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財務戦略(CFOメッセージ)IR情報

CFOとしての企業価値向上に向けた取り組み

酒入 和男

取締役副社長執行役員
Chief Financial Officer
(CFO)

酒入 和男

今次、電力業界においては、地政学リスクの顕在化等から、安定供給に対する重要性の認識が急激に高まっていることに加え、世界各国の異常気象に見られる気候変動への危機感から、脱炭素社会の実現に向けた動きが世界規模で加速しており、当社を取り巻く事業環境は大きく変化しています。こうしたことからも、当社が掲げるミッション・ビジョンを達成することの重要性とともに、特に2022年度は、当社の経営の舵取りの難易度が年々高まっていることを強く感じる年となりました。こうした状況下、当社経営課題に対し適切な判断を下すため、私が意識していることを2点申し上げます。
一つ目は、グローバル化を進める当社のCFOに求められる責任範囲が広がり、多様化していることです。
私は、2019年4月に当社にCFOとして入社する前は、金融機関や独立系のM&Aアドバイザリー会社において、日本企業だけでなく、海外企業のM&Aや統合におけるガバナンス体制の構築、意思決定のプロセスに、アドバイザーとして関わってまいりました。それらのキャリアにおいて、グローバル企業のCFOは、いわゆる財務・経理分野の専門家というだけでなく、CEOの参謀役として、または、代理人として、社内外のステークホルダーとのエンゲージメントを通じて企業価値の向上に貢献する存在でなければならないことを学びました。
当社は、設立当初より、世界のエネルギー企業と伍して戦える日本発のグローバル企業を目指していますが、私が入社して以降4年程度の間にも、アジア企業への出資、海外上流資産への投資、米国西海岸やドイツのスタートアップへの出資、欧州の大型再生可能エネルギー企業の買収等、グローバル戦略の実現に向けた取り組みを加速させています。また、シンガポールには、フランス大手電力EDFの子会社であるEDF Trading社との合弁の形で、燃料のアセット・バック・トレーディングを手掛ける世界最大規模のトレーディング会社の3分の2の株式を保有し、日本の安定供給の責任の一端を担っています。さらには、当社の経営に必要となる人財のスキルマップを策定し、それに合致する社外取締役や、執行役員、幹部社員として、異なる業界、分野で活躍している外国人のプロフェッショナルを数多く招聘しています。こうしたプロセスを経て、当社のCFOは、グローバル企業を意識した、より多様な責任、役割をカバーする必要が高まっていると認識しており、私自身、このCFOの役割を強く意識して、当社の企業価値向上をリードしていきたいと考えています。
二つ目は、当社の人財の力・組織の力を強化する必要性についてです。
上に挙げたCFOの役割の実践、企業価値の向上は、到底、私個人の力だけで成し遂げられるものではありません。グローバルに戦うために必要なスキルや経験に加え、活力と多様性に満ちた人財を結集すること、また、その人財が期待通り、または期待を超えるシナジーを発揮できるよう、縦割りの仕事の進め方を廃止して、フラットで風通しが良く、横の連携が自由にできるチーム体制を作ることが重要だと考えています。
こうした考えに基づき、本社の財務・経理部門に所属する160名弱の人財に対しては、社内外の多様なステークホルダーから高く評価されるプロフェッショナルを目指そうと呼びかけ、財務・経理部門のビジョンに明記しています。また、財務・経理部門では、「社内外のステークホルダーと真摯に向き合い、財務・経理的インテリジェンスを提供することで、マネジメントの意思決定をサポートするとともに、 BSの右側(負債側)からの企業ガバナンスの役割を果たし、企業価値向上に貢献する」というミッションを掲げています。具体的には、「『サステナブル経営基盤』×『経営の羅針盤』×『スポークスパーソンの提案』を通して、企業価値の毀損からJERAを守り、企業価値向上を実現する経営の意思決定に貢献しよう」「そのためには、社内の仲間、社外のステークホルダーとの関わりを大切にし、そこから上がってくる情報、意見に真摯に耳を傾けながら、財務・経理expertiseを持つ人財、組織の力を最大化することが必要だ」と呼びかけています。
今述べたような、財務・経理部門の力を最大化するためには、人財の多様性と、役職員一人ひとりが持てる力を最大限発揮できる組織風土を醸成する必要があります。財務・経理部門では、両株主会社からの転籍人財に加え、プロフェッショナル人財を、国籍やジェンダーを問わず積極的に採用しており、2023年7月1日時点で、本社の財務・経理部門に所属する160名弱のうち6割程度をキャリア採用人財が占めています。また、財務・経理関連の業務を担当している人財は、本社人財に加え、JERA AmericasやJERAAustralia、買収したParkwind社を中心に、海外に90名程度在籍しており、その中には、本社より派遣した10名程度の人財が含まれます。これは、新しいことにチャレンジする気持ちを持つ中堅、若手を積極的に海外拠点や海外子会社、出資先等に派遣し、多様な経験を積んでもらおうという取り組みの一環です。さらに、本社と海外拠点を合わせた財務・経理部門全体の女性比率は3割強(本社は2割弱)ですが、今後も積極的な採用を進め、現在2割強(同1割程度)に留まっている女性管理職比率の向上を進めていきます。こうした取り組みを着実に進めるとともに、国境を跨いだ横串機能を持つプロジェクトチームを複数組成して、グローバルレベルで強固なOne Teamの結成を実現します。
私は、グローバルCFOとして、上記二点を重視して、当社グループの成長と発展を後押しするとともに、同時に、常に資本コストを意識した経営を行うことで、企業価値の最大化を目指します。

