔵・供給設備を整備することで、発電所をゼロから建て替えることなく、段階的な低炭素化を進められる。調達先も、中東・米国・豪州に加え、インドや中南米などもアンモニアの供給源となり得るため、エネルギー供給の多様化にも資する燃料だという。

なぜJERAが挑むのか

「世界のエネルギー問題に最先端のソリューションを提供する」。これがJERAのミッションである。ここでいう「世界のエネルギー問題」とは、クリーンな社会の実現に向けたサステナビリティ(sustainability)、適切な価格を実現するアフォーダビリティ(affordability)、安定供給を支えるスタビリティ(stability)の3つを、いかに同時に達成するかという問いを指す。

燃料上流・調達から発電までのバリューチェーン全体を担う、日本最大の発電会社JERAにとって、脱炭素は自らが解くべき課題だ。JERAは2020年10月、2050年時点での事業に伴うCO₂排出を実質ゼロにする「JERAゼロエミッション2050」を掲げた。安定供給を確保しながら脱炭素を実現する低炭素火力の鍵を握るのが、アンモニアだった。

「LNG、再生可能エネルギー、そして水素・アンモニア。この3つを戦略的な事業領域と位置づけ、最適なソリューションとして組み合わせていく。低炭素アンモニアのバリューチェーン構築は、JERAの脱炭素への使命であると同時に、中核を担う取り組みでもあります」(加藤氏)

LNGで培った垂直統合モデルを、次世代燃料へ

発電用途のアンモニアは、もともと大量に製造されてきたわけではない。従来は肥料や化学品向けの「グレー」が大半で、発電燃料として大規模に使うには、「ブルー」や「グリーン」を製造プロジェクトとして新たに立ち上げる必要があった。

「初の試みです。発電用途は肥料・化学品用途と比べてボリュームが格段に大きく、「碧南火力発電所(愛知県碧南市)」1基だけで最大50万トン/年規模の需要が生じます。これほどの規模を安定的に確保するには、製造プロジェクトへの参画から輸送・利用までを一気通貫で設計・構築することが不可欠でした」(加藤氏)

【コラム】「グレー」「ブルー」「グリーン」──アンモニアの3つの種類

アンモニアは製造方法とCO₂排出量の少なさによって色で呼び分けられる。

●グレー:天然ガスなどの化石燃料から製造し、製造過程でCO₂を排出する。世界で流通するアンモニアの大半を占め、主に肥料・化学品向け。

●ブルー:製造方法はグレーと同じだが、発生するCO₂をCCS(Carbon Capture and Storage:CO₂を回収して地中に貯留する技術)で回収・貯留し低炭素化したもの。

●グリーン:再生可能エネルギー由来の電力で水を電気分解して得た水素から製造する。製造過程においてCO₂を排出しない。

日本国内のアンモニア総需要は現状で年間100万トンにも満たない規模。そのおおよそ半分に相当する量を、1基の発電設備で必要とする。LNGがグローバルで年間約4億トンの取引規模を持つのに対し、アンモニアの世界生産量は年間約2億トンながら大半が地産地消され、貿易量は2,000万トン程度。グローバルな市場はまだ成熟していない。

そこで生きるのが、LNG事業で培ってきたJERAの知見である。

「上流開発から発電までを一体で捉える点では、LNGの垂直統合モデル(原料の調達・生産から輸送・販売・利用までを一貫して手がける事業形態)と共通しています。LNGで培った上流投資から、長距離輸送、発電運用までの一気通貫の運営ノウハウは、低炭素アンモニア事業でも大いに活用できます」(加藤氏)

この一気通貫の運営の中枢機能となるべく、JERAは2023年4月、LCFバリューチェーン統括部を発足させた。低炭素燃料を「構想」から「事業化」へ移行させる専門組織だ。一方、ブルーやグリーンのアンモニアは技術的にまだ開発段階の部分があり、LNGにはなかった「炭素強度のモニタリング」──製造過程で発生するCO₂をどれだけ回収・貯留したかを定量的に把握・管理し続けること──も求められる。低炭素という価値を担保するための、新しい技術領域である。

一社では成し得ない。3つのピースと、ともに歩むパートナー

低炭素アンモニアのバリューチェーンを成立させるには、3つのピースが同時に揃う必要があった。

「①海外での製造から日本での利用までのコスト差を埋める『制度』、②世界中のパートナーを見極め、共に挑む『上流開発』、③地域との対話を重ねながら進める『発電所』。この3つのいずれか一つでも欠けていたら、バリューチェーンは成立しなかった。それぞれを並走させ、最後にすべてを一本の線でつなぐことが、私たちの挑戦でした」(加藤氏)

