世界に問う。

世界の潮流と
これからの脱炭素社会。

Professor & JERA

  • 平野 正雄

    早稲田大学
    大学院経営管理研究科 教授

    東京大学工学系反応化学修士了、スタンフォード大学工学系経営工学修士了、工学博士。1980年日揮株式会社入社。1987年からは、マッキンゼー&カンパニーにて経営コンサルティングに従事。主に日本の製造、消費財、通信分野の企業各社に対して企業成長戦略、海外展開、M&A、および組織改革などのアドバイスを提供した。1998年からは日本支社長として、日本における業務拡大を推進。2007年にプライベート・エクイティー大手のカーライル日本の共同代表に就任。産業材、製薬、外食、ソフトウェア開発などの多分野の日本企業のMBOを支援。2012年より現職。また、複数の企業の社外役員や顧問を務め、政府の各種委員会の座長および委員を歴任している。

  • 大滝 雅人

    LCF バリューチェーン統括部
    LCF 計画部 部長

    同志社大学法学部政治学科卒、早稲田大学大学院経営管理修士課程修了(2022年)。1998年中部電力入社。20年近くにわたり海外からの発電用燃料(液化天然ガス)調達、海上輸送、米国における新規LNG輸出プロジェクトを担当し、数々の大型案件における事業開発を手がけてきた。2021年JERAの脱炭素化を牽引するため設立されたゼロエミッション連携推進室の室長に就任し、新たなエネルギー燃料として期待されるクリーンアンモニア燃料確保に向け国際入札をリード。2023年からはLCF バリューチェーン統括部 LCF 計画部 部長として、水素・アンモニアのバリューチェーン構築、海外事業者との脱炭素に向けた事業連携などを牽引している。

    ※情報は取材当時のものになります。

01Agenda 「脱炭素」は、新たな経済成長をもたらす。

世界は「脱炭素社会」の
実現に向けて動き出しています。
お二人が考える「今、脱炭素に取組むべき理由」を
教えてください。

平野

今、私たちが暮らす地球は、気候変動の影響を強く受けています。その原因と考えられているのが、人間界から排出される二酸化炭素などの大量の温室効果ガスです。炭素ベースのエネルギー消費が高まり、温室効果ガスが蓄積することで、全球的な気温上昇が進行し、極端な気候変動や海面上昇、生物種の絶滅など、生態系と人間社会にとって深刻な影響をおよぼしているのです。脱炭素社会への移行は、これらの危機を回避し、持続可能な未来を築くための必須な道であり、人類全体で取組むべき喫緊の課題。エネルギー生産から輸送、産業、そして生活全般に至るまで、炭素排出を削減・排除することによって、温室効果を最小限に抑え、地球の気候を安定させることが可能となるのです。

大滝

まさに、今、取組むべき課題ですよね。その気候変動問題の打ち手としての「脱炭素」に、なぜ企業が取組むのかというと、人が生活する場である環境(地球)を守ることは、ひいては企業活動の根幹を維持することを意味するからです。脱炭素に取組むことが、地球温暖化を緩和し、持続可能な未来を築くというインセンティブにつながっていくことになります。そもそも、企業が存在するパーパスは、「よりよい社会を実現するため」であり、「人々を豊かにするため」でもあります。脱炭素に向けた取組みは、社会全体に対して、果たすべき責任のひとつだと言えるでしょうね。

平野

そうですね。さらに、脱炭素社会への移行は、新たな経済的機会を創出する可能性も秘めています。再生可能エネルギー・電気自動車・エネルギー効率技術をはじめ、新たな産業と雇用機会が生まれることが期待されているのです。言い換えれば、脱炭素社会への移行は、緊急性を持つ地球環境問題の解決と、新たな経済成長の推進という、二つの大きな目標を同時に達成する道であると言っていいでしょう。

大滝

その通りだと思います。脱炭素への取組みは、従来の事業モデルや技術では不十分であり、事業転換やイノベーティブな技術、事業機会を生み出さなければならない。クリーンエネルギーや持続可能な技術に対する需要も増えていますから、こうした領域で積極的に事業を展開することで、成長の機会と利益を得られる可能性が高まっていくはずです。