JERA Americasの財務・経理部門のメンバー

JERA Americasの財務・経理部門のメンバー

2022年度の振り返りおよび経営目標の進捗

当社は、2019年4月に、2025年度連結純利益2,000億円(期ずれ除き)という目標を掲げ、2022年5月には、規律ある成長と企業価値の最大化を目的とし、収益性、資本効率性、成長性、財務健全性に関する経営目標も定めました。目標に対しての進捗は、総じて順調と捉えておりますが、引き続き、様々な取り組みを進め、目標の達成に向けて全力で努めてまいります。

連結純利益

2022年度はフリーポートLNG基地の火災影響によるLNGスポット調達影響や推定的債務計上等による減益もあった一方で、ロシア・ウクライナ情勢による不安定な燃料市況の中でJERA Global Markets(以下、JERAGM)の欧州を中心とした取引拡大による増益等により、連結純利益は2,003億円(期ずれ除き)を確保しております。
JERAGMによる増益は一時的なものであると捉えており、2023年度以降はそういった一時的利益の減少等が見込まれますが、引き続き、2025年度目標連結純利益2,000億円の達成に向けて、努めてまいります。

シナジー効果

2019年4月に公表した事業計画で掲げた「既存火力発電事業等の統合から5年以内(2025年度まで)にシナジー効果1,000億円以上/年を創出する」とした目標については、2022年度の時点で1,200億円の創出を実現でき、当初目標から1年前倒しで達成することができました。両株主からの当社への資産、事業統合完了から4年経過しましたが、PMI(“Post Merger Integration”)は完全に終了し、今後は2022年に公表した経営目標を実行に移すステージに入ったと認識しています。

バランスシートマネジメント

<総資産>

総資産は、JERAGMにおける燃料数量調整の取り組みにおいて、「デリバティブ債権・債務」として両建てで計上している取引の未決済残高時価影響等により高い水準となりました。資源価格の動向により金額が大きく変動する可能性があるため、今後も注視してまいります。

<有利子負債・純資産>

2022年度は、電力の安定供給に対応するためのスポット調達および資源価格高騰等の影響を受け、営業キャッシュ・フロー回収までの間の運転資金需要が拡大したため、多額の資金調達を強いられました。しかし、短期を中心とした借入や社債の発行に加え、トランジションローンや外貨建て社債を発行する等、資金の確保とともに、資金調達の多様化にも取り組みました。この結果、今後の資金調達基盤の拡充とともに調達マーケットの多角化を実現できたと考えております。
その一方、2025年のNet DERを1.0倍以下という目標を掲げている中、2022年9月末時点では有利子負債が3.5兆円まで増加し、Net DERは1.66倍まで悪化しました。燃料市況が不安定な中、当該状況が長期化するリスクが想定されたため、2022年12月に965億円のハイブリッド社債を発行、2023年3月に2,000億円の永久劣後ローンの借入を実行し、Net DERの改善に努めました。その後、燃料市況も良化し営業キャッシュ・フローも回復基調となったことで、2023年3月末のNet DERは1.01倍まで改善しております。また、資本効率性を示すROICも2022年度実績として4.4%となり、2025年度目標値に迫る水準となりました。

資金の確保と資金調達の多様化に尽力するコーポレートファイナンスを担当するメンバー

資金の確保と資金調達の多様化に尽力するコーポレートファイナンスを担当するメンバー

新経営目標

経営指標 2022年度 2025年度目標値
収益性 当期純利益 2,003億円 2,000億円
EBITDA 5,740億円 5,000億円
資本効率性 ROIC 4.4% 4.5%程度
WACC 3.5%程度
成長性 投資CF 3,694億円 2022~2025年度累計
14,000億円程度
財務健全性 Net DER 1.01倍程度 1.0倍以下
Net Debt/EBITDA 3.7年 4.5年以下
  • 燃料費調整の期ずれ影響は除く。

キャピタル・アロケーション

2022年度は上期と下期でキャッシュ・フローの状況が大きく変化しました。上期については資源価格高騰等の影響による期ずれ差損の拡大を受けて営業キャッシュ・フローは大きく悪化したため、フリ-・キャッシュ・フローは約9,000億円のマイナスという状況でした。下期は燃料市況が良化したことで、2022年度通期では営業キャッシュ・フローが4,500億円程度に改善し、最終的にはフリー・キャッシュ・フローは約800億円のプラスとなりました。
2022年5月公表時点では、2022年度~2025年度までの合計4年間で、営業キャッシュ・フローを中心とした1兆6,000億円程度のキャッシュ・フローは、1兆4,000億円程度のCAPEXに積極的に配分する予定としておりました。直近ではベルギーの大手洋上風力発電事業者Parkwind社の買収や、国内再生可能エネルギー発電事業者であるGPI社への出資を決定するなど、成長と同時に脱炭素に向けた取り組みを積極的に進めております。これらの投資に際しても、健全な財務基盤を維持することを前提に検討した経緯があり、財務戦略目標の存在が効果的に機能した結果と考えております。現時点では、営業キャッシュ・フローおよびCAPEXともに概ね、2022年5月に公表した計画通り推移していると見ております。

キャピタル・アロケーション

中長期戦略の実現に向けて

当社を取り巻く経営環境の変化に気を抜くことはできないものの、目標に対する進捗は総じて順調です。目標達成の確度が高まった段階で次期成長目標を公表する予定ですが、中長期戦略の着実な推進に向け、その柱となる再生可能エネルギー、水素・アンモニア領域中心に、2025年以降も不断の成長投資を行う所存です。旺盛な成長のための資金需要も見込まれまるため、収益性の水準を着実に伸ばしていき、投資から成長へ、そして新たな投資へと循環を紡いでまいります。2025年度以降の財務戦略も検討していき、CFOとして成長投資を支える財務基盤の強化に向けた施策を着実に推進してさらなる企業価値向上を目指してまいります。