そして、その3つには、それぞれ欠かせないパートナーがいた。制度づくりにおける政府・自治体・業界団体、上流調達における海外の製造パートナー、地域住民や行政、発電所を支える人々──。

「このプロジェクトは、JERAが一社で成し遂げたものでは決してありません。さまざまなステークホルダーとの信頼関係と、文字通りの『共創』があって初めて、ここまで来ることができました」(加藤氏)

制度設計に立った高橋 賢司氏は政府・自治体と、上流開発を率いた堤 直己氏はインダストリー(海外の製造パートナー)と、発電所を預かった坂 充貴氏は地域住民・行政と。それぞれが築いた信頼と共創の物語を追っていく。

ルールなき世界。未来の制度を「みんなで」つくる

2020年10月の「JERAゼロエミッション2050」公表を受け、翌2021年2月、JERAは「碧南火力発電所」でパートナー企業とともにアンモニア20%燃料転換(石炭の一部をアンモニアに置き換えて燃焼させること)の実証試験を行うことを決定。これがLCFバリューチェーン構築の起点となった。

当時、社内に新設された脱炭素推進室の室長として制度設計の最前線に立ったのが、高橋 賢司氏(執行役員 O&M・エンジニアリング担当 兼 国内運営統括部長)である。

「実証試験の意思決定を受けて、経営企画・事業開発・O&M・E(発電所の運転・保守・エンジニアリング)・最適化の4部門を横断するクロスファンクションチーム(部門の垣根を越えた横断型チーム)を編成し、バリューチェーン全体を俯瞰したビジネスモデルを検討しました」

検討は、①CO₂フリー電気の市場価値を保証する支援制度の設立、②上流開発の投資・調達方針、③国内火力へのアンモニア導入の戦略・技術開発・実証および設備投資、の3つに整理された。これらを並行して進めるため、2021年10月、経営企画本部内に脱炭素推進室が設置され、高橋氏が室長に就任した。

なぜ、支援制度が必要だったのか

そもそも、なぜ国の支援制度が必要なのか。低炭素アンモニアは、日本のエネルギーの未来に不可欠となりえる存在でありながら、いまはまだ既存の化石燃料に比べてコストが高い「黎明期」の燃料だからだ。さらには、この新しい燃料のインフラを新たに設置する必要がある。この時期を支え、社会実装への道を拓くために、JERAは価格差に着目した支援制度、長期脱炭素電源オークション、拠点整備支援制度という3つの制度の導入実現や活用を見据えて取り組みを進めてきた。

「価格差に着目した支援制度は、クリーンアンモニアを製造して日本に持ってくるコストと既存燃料との差を支援するもの。長期脱炭素電源オークションは、発電所で燃焼するための設備を導入するための投資費用(設備投資にかかる費用)を支援する制度。拠点整備支援制度は、産業向けに供給するための設備投資への補助金です。この3つがすべてつながって初めて、サプライチェーンが上流から発電所までつながります」(高橋氏)

製造、輸送、発電、産業への供給。どれか一つでも経済的に成り立たなければ、全体が動かない。3つの制度は、その流れ全体を日本のエネルギーの未来のために下支えするものだった。財源となるGX経済移行債(脱炭素社会への移行資金を国が調達するために発行する国債)やGX-ETS(排出量取引制度、GX経済移行債を償還するための財源)の制度設計、関連自治体の巻き込みも、一本のサプライチェーンの成立に向けて並行して進める必要があった。

「一人でやる」のではなく、JERAが主導して「みんなで進める」

ここで高橋氏が強調するのは、その進め方である。

「JERA単独ではなく、CFAA(クリーン燃料アンモニア協会)などの団体や企業複数社と、制度のあり方や事業化に向けた課題について検討を進めました。当初は、ドイツやイギリスの水素支援制度であるCfD制度(Contract for Difference:基準価格と市場価格の差額を政府が保証し、事業者の価格変動リスクを抑える制度)を参考にした日本版制度のタスクフォースを立ち上げ、具体的な内容を検討して政府に提案しました」