02Agenda 社会全体の意識と行動変革を。

「脱炭素社会」の実現に向けて、
社会はどのような課題に
直面しているのでしょうか。

平野

脱炭素社会への道は、複数の大きな課題を内包しています。ひとつは、技術的な挑戦です。炭素排出を大幅に削減・排除するためには、再生可能エネルギーやエネルギー効率に関するイノベーションはもちろん、電動輸送手段、そしてカーボンキャプチャなどの新たな技術開発が求められます。そして、脱炭素化に向けて必要な技術は実に広範にわたるものです。例えば、再生エネルギーは、非常に不安定な電源ですから、安定供給を考えた場合、蓄電技術の進化が求められることになりますし、ロスなく送電する技術も必要となるわけです。

さらに、これらを商業的な規模で実現するためには、それに伴う大規模な資金投入が不可欠です。もうひとつは、経済的・社会的な課題です。石炭、石油、ガスなどの化石燃料産業が経済の大きな部分を占めている国々では、脱炭素化は雇用や地域経済への大きな影響をもたらす可能性があります。この影響を最小限に抑えつつ、新たな産業や雇用を生み出していくには、社会全体での調整と政策的な支援が必要不可欠だと言えるでしょう。

大滝

平野先生が示してくださったように、脱炭素化には巨額の投資が必要です。そこでは、常に「鶏と卵」の議論が尽きません。誰がリスクを取るのか、先んじて投資した巨額の資金を回収できるのか。この問題が解決しないと脱炭素化へのスピードも鈍ってしまいますよね。だからこそ、企業や政府だけでなく、個人を含むすべての人々が環境への負荷を減らすための行動を取る必要があるのではないでしょうか。

エネルギーの節約、再利用・リサイクルの促進などはもちろん、新エネルギーの導入には相当な経済的負担を強いられる可能性があるわけです。その負担について認知し、受容する。社会全体の意識と行動変革が求められるのだと思います。

平野

そうですね。脱炭素社会の実現は、単なるエネルギー転換ではなく、人々の生活様式や行動様式、つまりは価値基準の変革であるのですから。さらに付け加えるとすれば、社会的公正性の問題も意識すべきでしょうね。クリーンエネルギーへの移行は、新たな技術やサービスへのアクセスが不均等になってしまうリスクを抱えています。「エネルギー貧困」を避け、すべての人々が恩恵を受けられるような社会を形成しなければいけません。

03Agenda 脱炭素化への道は、ひとつではない。

脱炭素社会の実現に向けた、
「世界の今」について教えてください。

平野

国によって、経済力や国土の広さ、地理的な条件は違います。一概に括ることはできませんが、経済力と国土に恵まれた米国や欧州では、風力・太陽光・水力・地熱などの再生可能エネルギーへの転換が急激に進んでいます。これらの国では、政府が大きな補助金を出し、産業政策として支援しているのです。

それによって、産業競争力は高まり、すでに多くの地域で再生可能エネルギーがコスト競争力を持つまでになっています。ただ、前述したように脱炭素化への道のりはひとつではありません。経済合理性や国際社会への影響、現在の生活水準を維持・向上することを意識しながら、それぞれに合った道を選んでいくことが大切なのです。

大滝

そうですね。「Sustainability(持続可能性)」「Affordability(適正な価格)」「Stability(エネルギーセキュリティを含む安定供給)」を同時に実現しながら、脱炭素化をしていく。このことは非常に難しい課題であり、重要なことだと考えています。急速に再生可能エネルギーに転換していくことは、確かに素晴らしいことなのですが、それによって大きな弊害も生まれています。

再生可能エネルギーは天候に大きく左右されるもの。実際に欧州では、風が吹かずエネルギー不足に陥り、急にLNGや石炭の買い占めに走ったため燃料は高騰。ロシアのウクライナ侵略が追い打ちをかけ南アジアを中心とした多くの国で燃料が不足し、停電が発生してしまったんです。今、大切なのは、新しいエネルギー供給のオプションを創造していくこと。ひとつでも多くの供給方法を持ち、多様なオプションを組み合わせることで、問題解決の糸口が見えてくるのだと私たちは考えています。