かつてのエネルギー業界では一社単独または電力業界だけで進めるスタイルも少なくなかった。しかし、今回、高橋氏が貫いたのは「JERAが一人で突き進む」のではなく、「主導しながら、みんなで進める」という姿勢だった。「碧南火力発電所」のある中部エリアでは、愛知県知事が会長を務める「中部圏水素アンモニア社会実装推進会議」が立ち上がり、JERAも参加。自治体や企業と一体となって、地域全体の機運の醸成や国への制度導入の訴求をしていった。高橋氏自身もCFAAの委員や各協議会の委員として、地域のキーパーソンとの関係を築いた。

こうした多重の関係構築が折り重なり、GX推進法(脱炭素成長型経済構造への円滑な移行のための国の方針を定めた法律)の制定・施行から水素社会推進法の制定、認定取得まで、わずか2年強という短期間での実現を可能にした。

「どこか一カ所が止まれば、全部止まる」連立方程式

制度設計の3年間で最も難しかったのは、複数のピースを同時に成立させることだった。

「長期脱炭素電源オークションおよび価格差支援制度募集開始に向け、制度設計、EPC(Engineering, Procurement, Construction:設計・調達・建設を一括で請け負う方式)契約の準備、調達・製造の準備が同時に進んでいました。最も大変だったのは、制度内容が確定しない中でも、①制度側②上流開発側③発電所側がそれぞれ条件に合致するよう踏ん張り続けたこと。どこか一カ所が止まれば全部止まってしまうため、お互いの許容範囲を擦り合わせながら進めました」(高橋氏)

立場の異なるプレイヤー全員が「これなら踏み出せる」と納得できる地点を探り続ける。誰か一人が降りれば、すべてが崩れる。全員が「Win-Win」になるまで、粘り強く調整を重ねた。この局面を支えたのが、経営からの力強いサポートだった。経営層を含むステアリングコミッティ(意思決定会議)において月次で議論された。

「経営トップが、毎月継続的に、開発・検討の状況を報告・議論するとともに、社外に対しても継続的に発信頂いたことで、社内・社外が一体的に取り組むことができた」(高橋氏)

大切なのは、互いを理解すること

立場の異なる多くのプレイヤーを束ね、前例のない制度を「みんなで」つくり上げる。その過程で最も大切だったと高橋氏が語るのは、技術でも交渉術でもなかった。

「やはり、お互いを理解することが一番重要でした。相手が何を考え、いつまでに何を進めなければいけないかを理解した上でつないでいく。①制度側②上流開発側③発電所側、それぞれが抱える実情・課題を正しく理解すること。それがなければ、これだけ多くのプレイヤーが同じ方向を向くことはできなかったと思います」

制度を「ゼロから作る」という前例のない仕事を、政府・自治体・他社・業界団体との「共創」として進めたこと。それを支えたのが「互いを理解する」という姿勢だったこと。それが、わずか3年という短期間で国内初のバリューチェーンの土台を整えることを可能にした。

こうして「制度」という土台が築かれた。だが、制度だけではバリューチェーンは動かない。世界のどこから、誰と組んで低炭素アンモニアを調達するのか。そして、発電所での世界初の挑戦を、いかに安全に、地域と共創しながら実現するのか。

後編では、上流開発を率いた堤 直己氏、発電所に立った坂 充貴氏の語りを通じて、それぞれの信頼と共創の物語をたどる。困難な状況に直面してなお、JERAはなぜ本プロジェクトを前へ進めることができたのか──その答えは、後編で明らかになる。

後編へ続く
株式会社JERA LCFバリューチェーン統括部長 加藤 雄一郎

株式会社JERA
LCFバリューチェーン
統括部長
加藤 雄一郎

JERAのLNG上流業務に長年従事した後、2023年4月のLCFバリューチェーン統括部発足に伴い、統括部長に就任。低炭素燃料の上流から輸送・調達・販売までを一気通貫で束ねる組織を率い、国内初の低炭素アンモニア・バリューチェーン構築をリードする。

株式会社JERA 執行役員 O&M・エンジニアリング担当 兼 国内運営統括部長 高橋 賢司

株式会社JERA 執行役員 O&M・エンジニアリング担当 兼 国内運営統括部長
高橋 賢司

2021年10月、JERA経営企画本部内に新設された脱炭素推進室の室長として、価格差に着目した支援制度・長期脱炭素電源オークション・拠点整備支援制度の3制度の創設を、政府・自治体・他社との対話を通じて主導。クリーン燃料アンモニア協会戦略委員長、中部圏水素アンモニア社会実装推進会議事務局や、各地域のカーボンニュートラル関連の協議会のメンバーも務めた。