04Agenda 不利な条件を技術で覆す。

一方、日本の状況はいかがでしょう。

平野

日本は島国であり、海外とつなぐパイプラインも送電線もなく、また風力発電などの再エネルギーの普及も地理的には不利な条件にあります。したがって、この日本の実情に合ったエネルギー政策が必要であり、脱炭素社会への移行には技術と社会両面でのイノベーションが必要です。経済性を考慮するなら、既存の設備を活かしながら転換していくことが求められるでしょうし、さまざまな影響を考慮するなら、化石燃料を組み合わせながら段階的に転換していくことも必要です。

日本は2050年のカーボンニュートラル実現を掲げていますが、いきなりすべてを再生可能エネルギーに転換するのでは現実味がありません。海外から日本はペースが遅いなどと指摘されることもありますが、日本には日本に合った独自のパスが存在します。

その重要性を理解してもらうことは、きわめて重要なこと。段階的にうまくバランスを取りながら、新たな技術を生み出していく。そのソリューションは、日本と同様の条件にある新興国にも貴重な財産になっていくものです。JERAが取組む「ゼロエミッション火力」などは、その象徴的な事例だと思います。

大滝

ご期待に応えられるよう、JERA社員が一丸となって取組んでいるところです。「ゼロエミッション火力」は、既存の火力発電設備に水素・アンモニアという脱炭素燃料を混焼、さらに専焼化させていく画期的な技術です。JERAは2050年に向けたロードマップを公表していますが、この取組みは3つのアプローチのひとつとなっています。本邦パートナー企業と協働しながら技術開発を進め、今年度末には碧南火力発電所で大規模な実証実験が行われる予定です。

そのメリットは、既存の発電設備を使いながら、CO₂の削減を図れることにあります。また、クリーンな燃料であるアンモニア・水素の輸送に関しても、海運会社の皆さんと連携しながら、さまざまな取組みを行っているところ。バリューチェーンの構築はもちろん、CO₂を出さない船を開発するなど、デリバリーにおいても脱炭素化を進めていこうとトライしているところです。これらの取組みは、世界的にも大きな注目を集めています。

まずは、20%のアンモニア混焼から
スタートするそうですね。

大滝

人によっては「20%だけなの?」と感じるかもしれません。現在利用可能な技術と向き合いつつ、しかしながらよりスピード感をもって一歩踏み出すことが重要であると考えています。原料調達の観点でいうと、現在主に肥料用途に用いられるアンモニアの国際取引市場に大きなリスクが生まれかねないんです。

例えば、国内のアンモニア消費量は、およそ100万tと言われています。碧南火力発電所の1ユニット(100万KW)で20%混焼を行うとアンモニアは年間およそ50万t必要ですから、それだけで消費量が大幅に増えることになるわけです。私たちが必要以上にアンモニアを買い占めることで、農産物の価格に影響してしまってはいけません。そのため、私たちは海外で新たにクリーンアンモニア製造プロジェクトを立ち上げ、供給を確保する。さまざまなステークホルダーの皆さまへの影響に配慮してこの挑戦を進めています。

平野

それだけ、さまざまな影響を考慮して、最適なパスを描いているということです。もちろん、発電の手段もこれひとつではありませんよね?

大滝

はい。JERAは、再生可能エネルギー分野にも注力しています。ただし、化石燃料で発電をしてきた私たちは、その分野に精通した人財を多く抱えてきたわけではありません。その点はM&Aを積極的に行い、新たなパートナーシップをもって向き合っていこうとしています。ベルギーの洋上風力会社『Parkwind』や、国内の再エネルギー会社『グリーンパワーインベストメント』の買収は、その象徴的な事例です。

さらには、台湾のFormosa2プロジェクトなど、自社がリードする洋上風力プロジェクトも多く手がけています。エネルギートランジションに向けて世界的にみてもかなりのスピード感と投資規模で変革を進めていますので、海外の企業さまからも注目いただき、協働の可能性などを議論する機会は多いです。

05Agenda JERAが革新のハブとなる。

平野

日本は2050年のネットゼロ達成を掲げています。JERAは、それを実現するためのトランジションマネジメントを担っていく会社です。電力会社の再編で生まれた企業であるのに、自らの存在意義を「電力会社ではなく、エネルギーのソリューション提供会社」と定義し、新たなソリューションの構築にチャレンジしていることは、本当に素晴らしいことだと思います。

その技術がもたらす価値は、日本にとどまらず、日本と国柄の似た、さらなる経済発展を目指す国々にとっても重要なもの。安価で安定的なエネルギーを必要とするインドを含む東南アジアの国々に提供することで、エネルギーおよび環境問題に対して解決しようとしていることに、頼もしさを感じます。そして、エネルギーの安定調達のためには、諸外国との連携が不可欠です。規模と技術力を持つJERAは、そのハブとなれる存在。大いに期待していますよ。

大滝

ありがとうございます。JERAにはこれまでのエネルギー事業で培ったネットワークがありますし、これからもそれを広げていくことになります。現在は、欧州などの地理的条件のよい先進国と、アジアを中心とした地理的条件の悪い新興国の間に「分断化」が起こっている状況です。それぞれの国で経済活動における優先順位も異なりますので脱炭素に向けての時間軸は一様ではない。スピード感をもって、脱炭素化に取組める国もあれば、そうでない国もあります。

大切なのは、それぞれの国が持つ特性をうまく組み合わせて、バランスよく、ソリューションをブラッシュアップしていくことだと考えています。私たちは、自分の利益になるソリューションをつくって、押し売りする企業ではありません。共に歩み、共につくる。

その点は常に意識しているところです。アジアには、エネルギーや金融をはじめ、イノベーティブな企業がたくさんあります。アイディアを実現する上での意思決定も早く、私たちも大きな刺激をもらえているんです。そんなパートナーたちと人類が抱える課題を解決する価値を生み出していきたいと考えています。

脱炭素化実現の目標は2050年。その時代を担うのは、
これから社会に出る若い人財たちです。
最後に、そんな若者たちに向けて、メッセージをお願いします。

大滝

私のチームでは、数多くの若手メンバーが活躍しています。特に驚かされるのは、若い方々の意識の高さ。ぼんやりではなく、「脱炭素に貢献したい」「革新的なソリューションをつくりたい」と明確にやりたいことを持っています。メンバーとフラットに議論を重ねていると、その考え方やビジネスのやり方に学ぶことが多くあります。

私自身、そうした仲間たちと同じビジョンを共有しながら、共に未来を創造していける仕事を心から楽しんでいます。今を生きる若い方々には、無限の可能性があります。正解をひとつと決めつけず、多くのオプションを持ちながら、どんな厳しい場面にも対応できる柔軟性と即応性を高めていってください。前例や常識に囚われていては、イノベーションは起こせません。ピンチをチャンスとして捉え、チャレンジする姿勢を貫いていってほしいですね。

平野

今、私たちは、地球の生態系と我々人類の生存を守るための重要な岐路に立っています。そして、その岐路をどのように進むべきかを決めるには、次世代の思考と行動が大きく影響します。脱炭素社会の実現は、単なる技術的挑戦以上のものです。それは社会全体の転換、経済の再構築、そして価値観の変革を必要とします。その中心に立つのは若者の創造性、勇気、そして情熱です。

そして、皆さんには、持続可能な未来を築くための新しい技術を開発し、新たな社会システムを設計し、すべての人が公平に利益を得られるような新たな経済を創造する役割があるのです。世界各国では、若い世代が脱炭素を希求し、発言力を高めています。脱炭素はすべての分野に関わってくる課題です。皆さんのクリエイティビティとコミットメントに期待しています。

To The Borderless World

今こそ、やらなきゃダメなんだ。

脱炭素化は人類の革新。
あなたのコミットメントが
次の社会を切り拓く。

平野 正雄

ピンチはチャンスだ。
前向きなチャレンジで
「革新」を成し遂げよう。

大滝 雅人

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